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53.受けるな

お読みいただきありがとうございます。

「「アマーリエ!」」


 神威の重しを受けているはずのフルードとアリステルが、左右からアマーリエに覆い被さった。身を呈して守ろうとするかのように。


《まずいまずい、アマーリエちゃん受けちゃ駄目! うーん今すぐ飛んで行きたいけど……私たちも今、祖神の神威がのし掛かってて一歩も動けないの!》

《遠隔でどうこうする余力もない。念話が精一杯だ。とにかく今の疫神は駄目だ、絶対に諾の返事をするな!》


 日香と秀峰の声が飛ぶ。こちらの声がまだ届いているようだ。


『やめろぉぉぉーっ!』


 フレイムが絶叫に近い声を迸らせ、一瞬でアマーリエたちの眼前に出現した。焔の刃が一閃し、間近まで伸ばされていた疫神の腕がパックリと斬り飛ばされる――が、瞬時に復元した。

 同時に、横方向から高速で突っ込んだラミルファが、暴れ神に体当たりをかました。


『触れるなぁ!』


 飛翔の勢いを存分に乗せた一撃に、疫神が吹き飛ぶ。末の邪神の手が翻り、神威と共に黒剣が出現した。凄まじい速さで暴れ神に斬り付ける。聖威師の動体視力をもってしても追い切れぬ超速。漆黒の御稜威の飛沫が残像を描いて跳ねる。


『触れるな来るな近付くな!』

『ラミルファ、必死。アマーリエ、お気に入りか』


 雷の剣を召喚してラミルファの猛攻を捌きながら、疫神が嗤う。目にも止まらぬ刃と体術の応酬。黒と黒がぶつかり、豪炎と爆雷が螺旋を描いて絶え間なく閃光が走る。


『心配無用。問題無し。だって我、アマーリエ、可愛がってやるよ?』

御免(ごめん)(こうむ)る! 二の兄上、貴方様がアマーリエに触れることまかりならぬ!』


 切羽詰まった様相で返したラミルファの口調が変わる。おそらく素の言葉遣いだろう。


 互いに片手で持った刃が噛み合った。絡み付くような疫神の手刀を打ち払い、末の邪神が次兄の顔面に掌打を放つ。グリンと頭を逸らして躱す暴れ神。その背後を取ったフレイムが、脇腹めがけて中段の回し蹴りを打ち込んだ。だが、後方に放たれた肘打ちを丹田(たんでん)に食らって威力を殺される。


『そーれそれぇ!』


 身をひねった疫神がラミルファを蹴り飛ばし、弟を足場にして後方宙返りしながらフレイムにも蹴りを入れる。小柄な肢体から激しい放電が起こり、漆黒の雷霆(らいてい)が場を焼き払った。攻撃をガードしながら体勢を整えた二神も神威を放ち、雷撃が聖威師に当たらないよういなす。


 刹那の油断も許されぬ攻防の中、未だにこの帝都が無事なのは、葬邪神とフレイム、ラミルファが自身の力で疫神の神威を中和しているからだ。そうでなければ、星々どころか宇宙すらとっくに粉砕されている。


 漆黒の雷電と赤黒二色の火炎が逆巻く中、乱闘に加わった葬邪神が疫神の首根っこを掴んだ。


『このっ……いい加減にせんか!』


 そのまま回転を付けて下へと投げ飛ばし、仰向けに地面へと叩き付けると、思い切り胸板を踏み抜く。轟音と共に大地が陥没し、無数のヒビが放射状に広がる。衝撃で巻き上げられた砂塵と(つぶて)の弾幕に覆われながら、暴神は地中に沈んだ。

 葬邪神が腕を伸ばすと、足下に埋まった疫神の頭を鷲掴んで持ち上げた。大量の荊が出現し、暴神を幾重にも拘束する。


 荒れ狂っていた神威が消える。砂塵が風に乗って舞い上がり、しばしの沈黙が流れた。


(やった!?)


 未だ身を押し潰さんとする神威に耐えながら、フルードとアリステル、リーリアと共に状況を注視していたアマーリエは、内心で期待を膨らませる。



『――はぁ』



 小さな溜め息が聞こえた。黒い荊にぐるぐる巻きにされた疫神が、一つしかない巨瞳を閉じている。数拍後、無数の棘の狭間で、やれやれとばかりに薄目が開いた。


『つまらない』


 ムゥと尖らせた唇から、場違いに無邪気な声が漏れた。


『アレク、ラミルファ、焔神様、全然本気ない。我、幾度も誘ってるのに、乗ってくれない。力出さない。手加減しすぎ、つまらない。というか、弱い。弱すぎ。超弱々。こんなの、荒神違う』


 ラミルファが転瞬し、じっと次兄に視線を注ぐ。拗ねたように頰を膨らませる疫神が、葬邪神を見た。


『荒神増えた、ワクワク。なのにコレ。我、ガッカリ』

『この子たちは温厚で大人しいからな。何より、世界が生まれてから顕現したから、自然と力を抑えているんだ。古くからいた俺たちだってそうだろう。世界を尊重して力を押し込めるようになったじゃないか。お前は違ったが……今はすっかりそれが常態になったんだ』


 葬邪神が言い聞かせるように告げる。


『他の荒神も? ハルアは? アイは? セラは? あと……』

『皆そうしてるぞ。ちなみにレイとリオはまだ寝てるが、あの二柱も優しいからなぁ。自ら進んで世界に合わせるだろう』

『つまらない。なら世界、不要。全部消す。そうしたら、前みたいに遊んでくれる』

『ディス――雛たちは人間が好きなんだ。この地上を消したらとても悲しむぞ』


 顔の真ん中に鎮座した単眼が、アマーリエたちに向けられた。


『人間。人間。人間か。人間、普段仲良し。笑顔。物分け合う、譲り合う、助け合う。けど、危険迫ったら豹変。自分助かりたい、罵り合う、奪い合う、争い合う』


 顔の半分を占めるほどの大きな目が、ニィと歪んだ。

ありがとうございました。

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