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46.葬邪神のトラウマ

お読みいただきありがとうございます。

 ◆◆◆


『アレク』


 天界にある共有領域の一角。難しい顔で佇む葬邪神に、ゴムボールのように跳ねる幼児がぴょんぴょんと近付いた。


『確認、できた?』

『ああ。……ディスはどう見る?』

『アレクと同じ。五分五分(ごぶごぶ)


 甲高い声がケラケラ笑う。


『なーにが五分五分なんですかね?』

『お呼びがかかりましたので参じました。何の御用ですか?』


 続けてやって来たフレイムが険相を浮かべて言う。隣にいるラミルファは、にっこりとして小首を傾げた。


『おぉ、来てくれたか。急に呼び立ててすまんなぁ』

『いきなり念話が来たんでちょっと驚きましたよ』


 何事が起こったのかと目で問いかけるフレイムに、うねる長髪をかき上げて苦笑いする葬邪神。ラミルファが腕組みして長兄を見上げた。


『もしや、兄上方が降臨された理由と関係のあることですか? 兄上方は何故地上にお越しになったのです? 気分転換だとか羽を伸ばしたいだとか、意味不明な御託は結構です』

『丸っきり嘘じゃないぞ。俺も永年皆のお兄ちゃんをやって来たからな、色々大変で肩が凝るんだ』


 ほー、と気の無い声で相槌を打ったのはフレイムだ。両手をワキワキさせながらジト目で言う。


『んじゃ俺が揉んであげましょうか? 人間の世界では温めたら凝りに効くとかで、灸を据えたりするそうですよ。火神一族特製のスーパーキラキラクリーンパウダー熱々バージョンをたっぷり纏わせた手で揉んで差し上げますよ』

『やめてくれ、あのおぞましいモノに触れたら悪神は大絶叫だ』

『この際なので教えてあげます、二の兄上。一の兄上は18年ほど前、煉神様の火をぶっかけられてガチ泣きしたのですよ。あれは中々面白かったです』

『ブレイに? アレク、何でそこまで怒らせた?』

『セインがフレイムの領域で修行していた時、狼神様に会いに行こうと天界の共有領域を通ったのです。その途中で一の兄上と行き合い、ちょっかいをかけられたのです』



 ――お前は本当に純粋な魂をしているなぁ。もう少し俗世に染まらんか。人間界に戻ったら花街にでも行ってみろ。……ん、何だって? 花街とは何ですか? 花がいっぱいある綺麗な所ですかって? あー、そうそう。すごく綺麗な花がたくさん咲いてるんだ。まぁお前に比べれば、どの花も大したことはないがな。そうだ、お前も美しく咲いてみたくはないか?



 そこまで話したところで、凄まじい形相で爆走して来たブレイズが、手の平から葬邪神の顔面に怒りの火炎放射を浴びせた。彼の女神はフルードのことを、『フレイムの義弟は私の義弟』と公言して大切にしており、この時も様子を視ていた。ゆえに、可愛い義弟の貞操の危機だと思って駆け付けたらしい。


『あの時は悶絶級のショックだった……俺だって本気じゃなかったんだ、ちょっとふざけただけだったのに……』


 葬邪神が遠い目をして呟いた。火神一族が駆使する神炎は、聖なる御稜威を宿す浄化の忌火。悪神がそれをかけられるということは、人間で言えば、大量のゴキブリにたかられるに等しい。それも、潰れかけて体液やら腐敗臭やらでジュクジュクになっているゴキブリだ。


『アレク、カッコ悪い。ぷぷぷっ』

『自業自得ですよ、一の兄上』


 なお、騒ぎを聞き付けてやって来たラミルファは、状況が飲み込めていないフルードを連れてさっさと自分の領域に引き籠もった。それを察知した狼神が、大慌てで愛し子を取り戻しに飛んで来たのだが、道中で顔を抑えてのたうち回っていた葬邪神を思い切り踏んでいった。


『焔神様は怒らなかった?』

『あー、俺はあん時天界にいなかったんすよ。ちょっと用事で地上の聖威師の所に行ってまして』


 フルードの修行の進捗報告なども含め、色々と話すことがあったのだ。

 長い話を終えて天に戻ると、どうにかこうにかフルードを返してもらった狼神が愛し子を尻尾でくるんで離さない状態になっており、土下座して小さくなっている葬邪神の前では、腕を組んだブレイズが炎を背後に仁王立ちしていた。


『あの時は必死に謝って謝って謝り倒して、どうにかブレイに許してもらえたんだったなぁ』

『火神一族、激情家。いったん火が付く、ボーボー燃える』

『それを言えば、フレイムは突然変異並みに温厚ですね』

『うるせぇ誰が突然変異だ!』


 反射的に言い返したフレイムが、ハッと目をさ迷わせて咳払いする。


『つーか話が逸れてます。何で俺たちを呼び出したのか、貴方々は何で降臨したんですかって聞いてたんですけど』

『ああ、そうだったなぁ。俺も思いがけず苦い記憶を思い出してしまった』


 葬邪神が苦笑いし、つと表情を改めた。精悍な面から緩さが消える。


『シュナに――遊運命神に、僅かだが覚醒の兆候が見えた』

ありがとうございました。

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