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40.エイリーの神罰

お読みいただきありがとうございます。

 静かになった部屋で、アマーリエは改めて窓越しにエイリーを見た。


「よく逃げ切れたわね……」


 正直な感想が口から零れ落ちる。体が弱いというだけあり、エイリーの肢体は華奢を超えたレベルで細い。


「見張りがザルだったとはいえ、娼館の移動用フロアに都合良く入り込めたこともだし、あんな体でどうやって国境まで逃げて来たのかしら。8歳で娼館に売られたなら、外の世界だってほとんど知らなかったはずなのに」


 すると、大神官室からこちらを遠視してくれていたフレイムとラミルファが、転移で現れた。エイールたちがいなくなったので出て来たのだろう。


「高位神の神器のおかげだと思うぜ。エイリーの祖母が願掛けしてたろ。自分たちが逃げ切れるように、探されても見付からないようにって。『自分たち』の中には、後に生まれる孫とかも含むって見なされたみたいだからな。神器の力が作用したから、常識無視のミラクル連発でここまで来れたんだ」

「聖威であの子の存在を見付けられなかったのも、同じ理由だったわよね。複数面で神器の影響を受けている子を、エイールさんはよく過去視できたわね」


 同格以上の神ないし神威が関わっている事柄に関しては、神ですら過去視や未来視、透視などが鮮明にできないことがある。人間の霊威師でしかないエイールが、神器の力が作用している妹を視通せたことが不思議だった。


「過去視ができた原因は幾つかあるだろうが……エイリーはサビーネの次の代だから、神器が直接関わった対象じゃなかったってのが一つだな」


 控え室の壁にもたれかかったフレイムが答えてくれた。エイールとエイリーは、結果的に神器の恩恵を受けているが、姉妹の祖母が神器に願を掛けた時点ではまだ生まれていなかった。


「二つ目は、エイールとエイリーは姉妹という近しい関係だろ。潜在領域で互いに魂が引き合って、視やすくなった部分はあるだろうさ」


 血縁や親しい間柄の場合、魂の呼応が起きやすくなる。アマーリエがレシスの祖の少女を夢で垣間見られたように。


「加えて、これが最も大きな理由なんだが。多分、エイールがエイリーを視てる時、ちょうど俺も天界で過去視をしてた」

「エイリーさんの存在と生存を把握したのもその時だと言っていたわよね」

「ああ。んで、視通すのに邪魔なノイズや砂嵐を片っ端から除去してたんだよ。それで一時的に視えるようになってたんじゃねえかな」


 それらの要因が合わさった結果、エイールはエイリーの過去視を行うができた。


「それより重大事項だ。エイリーの方が姉よりずっと濃く神罰の因子を継いでる。それが肥大化してて、もう爆発するぜ」

「ふふ、真相に辿り着くのがギリギリ間に合って良かったじゃないか。あと少しでも遅ければ、爆発する方が早かった。エイリーは不幸の深淵に堕ちていただろう。まあそうなったらなったで僕には関係ないし、別に構わないがね」


 デスクに軽く腰をもたれさせたラミルファが、両手を頭の後ろで組み、呑気に笑っている。エイリーを助けようとする気配は微塵も感じられない。同胞ではない者がどうなろうと知ったことではないのだ。


「アリステル、エイリーの分も守護の玉を創れますか?」

「それは無理だ。爆発するほど濃度が高い神罰は、聖威ではなく神威でなければ太刀打ちできない」


 アリステルは、自身の中にある高濃度の因子を、己の聖威で中和している。だが、自分ではなく他人の内に秘められた因子に外から干渉して無効化することは、また別らしい。それは神性を解放した悪神の力でなければならないそうだ。


「因子が希薄なエイールは私でも何とかできるが……エイリーはそうはいかない。悪神の守護が必須だ」


 困ったように言うアリステルに、フルードとアマーリエは黙り込んだ。

ありがとうございました。

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