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15.それは盛大なフラグ

お読みいただきありがとうございます。

 ◆◆◆


 広大な部屋にずらりとベッドが並ぶ大部屋で、適当に場所を決めたアマーリエたちは、自身の寝床に身を横たえた。すっかり目が冴えてしまったが、今は深夜である。朝まで体を休めておく方が良い。

 ラモスとディモスは部屋の隅に行こうとしたものの、良いから良いからと皆に押し切られ、遠慮がちにアマーリエのベッドの足元で丸くなっている。


 夜勤当番のオーネリアとリーリアは起きていようとしたが、奇襲を受けたショックもあるので心身を労った方が良いということになり、ちょうど書類仕事も落ち着いていたことから、このまま仮眠を取ることになった。


 フレイムたち神々の分のベッドもあるが、誰も使っていない。それぞれ、椅子にかけたり壁やテーブルにもたれたりしている。襲撃を警戒しているのだろう。


《アマーリエ。寝ている気配がありませんが、起きていますか?》


 フルードの念話が響いた。彼のベッドはすぐ隣だが、静まり返ったこの部屋では、小声でも響いてしまうので念話にしたのだろう。


《ええ、眠れなくて》

《では、少し話をしましょう。……あなたに一つ、聖威師としてやってもらわなくてはならないことがあります》


 顔色の悪いフルードが、静かにアマーリエを見据えている。


《はい、何でしょうか?》

《神官府で管理している神器の一つに、秘奥(ひおう)の神器と呼ばれるものがあります。そこに自身の情報を登録して下さい》


 それは遥か悠久の昔――まだ神と人が地上で共存していた頃に、最高神が人間に授けた神器だという。大規模な天災や事故などが起こった時、神を呼びに行かずとも自分たちで対処したいという人間の願いに応じて下賜された。当然、その力はとても強大だ。


《現在、秘奥の神器の保管及び管理と使用は、主任神官が担当しています》


 人間に対して授けられた物なので、神たる聖威師ではなく、霊威師の頂点に立つ主任神官が運用の一切を担っているという。


 人が神から独立し、両者が天と地に分かれた際、秘奥の神器は回収されず地上に残された。今後は自らの力で大地を生きていく人間が、それでも追い込まれてしまった時に使う、最後の手段として。


《もちろん、暴走時は聖威師が止めなければなりません。ただ、最高神方が協力してお創りになられた秘奥の神器は特殊な物で、暴走時の鎮め方が通常の神器と違うのです》

《鎮静化と正常化では無理ということですか?》

《はい。秘奥の神器を強制停止させるための専用神器が存在しています。その専用神器に触れれば、秘奥の神器は止まります。しかし、過去に強制停止を行おうとした聖威師が、専用神器に近付いた際、秘奥の神器は彼を激しく攻撃したそうです》


 その聖威師は即死し、その場で昇天したそうだ。秘奥の神器には、遊運命神の神罰のように、止めさせないという本能のようなものがあるのかもしれない。


《停止用の専用神器に近付くことは、命懸けの行為だと思って下さい。また、単に触れさえすれば良いわけでもありません。聖威師はあらかじめ体の一部を専用神器に登録しておき、停止の際は同じ部位を当てる必要があります》


 秘奥の神器が起動していない時であれば、停止用の神器に近付いても攻撃はされないという。


《私は右手の人差し指を登録しています。アマーリエとリーリアも、なるべく触れやすい箇所を登録しておいて下さい》


 他の聖威師たちは既に登録済みだという。やはり指を登録している者が一番多いらしい。


《さらに、秘奥の神器及び停止専用の神器を使う際は、一対一でそれらと向き合わねばなりません。他の神の力や、他の人間を挟むことは厳禁なのです》

《他の神の力を借りられないということですか?》

《そうです。ですから、例えば私が秘奥の神器を止めるために停止用の神器を起動させようと思えば、焔の神器の助力は請えません。邪神様のご加護が込められた上衣も脱ぎ、単独で対峙することになります》


 強引に他の神の力を借りれば、その時点で秘奥の神器と停止用の神器は大爆発を起こし、世界をもろとも塵にするそうだ。


《そんなリスクがある神器なので、そもそも滅多に使われません》

《当然だと思いますよ!? どうしてそんなに条件やら制限やらが細かいのですか!?》

《先ほども言いましたが、最高神の神威を集めた特殊な神器だからです。簡単に止められるならば、気軽に使ってしまうでしょう。いよいよとなった時の最終手段として用いる神器なのに、乱用するのは良くないということで、容易には停止できないようになっているようです》


 万一暴走した時、簡単には止められないというリスクを踏まえると、使用には慎重になる。それで良いのだという。


 ただし、暴走した神器が停止用の神器に結界を張り、手出しできないようにしてしまえば、どう頑張っても止めようがなくなる。停止者への攻撃に加え、守備まで完璧になってしまうからだ。それはさすがに酷だということで、そういった防御行為は行わないというストッパーが施されていた。


 また、周囲を制圧して聖威を使えなくさせることもないよう手心が加えられている。聖威を封じるようにしてしまっては、本当に誰にも止められなくなるため、本当に最終手段が必要になった際にもリスクを考慮すると使えなくなってしまい、本末転倒になるからだ。


《三千年を超える神官府の歴史の中で、秘奥の神器が使われた回数は僅か数回。使途はその時々で違いますが、聖威師がギリギリ出動できない規模の災害から人々を助けるために使われたこともありました》


 フルードは話し疲れたように息を吐いた。


《使われることが少ない神器ですから、停止作業が必要になる状況になる可能性は低いでしょう。しかし、万一もあります。後で停止用の神器の元に案内しますので、指かどこかを登録しておいて下さい》

《分かりました》

(滅多に使われないのだから、暴走しないわよね)


 使わずともメンテナンスを怠るだけで不具合を起こす神器もあるが、今の物に関しては中央本府の主任神官が直々に管理しているのだ。きちんと規定通りの手入れをしているはずなので、狂うことはないだろう。そこまで心配しなくても大丈夫。アマーリエはそう思った。


 ……世間では、それをフラグという。

ありがとうございました。

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