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2.少しずつ変わっていく

お読みいただきありがとうございます。

(それを気にしているから、葬邪神様は私の近くにいて下さるのかしら?)


 疫神がアマーリエの側にいるので、また暴れないか目を光らせているだけかもしれないが。


 チラと目を走らせると、フリルにレースにリボンたっぷりのロリッ子ファッションで、鼻歌を歌いながら茶の用意をしている葬邪神……ではなく、クラーラが視界に映った。あえてこの容姿に変化しているのは遊び心なのか。


 当事者に聞くのも何だか怖いので触れないことにして、アマーリエはつぶらな目をした小さな神を見る。


「……あの、疫神様……」


 この神には聞きたいことがあった。昨日の意味深な台詞の件だ。だが、ロールはちっちっちと指を振った。


「違う、違う。我、ロール。間違えるない。ロール、ただの子ども。何も知らない子ども」


 零れ落ちそうな瞳で真っ直ぐにこちらを見て笑う。その顔を見て、何を言われずとも悟る。



 ――教えん。まずは己で考えてみよ



 そんな音なき言葉が聞こえて来るようだった。内心でがっくりと肩を落とす。


(やっぱり簡単には教えてくれないわよね。けれど、神々に危険が迫ったり、害があることではないはずよ。それならすぐに伝えてくれるはずだもの。――だったら良いか)


 ごく自然にそう考え、すぐにハッと目を見開く。


(って、良いわけがないでしょう! 人間や地上に危害が及ぶことでも大問題よ!)


 自分にツッコミながら、背筋に冷たいものを感じて身震いする。

 この世界の神の(さが)。同胞以外には情や親愛を抱かない。神が真の意味で大切に想うのは、同じ神だけだ。


 神性を抑えている聖威師は、人と地上への思慕が濃く残っているが、それでも神は神。少しずつ少しずつ、思考と精神が神のそれに塗り変わって来ているのかもしれない。自覚がない内に、ゆっくりゆっくりと。


「はい、どうぞ〜」


 クラーラがカップとソーサーを配膳してくれた。礼を言い、湯気の立つ紅茶を一口飲む。温かな液体が喉を滑り落ち、寒さを感じていた心身を溶かしてくれた。ほのかな甘みが口の中に広がる。


「ちゃんとお砂糖も入れておいたのよ。焔神様からお姉ちゃんの好みを聞いておいたから」

「砂糖入れたの、ロール。ロール、親切!」

「ありがとうございます。すごく美味しいです」


 えっへんと胸を張るロールと、横に佇むクラーラ。改めて礼を言いながら二神を見遣ったアマーリエは、ふと思い出して首を傾けた。


「ところで私、仮眠中に寝言も言っていたのですか? 何を話していましたか?」

(おかしなことを言っていないと良いけれど)


 とんでもないことを言っていたらどうしようかと密かに緊張するが、帰って来た答えはあっさりとしていた。


「ん〜、切れ切れだったけど……許してあげて、ずっと不幸なんて可哀想、そんな感じの言葉だったわよ」

「アマーリエ、神罰のこと、聞いたばかり。夢で思い出してた?」


 レシスの血に刻まれた神罰について聞かされてから、まだほんの一日しか経っていない。


「そういえば、仮眠中に夢を見ていました。すごく暗くて粗い映像だった上、ノイズ混じりでしたし、途中でブチブチ切れる不鮮明な夢だったのですけれど」


 クラーラとロールの言葉で記憶が蘇り、カップを置いたアマーリエはポンと手を打った。


「ええと、確か……よく見えなかったのですが、多分女の子が泣いていて、黒い靄がかかった誰かにしがみついていたんです。靄の後ろから、光る大きな板みたいなものが出て来て、板の中では丸い光が動いていました」


 幼子二人の表情が変わる。だが、回想に集中しているアマーリエは気付かない。


「靄の中にいる誰かはすごく怒っていたみたいで、板が黒く染まって、檻のようなものに囲われて……光が何個かその中に閉じ込められていました。不幸と絶望の運命だとか、救われる道は無いとか、そんな言葉も聞こえました。ノイズだらけだったので間違っているかもしれないですけれど」


 砂嵐がかかったように暗く不明瞭な光景の中で、靄に包まれた者に取り縋っていた少女は、ずっと泣き続けていたように思った。


「靄と女の子が消えても真っ黒な檻と板は残っていたのですが、中の光は消えたりまた現れたりを繰り返していました」

(大きさや明るさが一つ一つ違ったから、同じ光が明滅していたのではなくて、違う光だったのかもしれないわ)


 そんなことを考えながら、続きを述べる。


「その内、すごく綺麗な光が現れたのです。粗い風景の中でもよく分かるくらい透き通った光でした。そうしたら、板の外から別の光がすっ飛んで来て、檻を破壊したんです。そのまま透き通った光を包んで、真っ暗な板の中から連れ出していました……あら?」


 話している内に鮮明になって来た夢の光景を思い返し、目をパチクリさせる。


「外から飛んで来た光、ラミルファ様や葬邪神様の神威と似た色だった気が……はっきりとは見えなかったから、気のせいかしら」


 呟きながら前を見て、ギョッとした。クラーラが真剣な眼差しでこちらを見つめ、ロールは面白そうにケラケラ笑っている。


「それは過去夢だな。過去視の一種だ。神格を抑えている状態である上、高位神が関わっていたためにはっきりとは視通せんかったのだろう」


 本来の口調に戻したクラーラが言う。


「だが、まだ視えている方だ。内容の判別も怪しいほど不鮮明になってもおかしくないのだが……少女より受け継がれた血が共鳴したのだろうなぁ」

「受け継がれた血ですか?」

「おそらく、泣いていた少女は最初に奇跡の聖威師となった娘。取り縋っていた相手は運命神――遊運命神だ」

ありがとうございました。

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