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4.聖獣たちの帰還

お読みいただきありがとうございます。

 内心でひとりごちつつ、話題を変える。


「それはそうと、フレイムはまだ戻りませんね。ラモスとディモスを迎えに行くと言って、私が休憩に入る前に天界に昇ったきり……」


 葬邪神がいるとはいえ、疫神とアマーリエを同じ部屋に置いておくのは不安だったらしく、天界に還っている間は愛し子と主神の繋がりを最大限に開放しておくと言っていた。アマーリエがほんの僅かでも何かを無理強いされそうになったり、少しでも不穏な空気になれば、即座に分かるそうだ。


 ラミルファはフルードと共にいるが、同じくアマーリエに危機が近付けば自分に伝わるようにしてくれているらしい。今朝の出勤時、大神官室に挨拶に行った際、以前アマーリエに授けた守りの玉に危険感知機能を付与してくれた。せっかくなので、またバレッタに組み込んで付けている。


「心配せんでも、もうすぐ戻って来るさ――おっ、ほれ。話題に出してみればだ」

「こういうの、噂をすれば来る。一種のジンクス」


 双子神の声に合わせ、空間がキラリと光った。待ちわびていた長身と、大型の影が二つ現れる。ワインレッドの髪と黄金の毛並みがふわりと揺れた。


「フレイム! ラモス、ディモス! お帰りなさい」


 パァッと顔を輝かせて立ち上がり、駆け寄るアマーリエ。胸中に突き抜けるような歓喜と感動が満ち、自分でも驚く。どこかで覚えのある、この喜悦の感覚は何だろうか。目をパチパチさせていると、温かな手にそっと頭を撫でられ、心地よさに目を細める。


「ただいま、ユフィー。どうした、ちょっと髪が跳ねてるぜ?」


 アマーリエの髪は、毎朝毎夕、フレイムが懇切丁寧に()かしてくれている。


「少し仮眠を取っていたの」


 左右から擦り寄って来る聖獣たちの毛が、ふくふくしていて癒される。額に三日月型の白毛が生えているのがラモス、四肢の先が白いディモス。家族に虐待されていた幼い頃のアマーリエが、唯一家族と呼べた存在だった。


「アマーリエはまだ調子が今ひとつのようだ。ああ、仮眠中は俺がしっかりコイツを見張っていた。変な真似は一切しておらんし、させてもおらんから安心しろ」


 クラーラがロールをちょんちょんと突きながら言った。


「そうですか、どうもありがとうございました――って、それ……」


 愛し子の体調が優れないという言葉に眉を曇らせつつ謝辞を述べたフレイムだが、ロールの手にあるブツを見てギョッと瞠目する。


「焔神様の菓子。超絶美味。焔神様、スーパー料理上手。さすが荒神」

「いや、それもう俺の菓子じゃないんで……」


 アマーリエのために作った渾身作の成れの果てに、山吹色の眼が遠くを見た。


「わ、私も仮眠を取る前に一ついただいたわよ。すごく美味しかったわ」


 慌ててフォローに走るアマーリエ。そして、ハッと気付いて聖獣たちに目を向けた。


「いえそれより、ラモス、ディモス。戻りが遅いから心配していたのよ。天界でも色々あったでしょう。また話を聞かせてちょうだい。でも、今はまずこちらの神々にご挨拶をしなくては」


 葬邪神と疫神。決して睨まれてはいけない神々の筆頭だ。


「葬邪神様及び疫神様にご紹介申し上げます。こちらは火神様の神使にして我が聖獣、ラモスとディモスにございます。彼らがご挨拶することをお許しいただけますでしょうか?」

「いや、ユフィー、コイツらはもう神使じゃ……」


 フレイムが何か言いかけるが、太古の神々は気さくに頷いた。クラーラが青年姿に転じる。


「そう硬くならんで良いぞ。お前たちは同胞の中で最も新しい。末永くよろしく頼む」

「よろしく、よろしく。お前たち、一番年下。一番小さな雛。可愛いねぇ」

(……ん?)


 二神の返しを聞き、違和感が頭を掠めた。だが、安堵の感情の方が遥かに大きく、そちらに意識を向けてしまう。


(いえ、とにかく良かったわ。受け入れていただけたみたい)


 悪神の双子は、思っていたよりずっと友好的な態度だった。四大高位神の神使は神格を賜るが、あくまで神使の身分なので、神々にとって完全な同胞ではない。ラミルファがチラリとそう言っていたのを覚えていたので、若干不安を覚えていたのだ。


「ラモス、ディモス。こちらは最高神が一、禍神様の御子神様方よ。ご長子の葬邪神様と、双子の弟君の疫神様」

『畏れ多くも貴き神々にご挨拶申し上げます。ラモスと申します。この度、火神様及び大いなる神々のご温情により、神の末席に加えていただきました』

『同じくディモスにございます。拝謁を賜り恐悦至極に存じます』


 ラモスとディモスが四肢を折り、腹を床に付ける体勢で額突いた。最古神たちが笑顔で手を振り、楽にしろと応じている。神使に対する対応としては妙に親密度が高い。聖獣たちが神格を得ているからだろうか。


(あら?)


 そこまで考え、またもアマーリエの頭に疑問がよぎる。聖獣たちは確かに神格を授かったが、正式な立場は神ではなく神使。だというのに、彼らは今、自らを神と称した。神使とは一言も名乗らずにだ。フレイムは何故かそれを止めない。葬邪神と疫神もにこにこと頷いている。


(そうだわ、どうしてさっき……)


 同時に、最初に感じた違和感の正体にたどり着いた。葬邪神と疫神は、聖獣たちに向かってこう言った。最も新しい同胞、一番年下の雛だと。神は実年齢ではなく、神として顕現した時を基準に年齢を数える。


 だが、その考えで言えば、ラモスとディモスよりリーリアの方が後に神格を得たはずだ。アマーリエが知っている限り、彼女が最も新しく年下の同胞であるはずなのに。


(何だか変だわ)

ありがとうございました。

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