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41.黒雷の襲撃

お読みいただきありがとうございます。

(どうしてここに? リーリア様の邸で眠っているのでは……)


 困惑して口を開こうとした時、脳内をフレイムの声が貫いた。


《ユフィー! まだ気を抜くな、もう一柱いる――!》


 その言葉の意味を理解するより早く、虚空に閃光が走った。鈍い黒を纏う(いかづち)


「っ!!」


 反射的にクラーラの前に立ちはだかり、結界を発動させようとする。


「きゃあああ〜!」


 だが、当のクラーラが悲鳴を上げながら、アマーリエの袖をグイッと引っ張った。


「あっ……」


 想定外のところから引かれ、バランスを崩したアマーリエは数歩後ろに下がった。稲妻が間一髪で鼻先を通り抜け、舞い上がった髪の毛先を焦がしていく。


「うえーん怖いよ〜!」

「ク、クラーラちゃん落ち着いて――」


 言い切る前に二度目の光が走った。先ほどよりも眩く刺々しい。見上げれば、視界いっぱいに黒い雷霆が迫っていた。


『伏せろっ!』


 瞬間、耳をつんざいたのは、誰よりも信を置く声だった。アマーリエは躊躇なく上体をねじり、クラーラを抱きしめると、床に転がるようにして低く身を伏せる。


 紅蓮に燃える刃が頭上を駆け抜け、熱い旋風と火の粉が舞う。大量の稲妻が全て撫で斬りにされ、轟音と爆煙を上げながら吹き飛んだ。


「フレイム!」


 火炎を噴き上げる剣を携え、ワインレッドの髪を閃かせた長身がアマーリエの前に飛び込んだ。

 だが、攻撃は止まらない。無数の球電がバチバチと虚空に出現し、漆黒の落雷が降り注ぐ。


『ちっ……!』


 美しい容貌に険相(けんそう)を浮かべたフレイムが、愛し子を背に庇ったまま得物を振るった。

 縦横無尽に飛び交う高電圧の熱線、それら全てを最低限の動きで弾く紅蓮の残像。鮮やかな炎を纏う刃がキラキラと輝き、生き物のようにしなる。蜃気楼の揺らめきが剣戟と共に大気に波紋を刻み、広い厨房内に陽炎が立ち昇る。


 長大な剣を自在に操り、冷ややかに黒雷を見据える山吹色の眼は、アマーリエが一度も見た事がない冷徹さを放っていた。


(す……すごい……)


 フレイムが戦うところを見たのは、星降の儀でラミルファと小競り合いを起こした時以来だ。あの時とは比較にならないほど速く荒々しく、そして洗練された美しい動き。それがしっかりと見切れるようになっている。


『ほぉ、見事だ』


 絶え間なく弾ける大音響と、炎雷の競演が織りなす光の明滅に翻弄される中で、その声は不思議と耳に届いた。瞬きしたアマーリエは、音源を探して視線を下に向ける。今の声は腕の中から聞こえた気がしたのだが……いるのはシクシク泣いている小さな少女だけ。


「アマーリエ、無事ですか!」

「つい今しがた、食堂にも雷撃が撃ち込まれた」


 フレイムと共に駆け付けたフルードとアリステルが、手を差し伸べてくれる。澄んだ青と濁った青は、双方共に厨房の出入口を示していた。


「食堂の方は邪神様が応戦して下さっています。私たちは焔神様と共にアマーリエと合流するように言われて来たのですが――その子は?」

「ええと、今日お話ししたクラーラちゃんです。牛の魔物に襲撃された時、リーリア様の邸に避難させたのですが、何故か戻って来てしまったようで……」

「ならばその子の避難が優先だ。転移は使えなくされているから、走って離脱するしかない」

「分かりました!」


 一体何故、どうやってクラーラがここに戻って来たのかは気になるが、そういった話は後だ。一般人の子どもをこの渦中に置いてはおけない。

 伏せていた体を起こし、少女を抱えて退避を開始した瞬間、稲妻が閃く。中空で弾けたそれは獣の形に変じ、獲物を追い詰める肉食動物のごとく宙を駆けて迫り来た。

ありがとうございました。

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