62.追加の神威
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全員が上空を振り仰ぐと、既に空は白みかけていた。復活した太陽が昇ろうとしている。日の出まであと幾らもない。
「箱さえ復元すれば更新できるのでしょう? その事実をもって、更新不可の理由が消滅したも同然だとならないのですか?」
『気持ちは分かるが、難しいだろう。昇天させられる今この瞬間に更新できなければ』
恐る恐る尋ねるアマーリエだが、狼神に静かな否定を返されてしまう。
『時間操作で滞留書の箱だけ時を早めるか、あるいは、時間が早く流れる空間を創って箱を放り込む。……いや、最高神の神威がこもった箱に対して迂闊な干渉をするのは良くないな。別の手段を考えよう』
『だったら、逆に世界の時間を止めちまうか? 箱だけ時間が流れるようにしといて、一日経ったら時間停止を解くとか。いっそもう一度太陽を破壊して、夜明けを来なくさせれば……そういう行為は地上への干渉とみなされちまうか』
ラミルファとフレイムが頭を回転させ始めるが、狼神が止めに入った。
『いけません、焔神様、骸邪神様。近頃のあなた方は聖威師に肩入れしすぎております。一応、それなりの理由は捻り出しておられますし、お気持ちも分かりますので最高神様方も許容しておられますが、さすがにこれ以上は良くありませんぞ』
ここでさらに手を貸そうとすればストップがかかるだろうと釘を刺され、二神が悔しげに黙り込んだ。
『私としては聖威師には天に還って欲しいと思っておりましたので、悪くない結果ではありますが。一緒に還ろうか、セイン』
愛し子の側に移動した狼神が、まんざらでもなさそうな顔で尾を振る。
(そんな。どうすれば良いの。聖威師は力の制限が多いから、時空操作や星破壊のような強硬手段は取れないし……まさかここで終わりなの?)
予想外の展開に頭が真っ白になった時、その霧を裂くような声が走る。
「――原紙です!」
フルードだ。泡神の手にある滞留書の原本を凝視している。
「原紙に直接書き込めば更新できます!」
皆の目が一斉に同じ方向を見る。
『――え? えっ?』
ただ一柱、事態を理解できていないフロースの手から、リーリアがものも言わずに原紙をひったくった。
『あっ、レアナ……』
瞠目したフロースが腕を伸ばす。
「アマーリエ!」
フルードがキラリと光る何かを投げて来た。反射的に受け取ると、五色の小さな宝石がはめ込まれたペンだった。彼が自分で更新しようとすれば、側に来た狼神に阻まれる可能性を考えたのだろうか。
「滞留書を更新するペンです、下の空白部分に書いて下さい!」
「アマーリエ様、署名を!」
フロースを片腕で遮りながら、リーリアが原紙を突き出す。フルードは巨大な狼神を必死で抑えている。
次の瞬間、天空で光が爆発し、大量の神威の光線が、アマーリエたちのいる場所に向かって降り注いだ。多くは無色透明だが、一部は色が付いているものもある。
「な、何だ?」
「どうして神威が!?」
ライナスと佳良が困惑の声を上げる。葬邪神が目をさ迷わせた。
『ん、念話だ。どうしたんだブレイ。……何だって? 起きた眠り神たちが、自分たちが寝てる間に顕現していた同胞に喜びと歓迎の神威を放ってる? で、地上の聖威師にも同じ神威を落としてる? ああ、今降って来ているこれか』
狼神が得心のいった顔で頷いた。
『ははぁ、天界にいる神々同士はその場で喜びを交わし合ったでしょうが、地上にいる聖威師たちにも届けたくて落として来たのでしょうな。新たな身内を歓迎する福音でしょう』
(な、何で今この時に! タイミングが悪すぎるわ!)
リーリアから原紙を受け取ったアマーリエは、迫り来る神威を呆然と見上げた。
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