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16.朝食の席で

お読みいただきありがとうございます。

 ◆◆◆


「結局新たな奇襲はなかったようだね」


 明け方。常であれば空がゆっくりと白み出している時刻だが、本日の天気は生憎の雨模様だ。シトシトと雨粒が降り続く窓の外で、悪天候にもめげない小鳥がチュンチュンと鳴いている。


「うん、何よりだ。鷹神様に聞いたところ、皇国の方も無事で、神事ももう終わると言っていたよ」


 ラミルファとフロースがポツポツと言葉を交わしている。今は早めの朝食中だ。皆、早くに目が覚めてしまい、夜明け前に起き出して来た。

 フルードに案内され、護衛役のフレイムを伴って夜明け前にさっさと神器への登録を済ませたアマーリエとリーリアは、大部屋に戻って早めの朝食を摂っていた。オーネリアとリーリアは夜勤中だが、なりゆきで共に食卓に付いている。聖獣たちもアマーリエの後ろで大人しく座っていた。


 壁際に開いた穴の奥から漂うのは、芳しいバターとコーヒーの香り。時空神が厨房設備を整えた異空間を創り、大部屋と繋いでくれた。


「卵料理のお代わりいるか〜?」


 穴からひょこっと顔を出したフレイムが聞く。料理中なのでエプロンにキャップ姿だ。


「スクランブルエッグをもう一つお願い」

「オムレツが欲しいです」


 アマーリエとフルードが即応した。他の聖威師たちも全員『お代わり!』と手を挙げる。


「おー。具材とソースと、あと焼き加減はどうする?」


 すぐさま、『チーズと玉ねぎにして!』『ハムとマッシュルームが良いです』『トマトソースお願いしますー!』『焼き加減は半熟で』『バターたっぷりで!』『砂糖なしだと嬉しいです』等々の注文が飛び交う。あまりに美味しすぎて、オーネリアやライナスですら遠慮がなくなっている。


「へいへーい」


 それらを全て正確に聞き分け、フレイムが引っ込む。喧喧諤諤な状態にも全く動じていない。


「先ほど佳良様から念話がありました。昨夜の襲撃について詳細を確認したいので、日勤の業務が始まる前に皆で集まれないかとの提案です」


 美しい所作でサラダを食すオーネリアが言った。隣では、ライナスがデミタスカップを傾けている。彼は朝は紅茶よりコーヒー派らしい。


「今の時間であれば、神官の連絡や訪いも多くはありません。突発的な神器暴走や神荒れなどが発生しない限り、時間が取れるかと思います」


 何しろ、まだ日が出て来たところだ。日勤の神官たちも来ていない。急用者には念話で連絡を取ってもらえば良い。


「朝食が終わったら天堂(てんどう)に集合しましょう」


 天堂。神格を持つ者だけが踏み入ることを許される、特別な棟の最上階にある広間だ。その棟は、人世から切り離された異空間にある。天の神に関する重要な機密情報を話し合う場合や、天威師、聖威師、降臨中の神が集う際に使用されることが多い。


「日中に襲撃があった場合、一般神官の避難も必要になるでしょう。昨夜は夜間の出来事であり、神官長補佐室の中で片が付けられましたが……今度もそうなるとは限りません」


 自分の中で整理するように語りながら、細かく刻まれたドライフルーツが入ったリュスティックをちぎり、オムレツのソースを付けて口に運んでいる。貝と海老が入ったホワイトソースだ。


「葬邪神様を勧請し、降臨いただいておいた方が良いでしょうか」


 アマーリエもパン籠の中からワッフルを取った。クリームチーズと、もう一つ何を付けようか考える。ハチミツとストロベリージャムで迷ったものの、甘酸っぱいイチゴの誘惑に勝てずジャムを選んだ。


「アレクはこの後私が呼んで来よう」


 聖威師たちの会話を聞いていた時空神が微笑んだ。フロースとラミルファと共にテーブルの一角に座っているが、食べてはいない。


「ありがとうございます、時空神様。助かります」


 フルードが礼を言っていると、ラミルファが立ち上がり、厨房の穴に向かって声をかける。


「フレイム、僕の朝食はまだかい?」

「だからあるわけねえだろお前の分なんか! 自分で作れって!」

「ではモーニングティーは?」

「知らねえよ、ほら!」


 穴からピューンとティーバッグが飛んで来た。ちなみに、聖威師たちの紅茶はきちんと茶葉から淹れている。


「ふむ」


 ティーバッグをしげしげと眺めた邪神は、細い指先で紐を摘み、クルクル回しながら卓に戻る。


「あの、私の紅茶がまだポットにあるので、お注ぎしましょうか?」


 チーズとジャムのワッフルを堪能していたアマーリエは、そっと声をかける。天の神に自分の残り物を出すのも失礼な話だが、インスタントよりはマシではないかと思ったのだ。だが、ヘラリと笑って受け流された。


「いや、たまにはこういう安物も良いだろう。この僕にかかれば、邪神パワーでティーバッグでも最高級の味にできるのだよ」

ありがとうございました。

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