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25.聖威師もクレープを作る

お読みいただきありがとうございます。

(えぇ〜?)


 アマーリエはいきなりの提案に冷や汗をかきつつ、具材に目を走らせる。


「そ、そうね。うんと甘くしてくれたら嬉しいわ。たっぷりのカスタードクリームとストロベリー、チョコソースが良いわ。もちろん生地は砂糖入りよ。リーリア様は?」


 彼女の好みを考えれば真っ先に思い付くのはマシュマロだが、茶会が始まると同時に何個も取って食べていた。いくら好物とはいえ、ここでさらにチョイスはしないのではないかと予想していると、当たりだった。


「私はフルーツが食べたいですの。ベリーとキウイ、バナナ、それにオレンジソースをかけていただければ。生地は砂糖入りにしますわ」

「フルーツクレープね、任せて」


 アマーリエとリーリアも互いに作り合い始めると、残された二人が無言で目を見合わせた。距離を測るように数瞬押し黙り、先に口を開いたのは弟の方だった。


「……あなたは甘くない物にするのでしょう。砂糖なしの生地に、ハムとチーズ、トマトのマヨネーズがけでもしますか?」

「……ああ。お前は生地も中身も甘いもので固めるのだろう。ホイップクリームとチョコチップにパウンドケーキを乗せるか?」

「ええ。パウンドケーキには少しだけジャムを付けて下さい」


 手を動かすアリステルが、ピクリと眉を上げる。


「想像するだけで甘そうだな」


 言いながら、多めに乗せたチョコチップとは別に、色が濃いチョコを少しだけ混ぜる。フルードも眉を上げた。


「それはビターチョコではありませんか、どうしてスイートチョコだけにしてくれないのです」

「もう少し大人びた嗜好になれという兄の親切心だ。少量だからそこまで気にならないだろう」

「余計なお世話です」


 フルードがアリステル用に作っていた生地に、コーンをザラッと乗せた。


「待て、何をする。コーンは甘いだろう」

「もっと糖分を取った方が良いという弟の配慮です。タバスコもかけますから、甘さはそれほど感じませんよ」


 兄弟共に渋面を浮かべながらも、自分が巻き巻きしたクレープを紙で包み、ほら、と交換する。


(何だかんだ言っても息はピッタリよね)


 あまーいクレープを頬張りながら眺めていたアマーリエは、ふと神々に視線を向け、瞬きした。


 三神が――特にフレイムとラミルファが、信じられないものを見たように瞠目している。

 フレイムはツナとブロッコリーにベビーリーフを入れ、バジルソースをかけたクレープを持っていた。もちろん自分で作った物だ。


「………」


 やがて、山吹色の目が底抜けの優しさを纏った。フルードとアリステルの距離がグンと近くなったことを、心から喜んでいる。邪神の灰緑の双眸は、心なしか艶を帯びているように見えた。


《……アマーリエ、ありがとう》

《ラミルファ様》


 念話が響く。いつもの飄々とした声ではない。囁くような小さな音。胸の奥で踊る感動の渦が、そのまま反映されているかのような。


《私は何もしていません。成り行きの結果こうなっただけです。そもそも、料理を作ったのはフレイムですし、茶会自体もリーリア様と共同で準備しましたし》

《一の兄上が来なかったのは、自分が行かない方が結果オーライになると閃いたのかもしれない》


 葬邪神がいればアリステルがはみ出してしまうこともないので、フレイムたちは遠慮なく自身の愛し子や宝玉にクレープを作っていただろう。そうすれば、こうしてフルードとアリステルの距離が縮まることもなかった。


《いや、一の兄上だけでなく、もしかしたら二の兄上も……》

(それは有り得るかもしれないわね)


 生来の荒神は未来予知並に勘が鋭いという。自分たちが不参加にした方がレシス兄弟にとって良い結果になると、直感で悟った可能性はある。だからそれらしい理由を付けて来なかったのかもしれない。


《だがそもそもの話、この子たちをここに呼ぶことを思い付いたのは君だ、アマーリエ》

《それは……まあ……》

《ならば、やはり君のおかげでもある。また君に恩ができてしまった》

《ラミルファ様に感じていただく恩などありません》


 彼の方とて、葬邪神にアマーリエの守護神となってくれるよう掛け合ったり、ラモスとディモスのために要請書を書いたり、疫神がアマーリエたちを傷付けないよう立ち回ったり、様々に動いてくれている。それでも、一度も見返りを求めていないのだ。こちらだけが貸しにするなどできるはずがない。


 だが、邪神は納得してくれなかった。


《そうはいかないよ。今日のことは覚えておこう。いつか相応しい礼をするから、楽しみにしておいで》

《いいえ、本当にお気になさらず》

《ああ、そうだ。この前フレイムと泡神様と飲んだ時に、酔っ払ったフレイムが漏らした君への惚気を一言一句違わず教えてあげよう。良いかい、よくお聞き。俺の女神の瞳は夜空に燃える聖火の――》

《結構です! 結構です!! 結っ構ですッ!!!》


 大事なことなので三回言った。これは聞いたら羞恥で全身沸騰して破裂するやつだ。瞬時にそう判断したアマーリエは、即座にブチっと念話をねじ切った。

 そして、目眩と共に新たな事実を知る。


 ――どうやらフレイムたちは彼らだけで飲み会をしているらしい。そして、酔っ払うらしい。神なのに。

ありがとうございました。

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