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33.運命神ルファリオン

お読みいただきありがとうございます。

 ◆◆◆


 温度が無い。感覚が無い。色が無い。

 ばら撒かれた荒い砂粒に水分という水分を奪われ、無味乾燥になった白黒の世界。潤いを失くした大地がひび割れ、刃物のように尖った裂け目が容赦なく心を抉る。

 鉄球を付けられたように重い足を引きずって一歩ずつ進み、どうにか自室の扉を開ける。


「おぅ、お帰り……」


 いつも通り、こちらを見て笑いかけた山吹色が凍り付く。


「な……アマーリエ!? どうしたんだ!?」

『主!?』

『何かあったのですか?』


 ラモスとディモスも、心配そうにふかふかの体をこすり付けて来た。


(ああ、私……きっと酷い姿をしているわ。きっと幽鬼みたいな顔になっているし、髪と衣は雨と泥でぐしゃぐしゃだもの)


 だが、もう何もかもがどうでも良かった。力を振り絞って扉に鍵をかけたところで力尽き、グラリと体が傾いだ。


「……リエ。アマーリエ!」


 肩を掴まれて揺さぶられた衝撃で、遠のきかけていた意識が浮上する。アマーリエは、緩慢な仕草で前方に視線を投げた。


「どうしたんだ!? 一体何があった!?」

「フレイム……」


 軽く揺れるワインレッドの髪と、こちらを覗き込む瞳を見て、暖かさというものの存在を思い出した。フレイムの左右に並ぶ形で、霊獣たちも寄り添ってくれている。


「ミリエーナが……聖威師になったわ」

「は……?」

「すごいわ。きっと神使に選ばれるとは思っていたけれど、そんなレベルではなかった。まさか愛し子に見初められるなんて。本当に、私とは違う世界の人だったのね」

(女神様になられたのだから、人と言うのももうおかしいのかしら)


 捨て鉢に考えるアマーリエの前で、フレイムが呆気に取られている。


「あのバカ妹に寵を与える? 正気か? どこの神だよ、それ」

「9年前に私が勧請して、不快にさせてしまった高位神よ。こんな形で再会するなんて思わなかったわ」

「なっ、お前を汚いだとか言って罵った訳分かんねえ神か!?」

「もういいの、フレイム。あなたは私との出会いが特殊な形だったから、必要以上に私に肩入れしてくれているだけなのよ」

「いや、それは違……」

「私が的外れだったんだわ。ミリエーナが聞いた声はおかしいだとか、見当違いのことばかり言って……神様に叱られちゃった。私は間違いだらけだって。ミリエーナより優れているところなんか一つもない、正真正銘の出来損ないだって」

「――あぁ?」


 フレイムの声が一段低くなった。


 ◆◆◆


 ――あの後。斎場に降り出した雨は、聖威師たちが張った結界により弾かれた。星降の儀は粛々と続き、天から見ていた神々が何柱か神使を選び出したものの、ミリエーナに続いての聖威師の誕生は起こらなかった。

 やがて主祭の行程は無事に終了し、狼神を始めとする神々は天へと還って行った。

 ただし、少年神とその周囲に(かしず)く神々は地上に残った。


『せっかく選んだばかりの愛し子と、もう少しだけ一緒にいたいのだよ』


 ミリエーナを優しく見つめながら無害そうな笑みを浮かべる少年神を、フルードたちは神官府に招いてもてなそうとした。しかし、その提案はやんわりと拒まれた。


『気遣いは嬉しいけれど、僕は愛し子の家に行ってみたい。ああ、僕の従神たちも来させてあげておくれ』


 述べられた要望にフルードたちが返答する前に、当のミリエーナが大喜びで申し出を快諾したため、少年神は己を取り囲む神々と共にサード邸にやって来た。

 そして、最上級の客間に通されると、同席したダライとネイーシャにも温かな声をかけ、慈悲深い態度で接した。


 アマーリエもダライに引きずられ、雑用聞きとして客間の隅に同席させられたが、そこで少年神から声をかけられた。


『やぁ久しぶりだな、不細工なお嬢さん。9年越しだが相変わらず醜い気だ。あの時は貴様などと呼んでしまってすまなかった。君は愛しいレフィーの姉だから、もう言わないよ』

「どういうこと? アマーリエは以前も高位神様にお会いしているの?」


 ミリエーナの疑問に答えたのはダライだ。


「こちらの神は、かつて属国の邸で勧請した際、アマーリエの気が酷すぎて不快にさせてしまった御方だ。まさか今回レフィーを見初めていただけるとは」

「まぁ、そうだったの。その節は不肖の姉が申し訳ございませんでした。心よりお詫び申し上げますわ!」


 ミリエーナが瞳を潤ませながら少年神に擦り寄る。


『いいのだよ。レフィーとこうして巡り会えた喜びで気にならないさ』


 優しく答えた少年神は、再びアマーリエに目を向けた。


『ああそうだ、君のことはレフィーのついでに天から視ていたよ。我が声を怪しいだのおかしいだのと散々に言ってくれていたようだが、これからは仲良くできるといいな』


 その瞬間、ダライとネイーシャに凄まじい眼光で睨み付けられたが、それだけでは済まなかった。少年神に従う神々の中で壮年の男性の姿をした神が一歩前に出ると、こう言い放ったのだ。


『本当にお前は見当違いのことばかり言いおって。お前の考えも言うことも間違いばかりだ。お前が我が主の愛し子より優れているところなど一つもない。お前は正真正銘の出来損ないだ』


 それを聞いたミリエーナとダライ、ネイーシャが大喜びをして追随するのを、『まぁそのくらいで』と少年神が鷹揚に止めた。


「そういえば、神様は何の神様でいらっしゃるのですか?」


 ミリエーナがふと思い出したように聞いた。


『ふふ、当ててごらん。でも愛し子のために少しヒントをあげよう。僕は周囲からルファと呼ばれることがある』


 その言葉に、アマーリエたちは愕然とした。ミリエーナがまさかという顔で告げる。


「ルファって、まさか……運命神ルファリオン様が、神々からそうお呼ばれになっていると神官府で習いましたが……」

『ふふふ』


 にこにこと笑みを刷く少年神の代わりに、先ほどの壮年の神が重々しく首肯した。


『いかにも。よう言い当てたのう、さすがは我が主の愛し子よ。我が主の御名はルファリオン。推察の通り、運命を司る神であらせられる』

ありがとうございました。

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