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50.フレイムとお散歩

お読みいただきありがとうございます。

 ◆◆◆


 穏やかな午後の昼下がり。昼休憩の合間に、神官府の庭園を進む。聖威師としての楚々(そそ)とした歩き方ではなく、プライベートのややリラックスした歩幅だ。青い空を見上げれば、僅かに灰色がかった羽を持つ小鳥が数羽飛んでいた。


「エイリーさんもああして飛びたかったのかしら」


 独白のつもりで呟いたが、律儀に返しが来た。


「ずっと籠の鳥だったんだろ。自由に憧れてたんじゃねえか」


 あの後、目を覚ましたエイリーは、初め夢の内容を覚えていなかった。だが、落ち着くと徐々に記憶が蘇って来たのか、半狂乱になって慟哭し、体を抱え込むようにして震え始めた。精神衛生上の観点から、現在は記憶封印を施され、夢のことを忘れている。忘却措置はフルードが行った。

 神罰に――つまり神威により刻み付けられた苦痛を聖威で忘れさせることは、通常であれば不可能だ。しかし、現在は神罰がラミルファとアリステルの力で押さえ込まれているため、辛うじて可能になったという。


 自分たちの周囲を結界で覆い、話を聞かれないようにした上で、アマーリエは続けた。


「調査担当の神官から聞いた話では、娼館ではそれなりに丁重に扱われていたみたいだから、そこだけは救いだと思うけれど」


 エイリーは娼館の次代を担う稼ぎ手にするため、衣食住を保証されて大事に育てられていた。高い地位の者を相手にすることを想定し、彼らの前で粗相をしないよう、勉学や教養、歌舞音曲にマナーなども高水準のものを教え込まれていたようだ。

 もちろん失敗すれば注意されたが、飲み込みが早く性格も従順で慎ましかったため、厳しい叱責を受けたことはなかったという。


 ただし本人は、教養の一環で読んだ本に出て来た自由恋愛に憧れ、いつか見知らぬ男に体を許さなければならない自分の境遇を嘆いていた。それが今回の脱走に繋がったのだ。


「元をたどれば、エイリスト先代国王の王妃が、赤子のエイリーさんを人買いに売り飛ばしたのが発端よ。立派な犯罪だわ。エイリーさんは人身売買の被害者という立場になるから、娼館に帰らなくても良いって」


 この件に関して、聖威師であるアマーリエは報告を受けるだけで、直接関与してはいない。対応しているのは人間たちだ。だが、定期的に上がる進捗連絡で、概要は把握できていた。


「娼館からすれば、チビの頃から仕込んでた金の卵なんだ。是が非でも取り戻したいだろうけどな」

「そうでしょうね。けれど、エイリーさんを保護の名目で預かっているのは中央本府よ。うちを相手に食ってかかる真似はできないと思うわ」

「そりゃそうか。何せ、裏ルートで売買された子をさらに買うような所だしな」

「ええ。後ろ暗い行為をたくさんしていたでしょうし、叩けばいくらでもホコリが出るでしょう。先方もそれは分かっているから、あまり強気には出られないわよ」


 まだ調査中だが、件の娼館は、有力な貴族や神官たちが裏取引をする際の密会所も兼ねていた線が濃厚だそうだ。そんな場所であれば、本来はセキュリティ体制も厳重であるはず。にも関わらず、エイリーが逃走を図った時だけザル警備で首尾よく脱走できたのは、まさしく高位神の神器が起こした奇跡なのだろう。


「娼館側も、まさか王家の子どもが流されて来たとは思ってなかったんだろうな」

「エイリーさんが娼館に又売りされる前、王妃からエイリーさんを買った組織のリーダーが急死して、新しい人に変わったそうなの」


 エイリーを娼館に又売りした人買いの組織は、既に調べが付いており、調査が入っていると聞く。


「その時に引き継ぎが上手くいかなくて、エイリーさんが王家の子だということがうやむやになったのかもしれないわ」


 そうでなければ、エイリーを要人が訪れるような場所に売ったりしないだろう。その娼館が高位者たちの密会場になっていることは、裏世界の者ならばきっと認知していた。高位の貴族の中には、先代国王はもちろん、サビーネやエイールの顔を知っている者もいる。成長したエイリーを見て、似ていると勘ぐられるリスクもあったのだ。同じ理由で、娼館の方も、エイリーの出自を知っていれば買っていなかったはずだ。


「もしくは、人買いたちは最初から何も知らなかったか。王妃がエイリーさんの素性を偽って売ったのかもしれないわ」


 これを機に娼館を調べていけば、エイリスト国王とその周囲も含めた者たちの闇が暴けそうだという。そうなれば、国王の交代が一気に現実味を帯び、腐敗した人員を総入れ替えできる可能性も高まる。

ありがとうございました。

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