81.血は絶えるのか
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「ところで、アリステルが帰る前に、アマーリエに聞いておきたいことがあります」
「――はい、何でしょうか?」
思いを巡らせていたアマーリエは、フルードの声で我に返った。意識を切り替えて笑顔を向ける。
「サード家に血縁はいますか? いるとすれば、その者たちもレシスの血を継いでいます。神罰の因子が引き継がれている可能性があるので、どうにか助けられるよう考えなくてはなりません」
「ええと……私が把握している限りでは、血が繋がった親類はおりません。当然分家もないですから、サード家は私の代で終わりです」
アマーリエの子はフレイムの子でもある。片親が神格を抑えていなければ、子は生え抜きの神となる。当たり前だが聖威師にはなれないため、顕現後は天界で暮らす。必然、サード家を継ぐこともできない。
「サード家は既に貴族ではなくなっていますし、お家断絶でも問題はありません」
頭の中で即席の家系図を展開させながら、アマーリエは答えた。
「ミリエーナがどなたかと獄中結婚でもすれば、家を継ぐ可能性は残っていますけれど……妹も父も現在は服役していて、今後数十年は調教神の元で再教育されますから。とても相手を見付けている暇はないと思います」
「ミリエーナとダライに関しては、神官府で管理しているので心配は要りません。こちらが把握していない血縁がいたら厄介なのです。サード家から嫁に行かれた方の子孫などは?」
「それもありません。うちは子宝に恵まれにくい家系らしくて、ほとんど一人っ子なのです」
脳内で開いた家系図は、綺麗に一本の縦線で繋がっている。横に枝分かれした線――兄弟姉妹を持つ者はほぼいない。
「たまに二人以上の子が生まれることはありましたが、嫁いだり婿に行ったりで他家に入っても結局子孫を残せなくて……婚家の親族から養子を迎えて存続させていました。それか、他家に入ったり分家する前に早生したりとか」
祖父や父ダライに兄弟姉妹がいたという話も聞いたことがない。アマーリエとミリエーナの姉妹が生まれた当代は、実は豊作な方だったのだ。
「では、サード家の血を持つ者は、アマーリエとミリエーナ、ダライのみということでしょうか」
アリステルの育ての父もレシスの一族だが、既に邪霊に引き渡されている。あの老夫婦は、最後まで見苦しく騒ぎに騒いだ挙句、結局地下行きを取ったそうだ。邪霊の玩具か悪神の生き餌の二択では、それしか選びようがなかったのだろうが。
「おそらく。けれど、私の知っている範囲での話なので、きちんと聖威で視た方が良いかもしれません」
「確かにな。隠し子など記録に残っていない子がいた可能性は否定できない」
難しい顔で述べたアマーリエに、アリステルが顎に手を当てながら同意した。フルードと同じ顔に同じ仕草。正反対なのは瞳の輝きだけだ。
「そうですね。また今回のようになっても困りますし」
煌めく海面の双眸が、チラとキッチンに向いた。
「邪神様がお優しいのは、神格を持つ者に対してのみです。他にレシスの血筋がいたとしても、その者は人間ですから……助けの手を差し伸べては下さらないでしょう」
少なくとも、フルードやアリステル、アマーリエに対して行ったような手厚いサポートと細やかなフォローは期待できないということだ。
「聖威を使って確認します。レシスの神罰の因子を継ぐ者が、私たちとダライ、ミリエーナ以外にいないかどうか」
目を閉じたフルードの全身が、紅碧色の光に包まれる。
「私も視てみよう」
「それなら私も。三人でトリプルチェックしたら安心ですよね」
紫烏色と紅葉色の聖威も立ち上り、数瞬後。三名は愁眉を開いて聖威を消した。
「良かった、他にはいないみたいですね!」
「ええ、これで安心です」
「呪われた血は私たちで終わりだな」
アマーリエはフレイムと、アリステルは鬼神と結ばれたため、子孫は生え抜きの神となり、自身の神性で神罰を打ち消せる。フルードの子はフレイムの神炎で因子を燃やされたため、既に末裔ごと呪いの楔から解放されている。
(はぁ、めでたしめでたしだわ)
やれやれとソファにもたれたアマーリエにつられたように、フルードとアリステルも力を抜いた。
ありがとうございました。




