47.覚醒の兆し
お読みいただきありがとうございます。
フレイムとラミルファが動きを止めた。
『小さな星の瞬きのように微かな兆しだった。このまま消え、再び眠りが深くなるやもしれんと思っていたが……日増しに気配が大きくなっている。近く目覚める可能性もある』
『この前、眠り神、たくさん起きた。シュナ、それに引きずられる、眠り浅くなった』
まだ眠っている神もいるが、その数は少ない。仮に彼らが目覚め、力を垂れ流したとしても、前回の一斉覚醒時のような規模の神威放出には至らない。聖威師が必死で受け止めなければならない事態にはならないだろう。
『マジですか。それは良いことなのか、それともヤバイですか?』
『正解、両方。同胞の目覚め、良いこと。大歓迎。でも、今この条件下で起きる、ヤバイ。超ヤバヤバ』
クルンと宙で一回転し、疫神が音もなく虚空に浮遊した。葬邪神が困ったように眉を下げる。
『シュナはなぁ、最強に寝起きが悪いんだ。今までにも何度か眠ったことがあったんだが、起きるたびに寝ぼけまくって星やら宇宙やら吹っ飛ばしてる。しかも完全覚醒まで時間がかかるんだ』
『迷惑すぎでしょ。もう寝るのよしましょうよ。神は寝なくても良いんだから』
切実な思いを乗せて言うフレイム。それは各神の自由だからなぁ、と葬邪神が肩を竦める。
『で、ここからが問題なんだなぁ。シュナの奴、半覚醒状態だったら聖威師を同胞と認識せんかもしれん。ほら、あの子たちは神格を抑えてるだろ。だから、ボーッとしてる状態だと色々分かり辛いんだ』
『シュナ、寝起きは超絶ボケボケ。神罰宿した者見る。レシスの先祖と混同する、怒りが再燃する。そっちに意識行く、別人で同胞だって、さらに気付き難くなる』
レシスの祖は、かつて聖威師を詐称した。愛し子を騙ることは禁忌だ。中には一顧だにせず、取り合う価値無しとして放置する神もいるが、激怒する神もまた多い。遊運命神は後者だった。付け加えれば、『遊運命神が創った神器を利用して詐称していた』という事実が、最も逆鱗に触れた部分だった。
『兄上方は何が仰りたいのです。まさか――』
ラミルファが抑えた声を漏らした。灰緑の瞳に潜むのは警戒だ。
『起き抜けで寝ぼけているシュナが、レシスの先祖と間違えてアマーリエたちを襲撃するかもしれん』
神妙な声音で、葬邪神が告げた。眠り神は自身の神域で眠っているため、覚醒を察知しても、向こうが出て来てくれない限り接触できないのだ。神域に繋がる門を叩いたり、念話などで呼びかけることはできるが、壮絶に寝起きが悪い遊運命神には届かないかもしれないという。
疫神の時は、双子という関係性による気安さもあり、葬邪神が気軽に様子を見に行くことができた。だが本来、各々の神の領域に勝手に入ることはできない。こちらが完全に格上ならば押し入れないこともないが、遊運命神は同格だ。
『シュナ、起きる。領域に留まったまま地上視る。神罰宿す者、見付ける。怒りが再燃して転移で強襲しに行く。そこまでセット』
『セットにしなくて良いです、つーかおかしいですよ! レシスの先祖とユフィーたちじゃ、外見も魂も気も全て違います。神罰を継いでるってだけで混同するわけがないでしょう!?』
『起きたばかりのシュナなら間違えかねん。あの寝ぼけ具合は常軌を逸してるんだ。ほんっとーに判断力と思考力が仕事してないからな』
『そんはずないでしょ、それでも神ですか!?』
神格と神威を全て解放した神は、基本的に完全無欠な存在だ。有色の高位神は特にそうであり、全てを超えた絶対存在と表するのが相応しい。同格以上の神が関与している場合に限っては、その全能性や万能性が発揮されなくなり、分からないことが出たり間違えたりもするが、アマーリエたちの神位は遊運命神より格下なので、その例外には該当しないはずだが。
『そんなはずあるんだなぁ。――今の神々は、世界に合わせて力のほとんどを抑えてるだろ。世界への遠慮や配慮がないこのディスですら、加減も容赦もなく宇宙次元を破壊しまくって暴れながらも、本当の意味での全力は出さないようにしていた』
ありがとうございました。