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53.カフェのランチくらい

お読みいただきありがとうございます。

「にっこにこ顔のセインがアイツ引っ張って、聖威師全員の所に挨拶回りしてたよな」


 神格を得ると同時に、マーカスはそれを馴染ませるための眠りに付いた。彼が目覚めてすぐ、大喜びのフルードが恩師を連れ回して聖威師たちの元を巡っていた。

 なお、当人はすっかり萎縮して小さくなっていた。知恵の神が色持ちではないため、彼が得た神格もそれほど高いものではない。れっきとした正式な神ではあるが、序列としては下位だ。色持ちである聖威師や選ばれし神であるフレイムたちに目通りするのは気が引けたのだろう。


「状態としてはアイツも聖威師だけど、もう寿命が間近だから任には付かないらしいな」

「ええ、神になった際、知恵の女神からご自身の天命を教えていただいたのですって。あと半月後に、心臓麻痺でぽっくり逝く予定だったそうよ。だから、神官として今まで担って来た仕事の引き継ぎに専念してもらうことになったわ」


 さすがに半月では時間がなさすぎる。彼は妻子も亡くしていて独り身だそうなので、残された猶予期間は、家の整理と仕事の申し送りをきっちりやってもらった方が良い。


「王宝章を受章している高位神官だから、担当していた仕事も多いみたい。物腰柔らかなのもあって、皆から慕われていたそうよ」


 神官になりたてのフルードも、聖威師になる前は彼に師事していた。ガルーンから酷烈な虐待を受け、言動を制限する霊具を埋め込まれていたために助けを求めることはできなかったが、マーカスとの時間は生まれて初めて経験した心安らぐものであったそうだ。


 眼前ではまだ言い合いが続いている。


「先生が神に昇格した祝いです。私がご馳走します! ほら、特別デザートの無料券もありますし!」

「いえいえ、大神官にそのようなことをしていただくわけにはいきません! 私が払います、割引券を持っているので!」


 冷静に考えればすごい会話である。神格を得たというこの上ない慶事への祝いが、ビュッフェの有料プラン。普通は最高級レストランの個室でフルオーダーのコースでも並べさせるところだろう。


 そして、使っても使っても有り余るほどの財を有しているはずの大神官と最高褒章の受勲者が、そろって無料券だの割引券だのを持ち出し、どちらが奢るか大真面目に駆け引きしている。


「なあ、ビュッフェのスペシャルコースの値段って……」


 同じことを考えたらしいフレイムが、神妙な顔で言う。


「そんなに高くないわよ。有料といっても神官府の福利厚生の一環だから。街中のカフェでランチをするくらいのお金で食べられるわ」

「……セインは清貧だからな。こういうのは値段より気持ちが大事なんだ」


 数瞬黙り込んだフレイムが、弟を庇った。アマーリエも上司と先達のフォローに走る。


「そうね、きっとお二人とも質素倹約な方なのよ。大切なのはお金ではなくて心だわ」


 貧乏性が二人して競り合ってる、などという本音は言わない。

 ふと近くの生垣を見ると、陰からフルードとマーカスの攻防を見ているラミルファが、体をくの字に折り曲げて笑っていた。


「先生、私のご馳走で行きましょう!」


 ルンルンなフルードに押し切られ、連行されていくマーカス。フレイムはそっと目を逸らして気配を消している。ラミルファは相変わらず爆笑中だ。共にマーカスを助けようとはしない。


(潔く諦めて下さい……)


 アマーリエは心の中でマーカスに手を合わせた。神格を得た彼は、今や神々の大事な同胞になったはずだが、今回は運が悪すぎた。何しろこの光景を見ているのは、フルードに激甘なフレイムと、やはりフルードを溺愛しているラミルファなのだ。どちらに味方するかは分かり切っている。


 二人の姿が見えなくなると、笑いすぎて涙が出て来たらしいラミルファも、目尻を拭いながらかき消えた。フルードたちを追ったのか、別行動でどこかに行ったのかは分からない。

ありがとうございました。

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