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22.襲撃者の正体は

お読みいただきありがとうございます。

 ◆◆◆


「――神の正体は分かった」


 しばしの沈黙の後、ゆっくりとラミルファが頷く。いつもの軽快な所作とは違う、緩慢な動き。彼自身も己の中で情報を整理しているのかもしれない。アマーリエは若干前のめりになって聞いた。


「正体とは……魔物をけしかけた神のことでしょうか?」

「ああ。狙いや目的まではさすがにまだ不明だがね」

「邪神様、その神とはどなたなのでしょうか?」


 フルードが問いかけ、隣のアリステルもじっと視線を注いでいる。万座の注目を浴びた邪神は、まんざらでもなさそうな顔で口端を上げた。細い指で弄んでいた魔牛の遺品を掌で一回転させ、ポイと放ってよこす。


「これは返そう」


 アマーリエが受け取ると、手のひらに収まった角を一瞥し、淡々と言った。


「それを操っていたのは、おそらく――魔神だ」

「ま……魔神?」


 無意識のうちにおうむ返しが漏れる。かつて神官府で習ったかもしれないが、記憶にはない。仮に講義で出たとしても、比重を置かれていなかったのだろうか。


「ああ。魔神クロウエン様。神格が示す通り、魔を司る神だ。一の兄上と同じくらいの古き神だよ。邪神が邪霊を駒にするように、魔神は魔物や妖魔を使う」

「ですが、邪神様。魔神様はお眠りに付かれているとお聞きしました」

「選ばれし神の一柱とお伺いしていますが、入眠中とのことで、私もまだお会いできておりません」


 フルードとアリステルが交互に口を挟んだ。


「覚醒したのかもしれない。眠れる神々の多くは、起床時に神威を垂れ流す。だが、中には気配なく起きる神もいるだろう」


 人間でもそうだ。寝言を言いながら起きる者、伸びをしながら覚醒する者、身じろぎもせず静かに目を開ける者。十者いれば十通りの目覚め方がある。


「天界の神々に気取らせず、スッと起きてスッと動き出したのかもしれない」

「そんなことができるのですか?」

「諸条件やタイミングなどもあるが、不可能ではないと思う。神々は各々の神域で眠っていて、そこから漏れる神威で覚醒の兆候を知ることができる。だが、肝心の目覚めの瞬間、その気配をほぼ出さずに起きる場合もある」


 気取られることなく起きてしまいさえすれば、後は神威を抑えて隠密行動すれば気付かれ辛くなるという。


「神威を垂れ流しながら目覚めた神がいれば、それに引きずられて他の眠り神たちも連鎖的に覚醒する。だが、神威をお漏らししなかった場合、その神だけが先行して起床することも有り得る」

「しかし、魔神様が(ひそ)やかに覚醒されていたとして、何故アマーリエを襲ったのでしょうか」

「フルードが滞留書を更新できなかったことと、何か関係があると思われますか?」


 大神官たちの疑問に、ラミルファはうぅんと呟いて宙を仰いだ。


「目的や意図は、僕もまだ分からない。……魔神様とは一度だけ会ったことがある。向こうは入眠中だから、夢を通じてだがね。好奇心旺盛な性格で、色々な空想や考察をするのが大好きだそうだよ」


 人間が生まれていなかった悠久の昔に顕現した神なので、夢の中では人型を取っていなかったという。煉神ブレイズや運命神ルファリオンなど、眠っていない古参の神々が人間に近い姿を取るようになったのは、人類が誕生してからのことだ。


「ただ、考えるのに飽きたから、少し眠ることにしたとか。僕と話した時はのんびりとして温厚な性格だと感じたよ」


 同胞を襲うようには見えなかった、と邪神は首を傾げる。意外な事実を知り、アマーリエは頰に手を当てた。


「お休み中の神々とも夢で交流できるのですね」

「そうだよ。まぁ神が見る夢は、人間が見る夢とは仕組みも位置付けも異なるのだがね。ちなみに、聖威師たちは神性を抑えている状態だから、入眠している神とは夢経由でも邂逅できない。別の神の仲介があるか、向こうから会いに来た場合は別だが」


 そこで、少年姿の神はパンと両手を打った。


「ともあれ、牛もどきの魔物をけしかけた神の目安は付いた。魔神様に会って、何故そんなことをしたのか聞くのが最善手だろう」


 とはいえ、向こうは追跡されないよう気配を遮断している。ラミルファは神威を抑えているため、天の神に本気で隠れられれば探知するのは至難の業であるそうだ。


「何にせよ、続きはフレイムが帰ってからだ。僕たちだけで勝手に動くわけにはいかない。……あちらもあちらでコソコソしているようだから、フレイムが来たら話して連絡を取ってみよう」

(あちら?)


 首を傾げるアマーリエだが、邪神が言葉を継ぐ方が早かった。


「いっそ、魔神様がもう一度仕掛けて来てくれれば早いのだがね」


 こちらから探すよりその方が手っ取り早い、と続けた邪神は、ゆったりとした所作で足を組んだ。何気ない仕草の端々から、生来の品格と格調が滲み出る。


「滞留書の件に関しても、まだ日数の猶予はあるのだろう。ならば大丈夫だ、フレイムなら事態を打開する手段を見付けてくれる。セインとヴェーゼは、フレイムが戻るまでここにいろ」


 顔色が悪いフルードと、平然としているアリステルが会釈して答える。それを横目に、アマーリエはそっと手を上げた。


「あの、でしたら皆でお茶でも飲みませんか? 夕食がまだでしたら、簡単な食事くらいなら出せますから。……少し教えていただきたいこともありますし」

ありがとうございました。

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