49.眠り神たちの覚醒
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『滞留書は更新できん状態だ。それを踏まえ、更新の可能性がなくなったとして、まだ期限の日数が残っていようとも即時昇天させる。選ばれし神の権限で可能だ』
そうなれば、聖威師たちは助かるが地上は消滅する。だが、神々にとって大切なのは同胞の安全と安寧なのだ。葬邪神が微笑む。優しく力強く、温かく真っ直ぐに――そしてどこか哀しく。
『仮にそうせざるを得なくなれば、それはひとえに俺の力不足だ。アイツを止められなかった俺が悪い。だから、怒るなら俺に怒ってくれ。どうか、水神様や狼神様、泡神様、他の強硬派や穏健派の神々を、そして疫神を恨んでくれるな』
何故滞留書を更新できなくしたのか、何故世界を壊したのかと、皆を責めないでくれと、神々の長兄が告げた。
『皆、同胞たるお前たちのことが可愛くて可愛くて、心配で心配で堪らんのだ。ただただ、どうにかしてお前たちを守りたかっただけなんだ。アイツも、どこまでも悪神らしく愉しんでいるに過ぎない。……頼む』
「私はあなたを恨んだりなどいたしません」
アリステルが躊躇なく答えた。
(葬邪神様……)
葬邪神は尊重派だという。だが実のところ、聖威師だけでなく、全ての神々の意思を重んじる大きな意味での尊重派なのではないだろうか。
『もう良い? コロコロ飽きた。我、退屈』
ふぁ〜とあくびをした疫神が、目をこすって一回転し、滞空した。タイミングを合わせたように、緊迫した念話が放たれる。当真からだ。
《緊急連絡。眠り神たちが目を覚まし始めたそうです!》
《こちらも祖神より同様の報告を受けた》
続いて響いたのは、感情の起伏のない淡々とした声。藍闇皇高嶺だ。
《眠り神の中で、至高神の神威は我ら天威師が受ける》
《他の神々は全て聖威師にお願いします。かなりの数になりますが、他に方法がありません》
淑やかな声で告げるのは、朱月皇后月香。紅日皇后日香の双子の姉である。
「「…………!」」
アマーリエたちは一斉に顔を強張らせた。疫神もおっという顔をして動きを止め、魔神と顔を見合わせている。葬邪神とフレイム、ラミルファが天を一瞥した。
『起き出したな』
『マジで最悪のタイミングですね』
『二の兄上を抑えなくては、神威を受け切れたとて終わりですよ』
短く囁き合う三神の会話と並行して、天威師と聖威師の念話も続いている。
《大神官フルード。トチ狂っ……コホン、最強の焔の神器を宿すあなたに、大半の神威を受け止めてもらうことになります。一人に負担をかけて申し訳ありませんが、どうか頼みましたよ》
《はい、朱月皇后様。元よりそのつもりで覚悟を決めております》
憂いを乗せた口調の月香に、とうの昔に腹をくくった様子のフルードが即答する。
《あとさー、何かヤバイ神が来ててヤバイ感じだけど、全員手一杯で空きがないよね?》
《それは私も気になっていました。フルードや焔神様方がおいでのようですから、少しでも神威を受ける体勢を整えることを優先し、遠視などはしていませんでしたが……》
紺月帝クレイスとオーネリアが言う。彼らもこちらの騒ぎを察知していたらしい。答えたのはフルードだった。
《時間がありません。こちらで起こったことをあなた方の脳裏に転送します》
簡潔に述べ、天威師と聖威師の脳裏に全ての情報を送る。
《あちゃー、やっぱり荒神が来ちゃってたか。これはヤバイね、ラウ兄上》
《ああ、非常にまずい。選ばれし神かつ生まれながらの荒神となれば、我らとて鎮め切れるかどうか。通常状態であれば天威師が複数で宥めればどうにかなるだろうが……》
《いや、生来の荒神は重複で荒神化する。もしも選ばれし神がそのような状態になれば、橙日上帝様でなくば対応できぬ》
《ですが秀峰兄上、ここで父上が抜ければ私たちの方が持ちません。私たちへの譲位後、眠り神たちが覚醒の兆しを見せ始めたため、無理を言って昇天を伸ばしていただいていたのですよ。疫神の方は葬邪神に頑張ってもらうしかありません》
早口で話す皇帝兄弟の会話に付いて行けない。アマーリエは内心で疑問符を飛ばした。
(こ、荒神? 疫神様は荒れてはおられないわよね? それに……橙日上帝? 先代の皇帝様じゃない)
ありがとうございました。




