37.安心するのはまだ早い
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「だが、アマーリエたちはきっとこのことを知れば衝撃を受ける。取り返しの付かない事態が起こった後で、自分たち以外の末裔の存在に気付き、彼女たちを助けたいと望んでももう手遅れだ。だから少しヒントは出しておいた」
そう言いながら腕も組んだラミルファが、軽く小首を傾げる。
「僕の他にも気付いた者がいるとすれば、一の兄上と二の兄上だろう。一の兄上は神罰についてこれでもかと調査していたし、二の兄上も神威を多く解放した状態で君たちを視て、神罰のことを把握していた」
アマーリエは内心で息を呑んだ。
(疫神様が言っていた思わせぶりな台詞はこのことだったのね)
「俺が視たところ、エイールは神罰の因子を継いでるが、相当に薄い。潜伏期間中だからとかじゃなく、受け継いだ因子自体が少ない感じだった。多分、覚醒することもない」
フレイムが安心させるように言った。因子が覚醒さえしなければ、その後の肥大化と爆発は起こらず、神罰に選ばれた者にもならない。当然、共鳴も起こらない。
「あんなにうっっっっっすい因子だったら、神格を抑えてるアリステルの力でも対応できるぜ。ラミルファがユフィーに下賜した守護の玉と同じ物を創って渡してやれ」
「分かりました。では後は、エイールの子に神罰を継がせなければ解決ですね。胎児の段階でなら因子を抹消できます。エイールに事情を話し、身篭ったことが発覚した際は即座に聖威師に連絡を入れるよう厳命しておけば良い」
アリステルが口元に指を当てながら言った。アマーリエはフレイムを見る。
「お願い、フレイム。もしエイールさんのお腹に子どもが来てくれたら、その子の中から因子を焼却してあげて」
この通り、と手を合わせて懇願すると、打てば響くような了承が返って来た。
「ユフィーのお願いなら仕方ねえな。エイールが妊娠した時は、すぐに俺を勧請しろ。跡形もなく燃やしてやるぜ」
神は原則地上に関わらないが、神官などから請願を受けた場合には限定範囲内で助力することもある。エイールに関してもその要領で対応可能だそうだ。
「フレイム、ありがとう!」
「感謝いたします、焔神様」
顔を輝かせるアマーリエと共に、フルードも安堵を滲ませた。
(これで一安心ね。後はエイールさんとバルドさんにきちんと話を通すだけ)
ひとまず解決した、という喜びに包まれるアマーリエだが、フレイムの返事は芳しくなかった。
「いや、安心するのはまだ早いんだぜ」
緩みかけていた空気が一気に凍る。愁眉を開いてカップに手をのばしかけていたフルードとアリステルが、仲良く動きを停止させた。
「ま、まだ何かあるの、フレイム?」
「ああ、俺も天界で過去視をして気付いたことだ。――ラミルファがさっき言ってた言葉を思い返してみな。何回か言ってた。そこに答えがある」
(ええと、どの言葉? 何回か……?)
急いで今までの会話を再生する。フルードとアリステルも、宙を睨んで動かない。二人も考えているのだろう。
静かになった空間に、澄まし顔の邪神がカップを持ち上げる際の衣擦れだけが響く。
やがて、フルードとアリステルが口を開いた。
「「新たに見付けたレシスの末裔たち……」」
ラミルファが先程口にしたフレーズの一部だ。同時に閃いたアマーリエも、呆然と呟く。
「どうして複数形なの?」
ありがとうございました。