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42.めんどくさい悪神たち

お読みいただきありがとうございます。

 一拍遅れ、アリステルが息を呑む。その反応を見たアマーリエとフルードが、すぐさまエイリーに視線を移した。


 窓を通して映り込む聞き取り室。体を縮めてイスに座っていたエイリーが、胸を押さえながらデスクに突っ伏している。


「エ、エイリーさん!?」

「ごらん、アマーリエ。変質した神罰が爆発してしまった者の姿を。といっても、これはまだ入口に過ぎないが……僕は君がこの道に行かないよう必死だったのだよ」


 歌うように言う邪神の声に被せるように、細かく痙攣するエイリーの痩身からドス黒い霧が噴き出した。高圧スプレーのごとき勢いで噴射された霧が、控え室との境にあった窓を突き破って襲い来る。


「ユフィー!」

「霧を外に出すな!」


 フレイムがアマーリエ抱き寄せると同時、顔色を変えたアリステルが叫んだ。聞き取り室と控え室、そして調査棟全体に、何層にも重ねた結界を張る。


「調査棟にいた者たちは強制転移で退避させた。良いか、霧に触れるな。これは神罰の力を帯びている、浴びればそれだけで不幸と絶望に叩き落とされる!」


 言いながら、フルードとアマーリエの盾になるかのごとく、霧が濃い前方に出る。


「ア、アリステル様!」

「ヴェーゼは心配ないよ。悪神の神格を持つから中和できる。爆発するほど高濃度とはいえ、あの霧は神罰そのものではなく余波のようなものだから、相殺可能だ」


 説明してくれたラミルファは、フルードを守る形で傍に寄り添っている。


「フルードは僕の側にいろ。そうすれば不幸も絶望も跳ね返される。安心しろ、必ず君を守護する」

「ありがとうございます。今、本棟にいる聖威師に状況を念話しました。万一霧が結界をすり抜けても、一般神官の避難等を含め対処してくれるでしょう。私たちはエイリーの安否確認を最優先に……」


 その言葉を遮り、控え室のドアが吹っ飛んだ。立ち込める霧と飛び散る瓦礫を突き破り、小柄な影が二つ舞い込んで来る。


「きゃーお姉ちゃ〜ん、何か大変そうじゃなーい!」

「我、守りに来た! 頼って良し!」


 クラーラとロールだ。頼むから普通に入って来てくれと思うアマーリエだが、そんなことを言える相手ではない。


「あらまぁ、ちゃんとエイールとエイリーを見付けたのね〜。ラミとディスのヒント、無駄にならなくて良かったわ」


 のんびりと言ったクラーラが宙でヒラリと身を一回転させ、長身の美丈夫の姿になってアマーリエの前に降り立った。


「よく辿り着いたなぁ。さて、守護契約に基づきお前を守ろう、アマーリエ。何も心配せず心安らかにいるが良い」


 カッコよく決めてくれたところ申し訳ないが、たった今葬邪神(コイツ)がぶっ壊したドアから盛大に霧が漏れているせいで、アマーリエの精神的ストレスはマックス状態である。


「ん? 霧が出ているが、部屋単位で結界を張っていないのか?」


 アマーリエの視線の先を見て気が付いた葬邪神が言う。わなわな震えていたアリステルが目を見開き、霧がわんさか溢れ出るドアを指差した。


「張っていたのに、貴方々が神威で粉砕して乱入して来たのですよ! どうしてそっとすり抜けて入って下さらなかったのです!?」

「あーそうだったのか。パパうっかりしてたなぁ。だがお前とアマーリエと、それにフルードが無事だからまぁ良いか」

「いや、全然良くないっす」


 アマーリエをしっかり腕に抱え込んだまま、フレイムが遠い目をして言った。アリステルもそれに便乗する。


「ええ良くないです! 咄嗟に結界の範囲を広げて張り直したので、調査棟で食い止めることができましたが……一歩間違えれば外まで溢れていたのですよ!?」

「俺はお前の父でアマーリエの守護神で、フルードの同胞だ。だからお前たちが無事ならそれで良いんだよ、ヴェーゼ」

「ですから良くないです!」

「俺は良いと思っている。それが全てだ」

「アレク、アマーリエ守る。ラミルファ、フルード守る。アリステル、悪神だから大丈夫。でも、万一あるかも。その時、我、アリステル守る。これで安心。完璧」

「本当ですね、完璧ですね兄上方」


 にこやかに断言する葬邪神に続き、疫神とラミルファも笑う。何がおかしいのかさっぱり分からない。


「ちっ、クソめんどい悪神三兄弟ですね」


 フルードが優しい笑顔のまま舌打ちした。アマーリエとフレイムが目を剥いてフルードを見る。肝心の悪神三兄弟は、互いに笑顔で良かった良かったと話しており、今の言葉は聞こえていないようだ。


「…………」


 アマーリエはそっとフレイムを見上げた。見つめ返す山吹色の瞳が、『聞かなかったことにしよう』と告げている。『分かったわ』とこれまた目で返したアマーリエは、今の出来事を脳内から忘却させた。

ありがとうございました。

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