12.新たな覚醒
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「待って正解だったな。無理を押して来て、攻撃性を帯びた選ばれし神の神威を浴びてたら、追加の大ダメージ食らってただろうぜ」
フルードの額に手をかざしたフレイムの眼差しが、暗さを宿す。それだけで、良くない状況にあると察せられた。
「パパさん、もう体が……」
「限界だ。まもなく天に還ることになるだろう」
フロースと時空神が小声で囁き合っている。最期の時はもう目の前に迫っているのだ。
「今度はリーリアが襲われたのか」
ライナスが碧眼を細めて呟く。室内を一瞥したフレイムがフロースを見た。
「なあ泡神様、リーリアたちに結界を張ってたよな。葬邪神様の防御壁は見えなかったが、発動しなかったのか?」
「うん。リーリアも、オーネリアも、アリステルも、誰のものも無反応だった。あんなに害意ビンビンの神威と、殺傷力の高い氷の嵐が迫ってたのに」
「やっぱりか。どうなってやがる。防御壁なのに防御してねえじゃねえか」
全くだと思うアマーリエだが、葬邪神自身が丹念に不具合がないか確認していた。なのにまた発動しなかったのはどういうことなのだろうか。
「葬邪神様と疫神様に念話し、再襲の事実を伝えます。必要があれば皆様を念話網に加えます」
アリステルが言い、視線を宙に投げる。
「……はい、こちらは無事です。泡神様がお相手して下さいましたので……そうですか」
時折眉を曇らせながら相槌を打ち、やがて焦点を結ぶと緩く首を振った。
「疫神様が遊運命神様の神域の前で感覚を研ぎ澄ませてみたところ、確かに覚醒している気配があられたそうです。門を叩いて呼びかけているのですが、未だ反応がないと」
同格の神の領域に、強引に押し入ることは難しい。疫神は荒ぶる神威を持つ暴れ神だが、同胞のことは深く愛している。力ずくで神域の門を打ち砕くことはしないという。
アマーリエやフレイムたちには攻撃していたが、あれは被虐趣味だと勘違いしていたためか、自分と同等の力を持つ生来の荒神だと分かっていたからだ。どちらでもない神に対しては、自身の力を振りかざして手荒な真似をすることはない。
「遊運命様は、ご自身の神域から神威を地上に送り込んでいるのだと思います」
「何故そんなことをするんだろう。何とかしてコンタクトが取れれば良いのだけど」
フロースが困ったように唸り、どうにかならないかと言いたげに時空神を見る。だが、双眸を白く濁らせた時空の神は、黙って首を横に振る。葬邪神と狼神と同等の古き神である彼をしても、有効な手段は思い付かないらしい。
「また、葬邪神様と煉神様が天界の様子を再確認したところ、強硬派の間でも不穏な気配が高まっているとのことです。それから……」
アリステルが言葉を切った。繊細な麗姿に戸惑いを乗せて言う。
「眠り神の中でまだ目覚めておられなかった神が二柱、新たに起床されたそうです」
寝起きの良い神々だったので、一瞬でパッチリ起きてくれたため、神威の放出もなかったそうだ。
「どの神が起きたのだい、ヴェーゼ?」
「戦神様と闘神様だそうです」
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