表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
276/532

15.大精霊

お読みいただきありがとうございます。

 ◆◆◆


 見渡すような面積を持つ広間。天上に煌めくシャンデリア。立食形式の丸テーブルが幾つも並び、卓上には小さめのグラスや軽食が整然と並んでいる。

 大気に満ちるのは明るい笑い声。既に見出された者たちが放つ余裕の雰囲気が、まったりとした空気となって会場に染み渡っている。


 神使内定者の懇親会は、帝国と皇国の中央本府の主任神官と、天の使役たちの総まとめ役である大精霊の合同主催だ。両国の中央本府の共同敷地となっている棟を貸し切って行われている。


「焔神様及、嵐神様及び聖威師方の御来駕を賜わり、恐悦至極にございます」


 ここは棟の最上階にある謁見室。懇親会の会場となっている一階の大広間の賑々しさからは隔絶された、静かな空気が満ちていた。

 奥には数段ほど高くなった場所があり、正面に二つ並べて据えられた豪華な首座にフレイムと嵐神が腰掛けている。


 段下で拝礼しているのは四名。帝都及び皇都の中央本府の、主任神官と副主任神官である。二人は濃翠の神官衣を着込んだ金髪碧眼、今二人は濃緋色の神官衣を纏う黒髪黒目。

 当然、とっくの昔に神使として選出されることが確定している彼らだが、諸事情により現在は特殊な立場にある。また、今回の懇親会では参加者ではなく主催者の立場で動いている。


 さらに、段の途中で跪いているのは、艶麗な美貌を持つ人型の大精霊。後ろには、彼らの補佐役としてこの会を切り回している神官や使役たちが平伏している。精霊の中には幼い子どもの(なり)をした者もいた。


「ああ」


 フレイムがチラリと使役たちに目をやり、小さく頷く。気のせいか、声がいつもより一段低い。嵐神は無表情のまま返事をしない。


「面を上げよと大神様方の仰せだ」


 冴えやかな声で告げるアシュトンは、嵐神の隣に置かれた一回り小さな宝座に座していた。自然体ながらも真っ直ぐに背筋を伸ばして佇む様は、冬の朝に咲く一輪の花のようだ。


(フレイム、どうしたのかしら。何だか様子が……)


 フレイムの横にある宝座に座ったアマーリエは、突発的な参加なので何も分からないということもあり、澄まし顔を貼り付けて置き物と化していた。


『聖威師方のみならず天の神々にまでご来臨の栄をいただき、望外の喜びに存じます』


 水色の髪に深紫の瞳を持つ大精霊が、深く額突いて言う。大精霊は四大高位神全てに仕える使役だ。当然神格を賜っている。だが、箔付けの限定的な神性なので、広義では神に含まれるものの、立場はあくまで神使。ゆえに、段の途中までしか上がることができない。大精霊と最下位の正式な神を比べれば、絶対的に後者が上位なのだ。


「…………」

「前置きは不要。使役内定者たちの教育は進んでいるか」


 答えぬフレイムの隣で、嵐神が口を開いた。精霊が恭しく答える。


『はい。定期的な研修を実施し、連携を深めるための交流の場を設けております。此度の会もその一環にございます』

「そうか。ならば良い」

(えっ、研修?)


 初めて聞く情報に、胸中で驚くアマーリエ。


《アシュトン様、神使に内定した者の研修会をしているのですか? ラモスとディモスからそういう話は聞いたことがないのですけれど……》

《四大高位神の使役は、神格を賜って神の領域に片足を踏み込む。そのため、通常の使役とは分けて扱われる。……といっても、アマーリエの聖獣たちは既に正式な神になり、使役を抜けた身だから、どのみち関係のないことだ》

《ああ、そうだったのですか》


 すぐに投げられた応えにホッとする。ラモスとディモスは神官府に勤務していないので、輪から外されてしまったのかと思ったが、違ったようだ。

 考えてみれば、聖獣たちは火神の神使としての配置決めのため、幾度か天界に喚ばれていた。だが、神使に内定した他の神官たちも同じように喚ばれているという報告は受けていない。ラモスとディモスの召喚は、火神の神使という立場にいたからこその特別対応だったのだ。


《同じ理由で、選ばれし神の神使たちも一部は区別されるんだぜ。選ばれし神は、真の神格を表出させれば最高神に匹敵する。つまり、選ばれし神の使役は最高神の使役でもあるとも見なされるから、一部の上位神使は神格を賜るんだ》

《そうなの? 知らなかったわ……》


 念話網に含めていたフレイムが補足してくれる。


《選ばれし神が真の神格を持つことも、使役のことも、おおっぴらには喧伝してねえからな。人界じゃあんまり認知されてねえ。もちろん知ってる奴は知ってるが》


 通常の神に仕える者は、神使すなわち使役と、それより低位の下働きに分けられるという。使役になれるのは一握りだけで、大半は下働きだ。そう考えると、初めからいきなり使役になれる霊威師は、実は恵まれた立場にいる。

 一方、選ばれし神に仕える者の場合、使役の中でも高位にいる一部は、最高神の神使と同じく箔付けのための限定的な神格を賜る。


 なお、従神は高位神に仕える者だが、真の意味での神格を賜った正式な神だ。神々の完全なる同胞であり、最高神の神使を含めた使役とは全く違う。


《しかるに、我らが真の神格を出すことは少ない。(もと)の四大高位神様方がいらっしゃるのであれば、出す必要性がない》


 声なき会話に、嵐神までが参加して来た。彼女だけ外すのも申し訳ないので、念話網に入れていたのだ。

ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ