72.その血が負う天罰 後編
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その後、それまで裕福であった末裔の家には凄まじい苦難が相次ぎ、聖威師を騙った子どもは不幸の底に転落しました。
巻き込まれる形で少しだけ罰がかかった第三子は、自身にも災厄が襲い来るのを恐れ、帝都へと逃れようとしました。天威師や本物の聖威師のお膝元である帝都ならば、神の罰が緩和されるかもしれないと期待して。
しかし、帝都へ向かう道中の船旅で船が転覆してしまいました。後の公式発表では、生存者は一人もいないとされる大事故でした。
一方、神罰をもろに受けた子どもは、度重なる不幸により今までの場所にはいられなくなりました。這々の体で片田舎に移り住み、過酷な環境に喘いでいました。しかも、神罰は子ども本人だけでなく子や孫にまで受け継がれてしまったのです。
代を重ねるに従い、それは少しずつ薄まり、状況はマシになっていったものの、時たま神罰の影響を濃く受けた子が生まれることがありました。神罰という呪いに選ばれてしまった子たちは、特殊な共鳴を有しており、互いが一定の距離内にいた場合は各々の周辺で起きた異変を感知できる力を有していました。
そして、呪いの効果をふんだんに受けているので、一切の幸せを得られずあらゆる厄災に見舞われ、絶望と不幸の底に叩き落される生涯を決定付けられているのです。
生まれながらにして絶望しか待っていない彼らが救われる数少ない道の一つは、神に見初められること。寵を受けることで神格を授かれば、自身の神性をもって、己の内側から神罰を打ち消すことができるのです。
ただし、完全に解放されるのは昇天時に神に戻った後。聖威師でいる間は、神性を抑制して人間に擬態しているので、神罰を消し切れないのです。災厄はその身を捕らえ続けます。
聖威師のままでも助かるには、悪神から守護を受ける必要があります。事の発端となった遊運命神が悪神なので、刻まれた神罰には悪神の漆黒がこびりついています。聖威師を傷付けずにそれを外から相殺できるのは、同じ漆黒を持つ悪神しかいないのです。
また、神格にも高低があるため、守ってくれる悪神の神位によって守護の強度も変わります。強力な悪神の守りを授かることができれば、不幸は大幅に軽減されます。抽選では全て外れ、ゲームは全敗など、日常生活でネタになる範囲の不幸で収まるようになります。
しかし、この神罰の件に限っては、悪神が守護を授けることができるのは一柱につき一人だけ。さらに、守護対象は、守護をしてくれる悪神には原則逆らえなくなります。もちろん、聖威師は悪神にとっても身内なので、とても大事にしてもらえますし、丁重に扱ってもらえます。
とはいえ、そもそも悪神の考えや価値基準、嗜好が人間や一般の神とは大きくかけ離れているため、向こうとしては善意や好意でやっていることがこちらにとっては苦行ということもたくさんあります。聖威師の基準を尊重して合わせてくれる悪神に当たらなくては、かなり辛い状況になってしまいます。そういう柔軟な悪神は多くないので、かなり狭き道です。
呪われた血を持つその末裔の家名は、レシスといいます。
神罰に選ばれてしまった呪われた者も、総称してレシスと呼ばれることがあります。
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「以上が、昔々に起こった出来事です。もうお分かりと思いますが、私とアリステルは呪われた子……神罰に選ばれてしまった者なのです」
そういう意味では、この大神官兄弟も選ばれし者なのかもしれない。本人たちは欠片も嬉しくないだろうが。
「では、フルード様がおまじないをしたらドクロばかり出るのは……」
「不幸体質が僅かに漏れているからです。骸邪神様に守護していただいているので、笑い話にできる範囲にまで収まっていますが」
ラミルファは己の宝玉の心をどこまでも尊重する。フルードが嫌がること、苦しむことや悲しむことはやらない。しかも選ばれし神という最高峰の神格持ちだ。守護神としてこれ以上の大当たりはない。
「アリステルは神性を抑えていますが、得た神格が悪神なので、聖威に漆黒を纏わせることができます。そのため、悪神の守護無しでも呪いを中和できているようです」
「ゆ、遊運命神様に神罰を解除して下さるようお願いしてはどうでしょうか? 天誅を下賜した当事者なら取り消せますよね?」
「無理だ。遊運命神様は、神罰を与えた後で眠りに付かれた」
「眠り神の一柱ということですか? けれど、先日お目覚めになられたのでは」
「未だ目覚めていない神々も、少数だがおられる。特に眠りが深い、まだ眠っていたいと強く思っている、など理由は様々だが……遊運命神様もその中に含まれている」
(ええ……)
選ばれし神の無双の神威で結界を張って眠っているため、強引に神域に押し入って叩き起こすこともできないという。
「ルファリオン様が運命を操作し、眠り神たちの起床時期を調整なさろうとした際も、遊運命神様のお力に相殺されてしまったそうだ。どうやら、先方は当分起きたくないとお思いのようで、夢を通じての接触もできないそうだ」
「では、神罰を解除していただくのは無理なのですね」
「ついでに、最初に奇跡の聖威師となった娘も、心労を癒すために眠りに付き、今もまだ寝ておられるそうだ」
「…………」
何ということかと額に手を当てるアマーリエに、同室のソファにいるラミルファが語りかけた。
「アマーリエ。君は……サード家は、死亡したと思われていた第三子の末裔だ」
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