11.建国の真相
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意外な言葉に目を瞬かせながら、アマーリエは勧められるまま応接ソファに座った。ラモスとディモスはソファの後ろに控える。この場にいるのは高位の神ばかりなので、遠慮しているのだろう。
「天界の動きについて、波神様と嵐神様が伝えに来て下さいました」
優しい青が、ちらと窓の外を見た。ガラス越しに映る景色には、帝城の時計塔が見えている。天威師と聖威師のお膝元である帝城。
「どこから話しましょうか。……アマーリエ、リーリア、そしてラモス、ディモス。天の神のお怒りについては聞きましたね」
「――はい」
アマーリエは小さく頷く。背後で聖獣たちも首肯した気配を感じた。
愛し子や神使になって少し経った頃に、フレイムから聞かされた。三千年前に起こった出来事と、帝国と皇国の創建を。それらは思いもよらない内容だった。
隣に座ったリーリアも首を縦に振っているので、フロースから教えてもらっているのだろう。そんなことを考えながら、アマーリエは伝えられた内容を思い返した。
◆◆◆
――遥か遼遠の時代において、神は天と地を行き来し、人間と共存していた。しかし太古の昔、人が神からの自立を望んだことを受け入れ、両者の世界は分かたれた。神は天に昇り、地上は人が運営と統治を行う場所になった。
やがて年月が経つと、人は遠い存在となった神への畏敬を忘れていった。私欲や権力闘争のために神託を偽造し霊威師や聖威師を騙り、なるべく表に出ずひっそりと暮らしていた本物の聖威師を見付け出しては手酷く害するようになった。神の威を借り愛し子を偽称している立場で脅威なのは、現状を憂いた本物の愛し子が動いて嘘が発覚することだからだ。
聖威師側は抵抗しない者も多かった。元が人間である聖威師は、かつての同族への情と好意を色濃く残している者が多い。力では圧倒的に上回っていても、相手が人であるために毅然とした態度に出ることができない者もいたのだ。
また、聖威師の大半は色無しの神格なので、有色の神威を持つ高位神の神器で攻撃されれば、対処が厳しいという事情もあった。
人が天への尊崇を薄れさせたことに関しては、神々は気にしていない。世界が分かれ双方の距離が開いて幾星霜となれば、そうなるのは当たり前だからだ。そもそも、この世界の神は人の信仰心を必要としておらず、人間に好かれたいとも敬われたいとも思っていない。
問題なのは、神意の偽造や詐称、神の愛し子への加害だ。前者は無視して放置する神もいたが、後者はさすがに見過ごせることではなかった。神々は天から幾度も警告や制止を発したが、人間は一向に聞かなかった。
結果、ついに神々は痺れを切らし、人類そのものを見限り神罰牢に墜とすことにした。今から三千年と少し前のことだ。人間にそこまで嫌悪を抱いていない神や、そもそも人に興味がなく傍観している神もいたが、怒りの理由が理由であることからやむなしと考え、積極的に反対しようとはしなかった。
だが、その動きを知った至高神の一部が人間を助けようと地上に降り、天威師となって神千皇国とミレニアム帝国を創建し、怒れる神々を宥め始めた。神への信仰が篤い国を立てることで、人が神に対する畏敬の念を取り戻し、態度と心持ちを改めることを願ってのものだった。
その上で年月が流れ、愛し子を傷付けられた神々の怒りが薄れれば、人類の神罰牢行きを撤回してくれるかもしれなかった。
すると、それまでは可能な限り人世の表舞台には出ないようにしていた聖威師も同調し、天威師と連携しながら人類存続に努め出した。
神格を持つ存在が、人間の領域となった地上に大きく干渉するその行為については、天でも議論がなされた。結局、天威師と聖威師の言動や活動範囲に幾重もの制限をかけることで、辛うじて許容された。
加えて、怒れる神々にもまだ人間への情が残ってはいた。完全に見捨て切ってはいないからこそ、世界には今も神の寵を受ける聖威師が誕生しており、霊威師は死後神使として天に招かれる。
神が人間に対して抱く感情は、単に好きか嫌いかでは表せない複雑なものだ。もちろん、人に興味がなく達観している神もいる。太古神はそのような者が多い傾向にある。
それらが絡み合った結果、天と地、神々と天威師と聖威師が入り混じる膠着状態が生み出され、現在に至るまで継続している。
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