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4.暗夜の襲撃

お読みいただきありがとうございます。

 ◆◆◆


「お待たせ」


 湯に浮かべた金木犀の残り香を漂わせながら、食堂に行く。身に纏うのは、シンプルなワンピースと薄手のカーディガン。急用の神官が突然駆け込んで来ても良いよう、就寝時を除けば最低限の身なりは常に整えている。

 ワンピースの裾を揺らしながらテーブルを見ると、すっかり用意が整っていた。彩り豊かな具材を乗せた一口パンとデザートが、綺麗にボックス詰めされている。


「夕食もできてるからな。後は形代に運ばせるだけだ」

「フレイムって手が10本くらいあるの……?」


 もしくはフレイムの周囲だけ時間の進み具合が違うとか。だが、当事者はカラリと笑っている。


「俺は火神の精霊だったんだぜ。最高神に仕える下働きならこんくらいできねえと」


 昔取った杵柄(きねづか)、という言葉が浮かんだ。皇国の属国である小さな島国に、そんなことわざがある。だが、元精霊であるフレイムならではの特技なのかといえば、そうでもなさそうな気がする。

 何となくだが、ラミルファに同じことができるかと聞けば、涼しい顔でやってくれそうだ。『邪神ミラクルなら容易いことだよ』とか何とか言いながら。


(私も一品くらい作ろうかと思っていたけれど、ここまで完璧なら大丈夫ね)


 ボックスを見て舌を巻き、茶会は何時からだろうかと考える。


「ランドルフ君たちに念話して、もう転送しても良いか聞いてみるわ」


 言い置き、フレイムも念話網に入れた上で、思念を飛ばす。が、ノイズが走って繋がらない。


「あら? おかしいわね。茶会中は念話を切っているのかしら。……緊急用の念話回路まで遮断しているみたいだけれど」


 ジワリと心に疑問が浮かぶ。神官府から急ぎの連絡が入るかもしれないのに、そんなことまでするだろうか。


「俺がやってみようか? ……んー? これ切れてるってより何かが邪魔してねえか?」


 フレイムが眉を顰めた時、ノイズが薄れ、念話が繋がる感覚があった。


「良かった、通じたみたい。ちょっと話してみるわね」

《ランドルフ君、ルルアージュちゃん。フレイムが約束の差し入れを――》

《お姉様!》


 こちらの声に被せるように、悲鳴のような応えが返った。ルルアージュだ。アマーリエとフレイムは表情を変える。


《どうした》

《いきなり神威が攻撃して来たんですー!》


 フレイムの問いに、ランドルフが答える。間延びした語尾とは裏腹に、硬く張り詰めた声音。


「「…………!?」」


 アマーリエは夫と顔を見合わせ、すぐにイステンド大公邸に転移した。


 ◆◆◆


 ランドルフたちの気配を追って飛んだ先は、こぢんまりとした部屋だった。家人が水入らずで飲食を楽しむ場所なのだろう。

 世界随一の権門、イステンド大公家の邸だけあり、内装や調度品は極上のものを揃えている――揃えていたはずだ。今は壁も床も天井も装飾品もことごとく破壊され、ガラクタと化しているが。


 部屋の中央に丸テーブルの成れの果てと思しきものが残っており、皿や容器の破片、料理の残骸が飛び散っていた。上質なクロスがザックリと切り裂かれた壁際で、蹲ったランドルフとルルアージュを抱えるようにして身を潜めているのはライナスだ。


 その眼前には、彼らを睨め付けながら唸りを上げる、ドス黒い神威を纏った大虎が数匹。神の力で生み出された使役だ。黒い靄が纏い付く肢体の中で、金色の眼が爛々と輝いている。


 そしてもう一つ、三人を背後に庇う形で虎たちと対峙している影があった。漆黒の衣を頭から(かず)いた長身の人影だ。

 顔の上半分まで衣が覆っているため、目鼻立ちは分からない。だが、露わになっている口元はゆるりと綻び、整った唇が妖艶な弧を描いていた。その全身から放たれる、次元違いの御稜威。


「――時空神様!」

ありがとうございました。

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