39.魔神様の壮大なる勘違い
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考え込んだアマーリエは、あることに思い至ってハッとする。
「ま、まさか、スザール地区で暴れていた魔物たちも魔神様が?」
『是。最初は魔物のみで様子見をしたが、やはり相手にならんかったゆえ、二度目からは此方も神威で後押しをした。とはいえ、所詮遊びじゃ。ギリギリで止めるつもりでおった。ワイマーに再変化してそちと接触した際、どの程度までであれば耐えられるかきっちり確認しておったからの〜』
言われて、ワイマーに化けた彼が自分の手を握って来たことを思い出す。万一にもやりすぎてはいけないと思い、直接触れて限度を綿密に見極めたのだろうか。
……そんなことはしなくて良いから、まず被虐趣味の推測が合っているかの確認をして欲しかった。切実にそう思うアマーリエである。
『だが、魔牛の時は止める寸前で焔の雛が来たゆえ、なるほど限界になると好き仲の神が助けに来て、二柱で良い感じになるところまでがセットなんじゃなと思うたのだが……』
『ち、が、い、ま、す!! 何がなるほどですか!?』
フレイムがバンとテーブルを叩いてツッコむ。ラミルファは卓上に突っ伏して肩を震わせている。おそらく笑っているのだろう。
『違うとな? では此方は、大切な同胞に怖い思いをさせてしもうたのか』
し、しまったぁ〜と呻きながら魔神が額を抑えるが、蹲って床に転がりたいのはアマーリエたちの方である。
『うぅむ……言われてみれば、いやに焔の雛と邪神の雛が怒っておるなという疑問は感じたのじゃ』
『言われてみればじゃないですよ! おかしいって思ったんならその時点で姿見せて聞いて下さい!』
『ええ、怒っておりましたとも。何せ同胞が襲撃されたのですから』
ガリガリ頭をかくフレイムと、肘を付いてテーブルから上体を引き剥がしたラミルファが口々に言った。
『こちらの同胞たちは被虐趣味ではありませんよ。あなたが良かれと思って魔物をブチ込んだ件では、本当に身の危険を感じておりました』
『そ、そうであったか。誠にすまぬことをしたの〜……』
邪神の口調が真剣さを帯び、魔神がしょぼくれて肩を落とす。
『今回みたいなことは二度としないで下さい。マジでお願いしますよ』
真面目な顔で念押しする若神たちの前で、最古の神が小さくなっている。
『うむ……』
『というか、あなたは天に還って他の神々に話を聞いて下さいよ。今、世界がどうなってて、あなたがいう面妖な雛……聖威師っつーっんですけど……が何なのか、一から説明してもらうんです。自分の神威で見通しても良いですし。頼みますから、自分でマイストーリー考えて突っ走らないで下さい』
フレイムが懇々と話し、シュンと俯いた魔神が素直に首肯した。
『そうするのじゃ……。すまなかった、小さき雛よ』
「あ……いえ……もったいなきお言葉にございます。こちらとしても大事には至りませんでしたので」
殊勝に詫びを述べられ、アマーリエ引き攣り気味の笑顔で返す。自分たちはこの神の妄想に振り回されていたわけか。
『上に戻りし後は、焔の雛とそちが非常に好き雰囲気であったことも神々に伝えておくとしよう』
「いえそんなことまで言わなくて良いです!」
『しかし魔牛に襲わせた際、焔の雛が助けに入った時のそちの顔は明らかに恋する乙女であった。今にも濃厚な接吻をしそうな気配で……』
「ちょちょちょっと、こんな場所で何てこと言うんですか!」
真っ赤になったアマーリエが助けを求めて周囲を見ると、嬉しそうなフレイムと噴き出しそうなラミルファ、微笑ましそうなフルード、まったりしたアリステルの視線に晒され、余計にいたたまれなくなった。
『……そ、そうだわ。おもてなしをすると言っておりましたのに失礼いたしました。お茶を淹れて参ります。フルード様とアリステル様は魔神様のお相手をお願いいたします』
お茶くらい聖威を使えば一瞬で淹れられるが、要するにこの場から脱出する口実である。精一杯優雅に一礼し、なるべく淑やかに見える動作で食堂を出たアマーリエは、そそくさと廊下を歩いて行った。
ありがとうございました。




