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12.怒れる神々

お読みいただきありがとうございます。

 ◆◆◆


「人間に対して怒りながらも情を残しているからこそ、神々は神託を下ろして助言もすれば、些細なことで激昂して神罰を落としたりもなさいます。そして、三千年の年月が流れたことで、怒りはかなり薄まっているのです」


 フルードが話す声が、広い部屋の空気に吸い込まれて消えていく。


 フレイムのように顕現から年月が浅い若神は、元からそれほど人への怒りを持っていない場合もある。神々が激昂するきっかけになった、三千年前の出来事を直に体験していないためだ。先達の神々から聞かされ、そのようなことがあったのかと思う程度である。


 一方で、聖威師に害を成し、それにより主神も苦しんだと聞かされたことで、同胞を傷付けた存在として人間を疎む若神もいるため、一概には言えない。


「眠れる神々の中で、入眠期限を三千年と決めた二割の者たちは、まさに人間への怒りを抱いて眠った神々です。自身の愛し子を傷付けられた神もいらっしゃると聞きます」


 そのような人間嫌いの神々が、『頭を冷やすために少しだけうたた寝でもしよう』という感覚で、三千年と期間を決めて眠ったのだ。


「昨日――入眠中の神々は、人への怒りを色濃く残したまま目覚めました。一眠りしたことで多少冷静になっているとはいえ。ずっと起きており、三千年間における人間の変容を見守っていたり、怒りが薄まるような喜び事を経験するなどして機嫌を直しつつある神々とは違います」


 なお、神の怒りを解くことは、人間が己自身の言動を用いて自ずとやり遂げなければならないと定められている。ゆえに、天威師と聖威師は最低限しか動けない。神々に人間を許すよう仲介する、神罰牢行きの危機であることを人間に教える、神々の許しが得られやすいよう人間を誘導したりすることは禁止されている。

 従って、人間たちはそもそも、自分たちが危機的状況にあることを知らない。帝国と皇国の国王や王族は例外で伝えられているが。


「何故、聖威師が神官府の長に就任することになったか分かりますか?」


 フルードが聞いた。聖威師は帝国と皇国の創建より以前から、現在と同じような活動を行い人を支えていた。例えば、神器が暴走した際に鎮静化を行うなどだ。だが、それは陰からひっそりと行なっており、現在のように公然と姿を見せて活動することは稀だった。その頃はまだ、神官府の長に就いていなかったからだ。


「神を敬う国を運営すると言っても、実際に天と繋がる強さの霊威を持つ者は限られています。大部分の人間は、自力では神と交信できません。するとどうなると思いますか?」


 透き通った青がアマーリエを見た。答えを求められていると悟り、急いで頭を回転させる。


「ええと……大半の一般人は、強力な霊威を持つ者――現代でいう神官を通じて、神と交信することになると思います。神官を通して神を感じ、触れ合うのではないかと」

「その通りです。しかしそうなると、一般の人間は、神ご自身ではなく神官を信奉するようになってしまうかもしれないのです。あくまで神の手足であり代弁者でしかない人間を、神と並んで崇拝するのは違います」


 真に敬い心を傾けるべきは神そのものであり、神官ではない。にも関わらず、神の言葉を聞けるからと神官に首ったけでは、お前たちが手を合わせている相手は神ではなく人間じゃないか、とツッコむ神も出て来るだろう。


「しかし、人間側からすればそうなるのは当然でしょう。神との橋渡しができ、死後は神使として神の御側に侍る存在を、自分たちと同じ人種だと思うことは難しいですから。かといって、皇帝たる天威師は、原則は神を宥めることに関してしか動けません」


 フルードが小さく頭を振った。驚くほどまめまめしく動くラミルファが、いつの間にか茶を淹れてくれていたので、一口飲んでから続ける。


「そこで聖威師の登場です。聖威師が神官府の長として頂点に立ち、神官という存在全体に向けられる人間の尊崇を受け止めるのであれば、何とか体裁が取り繕えます。何故なら、神格を抑えているとはいえ、聖威師もれっきとした神であり、天側に属する存在だからです」


 皇帝として天威師を、神官府の長として聖威師を、それぞれ崇め奉るならば辛うじて言い訳が立つ。天威師と聖威師は神であるため、神を敬っていることになるからだ。天の神もまだ納得するだろう。

 かなり無理があるというか、破綻の多い持論だ。だがそれでも、神を信奉すると言いながら人間の神官の尻ばかりを追っている状況になるよりは、幾らかマシなのだ。


「聖威師も地上や人間には極力関わってはならず、多くの制限を課されている身ですが、それでも天威師よりはまだ動ける範囲が広い。ゆえに、神官府の長という立場になることもできます。非常にたくさんの制約と条件に縛られてはいますが」

ありがとうございました。

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