表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
232/532

58.参戦の理由は

お読みいただきありがとうございます。

『ハルア、怒る怖い! 超絶怖い。昔からそう。ハルア大好き、だけどちょっぴり苦手。我、謝る! もうしない!』

『これ以上は暴れんのだな?』

『……今日のところは』

『…………』

『あぁぁ痛い痛い、嘘嘘嘘! 明日、明後日、しばらく大人しくしてる、約束!』


 無言で神威を強化した狼神に、疫神が泣きを入れた。フンと鼻を鳴らした巨狼が前脚を退ける。そして、ガラリと雰囲気を変えた。優しく眦を下げ、猫なで声で言う。


『セイン、おいで』


 この場でただ一人正座していなかったフルードが、主神に駆け寄った。


「狼神様。お越し下さると信じておりました」


 灰銀の毛並みに触れると、さりげなくモフりながら嬉しそうに微笑む。


『ハルア、礼を言う。まさかお前が来てくれるとはなぁ。太古の神は神同士の騒動には静観と中立を貫く者が多い。お前は特にそうだから、今回も傍観すると思っておったが』


 神々の兄貴分、姉貴分である葬邪神やブレイズは例外で、仲裁や取りなしに乗り出すこともある。だが狼神は違う。愛し子を守りに来たり、影から糸を引く形で暗躍することはあるにしても、葬邪神と疫神の兄弟喧嘩に直接割り込み、どちらかへの肩入れをするとは考えにくかった。


『セインが私に念話を飛ばして来たのですよ。どうか来て下さいと。愛し子の切願ならば仕方がありません』


 正確に言えば、『僕もう血を吐きそうです、それで焔の神器が本気でキレそうです、お願いですから来て下さい』である。


 焔の神器は、フルードを守るためなら()()()()()()()()()()()()()。通常時は天の神が地上に降臨した時と同じように、力の大半を抑え込んで自制しているが……いざとなれば、生来の荒神であるフレイムと全く互角の力を発揮できるのだ。


 あれが本気でブチ切れるのはまずいと、狼神ですら思った。


『それに……』


 頭を下げてフルードに撫でてもらっている狼神が、心地よさげに目を細める。薄く開いた灰銀の瞳が、フレイムとラミルファを一瞥した。


『貸しを返さなくてはなりませんでしたからなぁ』


 当の若神たちは、横目で互いを見ながらボソボソと話している。


『この様子じゃ、セインのお願いがあれば、貸しが無くても来てくれてたかもしれねえな』

『暴れ神が手に負えなくなり、本当にどうしようもなくなった時は、助太刀に来て下さいと頼んでいたのだろう?』

『ああ。キレた時の狼神様の怖さは天界でも有名だからな』


 その声が聞こえているのかいないのか、耳をピクピクそよがせながら、狼神はアマーリエたちを見た。


『此度はひと騒動であったな。天界では魔神様が走り回り、寝ぼけて力をだだ漏らしている神々を起こして、しゃっきりさせておった。ご自身の御稜威で彼らの神威を打ち消してもおられたぞ。迷惑をかけたお詫びに地上の雛たちを手伝うのじゃ〜、とか何とか言いながら』


 どうやら、魔神が陰で奔走してくれていたようだ。


『煉神様や運命神様、聖威師の主神たち、その他一部の神々も、魔神様と同じことをしておった。そのおかげで、降り注ぐ神威が随分と少なく済んだのだ』


 自分たちの知らないところで、聖威師たちに味方する神々が動いてくれていた。縁の下からの援護がなければ、アマーリエたちは神威を受けとめ切れず、地上は潰れてしまっていたかもしれない。


「神々のお心遣いに感謝申し上げます」


 フルードとアリステルが頭を下げ、アマーリエとリーリアもそれに倣った。

 と、狼神のたっぷりした毛並みを越え、コロンと幼子が転がり出て来た。灰銀の双眸が呆れを帯びる。


『それにしても、疫神様は地上で何をなさっていたのですかな?』

『我、クロウ手伝った。我、親切。褒めて良し』

『どこがだ! お前が現れてから、しばらく様子見も兼ねて聞いておったがなぁ、聖威師……この子たちの性癖を勝手に決めるな阿呆が!』

『違う? じゃあ、マゾヒスト?』

『同じだろ!』

『わざわざ神性抑える、そのせいでしなくて良い苦労する、負わなくて良い怪我負う。被虐趣味の証拠』


 ピッピッピッピ、と聖威師たちを一人ずつ指差し、小さな暴れ神が胸を張る。自分の答えを微塵も疑っていない目だ。


『この子たちは元が人間だからな、地上への思慕や愛着を色濃く残している。多少しんどい思いをしても人間の味方をしたい、守りたいと思う子たちもおるんだよ』

『人間の世界?』

『下は……地上は人間の領分になったんだ。俺たち神は上の天界にいる。で、神は理由がない限り地上には降りないし、自分から人の世には干渉しない。お前が寝ている間にそう決まった』

ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ