32.半分だけ正解
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フロースとルルアージュも獲物を消した。ランドルフは、まだまだ成長途上にある小さな肩を竦め、やれやれと嘆息する。その目は父と同じ、どこまでも透明な青。
「父上って何にも分かっていないですよね」
フレイムが愛情深い眼差しを向けているのは、フルードだ。ランドルフは父に瓜二つだから。外見の話ではなく――容姿もそこそこ似てはいるが――中身が。恐ろしいほどに澄み切った瞳と魂が、生き写しレベルで同じなのだ。変幻自在に姿を転じる神にとって、外見はいくらでも変えられる。ゆえに、中身の魂が酷似している方が重要になる。
「焔神様は、僕を通して父上を見てらっしゃるんですよ。あの目は父上に注いでいるものなのに」
もちろん、ランドルフ自身のことも同胞として、フルードの子としてとても大事に想ってくれている。投げかける眼差しもとても優しい。だが、あの視線は違う。どこまでも深く深く包み込むような、心底愛おしむ特別な眼差し。あれは間違いなく、弟へものだ。
現に本物のフルードは、フレイムから常にその視線を向けられている。
「きっとこれからも気付かないと思いますわ。ご自身がどれだけ焔神様と邪神様に愛されているか」
ルルアージュが頰に手を当てて苦笑した。フロースも無言で微笑む。兄妹の推測を否定はせず、だが肯定もしない。二人の予想は、半分正解で半分間違っているからだ。
実のところ、フルードは気付いている。誰よりも分かっている。自分がフレイムの『特別』だと。だからこそ、自分と同じ目を向けられるランドルフが気に入られていると思い込んでいるのだ。
「君たちのパパさんは、世界一の不幸者から幸せ者に駆け上がったんだよ」
何しろ、あのラミルファとフレイムの心を鷲掴みにしたのだ。どれほどどん底にいようとも、選ばれし神の神罰に捕らわれていようとも、全てぶち抜いて幸福の頂点に連れて行ってもらえるに決まっている。
そして、それはアマーリエも同様だ。フレイムのみならず、どうやってか邪神のハートまでキャッチしたらしい彼女は、もう不幸に堕ちることはないだろう。それはフロースにとっても非常に喜ばしいことだった。
「ほら、休憩時間が過ぎていく。私はレアナの所に戻るから、あなたたちもお昼を食べに行きなさい」
「「はーい」」
ランドルフとルルアージュが一礼し、仲良く笑い合いながら修練場を出て行った。だが、きっと外に出た瞬間、聖威師としての仮面を纏うのだろう。
己に残された時間を悟ったフルードは、子どもたちが大きくなっていくところをもう少しだけ見ていたかった、今少し妻子と共に過ごしたい、と呟いていた。
きっとランドルフとルルアージュも、あと少し父親と一緒にいたいと渇望しているはずだ。もちろんアシュトンも。皆、それを表に出すことはないだけで。
昇天してからも降臨や勧請で会うことは可能だが、基本的には天と地に隔てられる。妻子が昇天して来るまで、分かれて過ごすことになる。
なお、ラミルファは、フルードが昇天する前に還ると言っていた。かつて約束したのだそうだ。フルードが地上での生を終えた暁には、自分が真っ先に天界で出迎えると。
「……私とレアナも、いずれは……」
そしてそれは、いずれ来るフロースとリーリアの姿だ。特別降臨は無制限にはしていられない。自分もフレイムも、いつかは愛し子を置いて還らなければならない。
どこか物悲しい思いで、フロースは二つの小さな背を見送った。
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