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24.神々はクレープを作る

お読みいただきありがとうございます。

 フロースとリーリアが仲良くがむせた。


「ちょ、ラミルファ! 昼間の茶会で何てこと言いやがる!」


 慌ててフロースの背を叩くフレイムだが、力が若干強かったのか、泡の神は目を白黒させている。まだ咳き込んでいるリーリアの背はフルードが撫でている。


「別に良いじゃないか。夫婦の契りも結んだのだろう。何なら、寝ている隙にそっと落とすだけの口付けでも――」

「ああ、ラララ、ラミルファ様!」


 テーブルに伏せたリーリアの顔が真っ赤になっているのを垣間見たアマーリエは、咄嗟に声を上げた。


「ラララ? 急に歌い出してどうしたんだい?」

「いえ、ちょっと舌が回らなくて……あの、ええと、ラミルファ様は人間と同じ飲食物を召し上がるのですよね」


 どうにか風向きを変えようと、かなり強引な話題転換を試みる。目の前の彼は悪神だが、自分の食事嗜好は通常の神寄りだと言っていた。今も優雅な所作で茶菓を摘んでいる。


「疫神様と魔神様は、私たちの食事はお口に合わないご様子でしたけれど」

「セインと同じ物を食べて、同じ気持ちと感情を共有したかったから、口の方を合わせたのだよ」


 無理矢理な話逸らしにも、同胞限定で面倒見の良い末の邪神は律儀に応じてくれた。


「一の兄上もそうだ。ヴェーゼと一緒に卓を共にしたくて、人間の味に慣れた。鬼神様も怨神様も。愛し子や宝玉、子弟や伴侶というのは、神にとってそれほどの影響力を持つ」

「そうでしたね、以前そんな話をお聞きしました」


 上手く話が変わったことで、フロースとリーリアが明らかに安堵している。フレイムがアマーリエにだけ見える角度で親指を立てて来た。視線で応じながら、アマーリエはたった今言われた言葉を反芻する。


(怨神様は……確かアリステル様の包翼神だという方よね。フロース様がチラリと仰っていたわ)


 主神は愛し子を独占したがる傾向が強いため、包翼神や父兄神を併せ持つレシス兄弟はかなり特殊な事例らしい。


(いいえ、ここで怨神様のことを深掘りするのはやめましょう。フロース様がまた私を宝玉にしたいと言い出したら、フレイムと私にとって薮蛇だわ)


 そう決め、今度はアリステルに話を振った。


「葬邪神様といえば、特別降臨されてからはアリステル様の方にもお顔を出されておいでなのですよね?」


 我が子の様子が気になるのは当然だ。だが、アリステルはスッと視線を宙に投げた。


「ああ、よくいらっしゃる。……幼女の姿で。ドアがノックされるから開けたら、なんか訳の分からないぶりっ子ポーズを取っていたりとか……」

「ああ、クラーラちゃんバージョンでお越しなんですね……」


 とても覚えがあるアマーリエも遠い眼差しになる。澄まし顔でカップを傾けているラミルファの指に、僅かに力が入っているように見えるのは、きっと笑いを堪えているのだろう。


「クレープが食べたい」


 先ほどの狼狽から立ち直ったフロースが呟いた。その手にあるのは、薄くスライスして塩胡椒とガーリックソースを染み込ませたバゲットだ。小さなカップに入ったビシソワーズに浸して食べている。


「白い皿に乗ってるクレープ生地は砂糖入り、灰色の皿のは砂糖不使用の甘くないやつな。どっちでも好みで選んでくれ。スクランブルエッグは白い容器のが砂糖入り、黒い容器のは砂糖なしだ」

「分かった。ううん……まずは食事っぽくしようか。でも甘いのも美味しそうだ」


 バゲットの残りを飲み込むと、生地の横に並べられた具材の容器を見て、悩ましげに首を傾げる。

 具として用意されているのは、数種類のクリームやフルーツ、ジャムとソース類、一口スイーツ、野菜や肉、調味料。


「ふふ、僕も次はクレープにしよう」


 ラミルファも乗り気になった。フロースはむむぅと唸っている。


「うん、やっぱり食事系にする。生地も甘くない方で。だけど、普通の中身じゃ面白くないかな。野菜中心にしてフルーツソースをかけてみようかな」

「変に冒険すんなって。素直にマヨネーズかドレッシングにしとけよ。俺が適当に作ってやるから。サラダっぽいので良いか?」


 フレイムがレタスとオニオン、マッシュポテトを取り、ドレッシングをかけてクルクルと巻いていく。


「ありがとう、焔神様。じゃあ私は邪神様に作ってあげる」

「それは嬉しいな。では甘くない方の生地にソーセージと砂糖なしのスクランブルエッグ、レタスを乗せて、ケチャップよりマスタードを多めにして欲しい」


 さっそくリクエストした邪神が、ポンと手のひらを打った。


「そういうことならフレイムもクレープを食べると良い。僕が巻いてあげよう。喜ぶが良い、邪神スペシャルを作ってあげるよ」

「いやお断りだわ、絶対とんでもねえ取り合わせにする気だろ!」


 注文通り、ソーセージにたっぷりのマスタードと少なめのケチャップをかけているフロースを余所に、フレイムとラミルファが掛け合いを始めた。


 三神とも、本音では自身の愛し子や宝玉と作り合いっこをしたいのだが、それをすると一人で参加しているアリステルが孤立してしまうので、黙っている。

 なお、ラミルファはフルードが作った物ならば、例え火神一族のおぞましい火の粉がたっぷり降りかかった激甘スイーツでも喜んで完食する。


「アマーリエ様、神々方が何だか楽しそうですわ。わたくしたちも負けていられませんわよ。こちらもクレープを作りましょう。わたくしがお作りいたします。何がよろしくて?」


 一方、何に触発されたのか、俄然やる気になったリーリアがアマーリエを見た。

ありがとうございました。

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