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8.禍い転じて福となす

お読みいただきありがとうございます。

《アマーリエ、礼を言う。お前のおかげで疫神様がこちら側に付いて下さったようだ。暴れ神様が純然たる強硬派として行動されていれば、私たちは詰みだった。ありがとう》

《アマーリエお姉様、大手柄ですよー》

《さすがはお姉様ですわ!》


 ライナス、ランドルフ、ルルアージュがこっそり念話して来た。アマーリエの額に冷や汗が滲む。


《い、いえ、私は別に何も……》

(本当に何もしていないのだけれどね! 泣いたのもフレイムに向けてなのよ)


 もちろん、それをわざわざ疫神に教えるつもりはない。このまま有り難い勘違いをしていてもらおう。そういえば、魔神も同じような理由で尊重派に回ってくれたという。禍い転じて福となす――という皇国のことわざがあるらしいが、まさにそんなところだと思いつつ、アマーリエは恐る恐る時空の神を見る。


「ちなみに時空神様は……?」

「私は穏健派だ。雛たちには天界に還って欲しいと思っている。だが、強引な手段に出たりはしない。今回のように、雛たちに恐怖を与えるやり方で強引な手段に出る神がいたならば、その時は雛たちを守る」

「そ、そうですか。ありがとうございます」


 これでもマシな回答なのだろう。強硬派と穏健派と尊重派が大体同数で三竦みになっていると聞いたが、それでも細かく比較すれば穏健派が最多なのではないだろうか。

 水神やフロースがこっそり流してくれる情報から推測すると、おそらく穏健派、強硬派、尊重派の順で多い。それに、どの派でもない中立が僅かにいる。だが、神々の兄姉である葬邪神とブレイズがそろって尊重派というアドバンテージが、数の差を埋めているように思う。


 ランドルフとルルアージュがライナスに向かって微笑んだ。


「では邸にお邪魔しまーす、お祖父様」

「お世話になります」

「ああ、遠慮せず来なさい」


 普段の冷えた美貌を崩したライナスが、眦を下げて孫たちを眺めている。常とはまるで異なる慈愛深い色。今の姿こそが、聖威師かつ前大神官の皮を脱ぎ捨てた素の彼なのだろう。


「おいで、おいで」


 時空神が纏う衣をふわりと広げた。衣の内に水面のような揺らぎが満ち、広大な邸が映し出される。ライナスの邸だろう。


「焔神様、アマーリエお姉様、今日は来て下さってありがとうございましたー。そちらも今夜は気を付けて下さいー」

「お姉様、決して焔神様のお側から離れませんよう。また明日お会いしましょう」

「ええ、あなた達もどうか用心してね」


 アマーリエが答え、フレイムが無言で頷く。神々とアマーリエに向かって一礼したランドルフとルルアージュが、時空神が広げた衣の中に身を滑り込ませる。その体はスルリと空間を渡り、ライナス邸に移動した。


 残ったライナスは後に続かず、パチンと指を鳴らす。室内に波紋が走り、荒れ果てた惨状が刹那で復元された。大公邸に相応しい品格のある部屋だ。ぐちゃぐちゃになった料理や飲み物も復活し、瀟洒(しょうしゃ)な丸テーブルの上にびっしりと並んでいる。時空神がヒラヒラ衣を振ると、それらの飲食物が片っ端から吸い込まれていった。おそらくライナスの邸に移動させたのだ。


「大いなる神々に、改めて感謝申し上げます。まだ急襲の全容が分かりかねますため、具体的なお話ができず申し訳ございません。何か判明しましたら随時お伝えさせていただきたく」


 文句の付けようがない身のこなしで流麗に拝礼した前大神官に、神々が応じた。


「ああ、俺とディスも天界で調べてみる。何故シュナがお前たちを襲ったのか。防御壁が反応しなかった理由も分からんし」

「何かある、すぐ念話する。雛たち、エスティから離れる、駄目。十分注意する。約束」

「あー、そうだ。こんな時にこんな話をすんのもアレだが、今夜ハイティーするって聞いたから軽食作ったんだ。この後お前の邸に転送する。セインとアシュトンも合流するんだろ、皆で食えば良い」


 三者三様の言葉をかける神々に、ライナスは首肯して礼を取った。そしてアマーリエを見る。


「アマーリエも、今日は驚かせてしまい、すまなかった」

「いいえ、お怪我がなくて本当に良かったです。これ以上の脅威がないことを願っています」

「ありがとう。……私は皆様が戻った後で行きます」


 アマーリエたちは頷いた。ライナスの立場からすれば、大公邸に神々を残した状態で自分だけさっさと移動するわけにはいかないだろう。その意を汲んだ葬邪神と疫神がふっとかき消える。


「ユフィー、俺たちも帰ろう。んで、ラモスとディモスを呼び戻すんだ。アイツらも狙われるかもしれねえ」

「そうね。ライナス様、失礼いたします」


 アマーリエもフレイムと共に転移で自邸に戻った。

ありがとうございました。

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