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17.確認してくる

お読みいただきありがとうございます。

 訳が分からないと、アマーリエは目を白黒させた。滞留書が更新できなければ、聖威師は強制昇天となる。自分にとっても大いに関係あることだ。じっと聞いていたフレイムが、何事か考え込むようにしながら聞く。


《セインは今、更新室にいるのか》

《はい》

《そっちの箱とお前が持ってる滞留書には、今も異常は無いんだな?》


 答えたのはフルードではなくラミルファだった。


《無い。僕もヴェーゼと共に確認したが、地上の滞留書と箱は通常通りだ》

《なら、おかしくなったのは天界にある箱か原紙の方なんじゃねえか》

《原紙は箱に入れたまま保管され、鉄壁の結界で守られているはずだがね。それが破られたとなると……》


 ラミルファが意味深に言葉を途切れさせた。フレイムはすぐには返事をせず、無言で宙を睨んでいたが、やがて念話を再開した。


《セイン、アリステル、ラミルファ。こっちに来られるか》


 一瞬後、その声に応える形で、三名が転移で姿を現した。


「セイン、大丈夫か?」

「はい」

「今すぐ更新しないとマズイのか?」

「いいえ……できる限り余裕を持って更新するようにしていますから、期限までまだ日数はあります」

「だろうな。お前はギリギリを攻めたりしねえだろうし。んじゃ取りあえず時間はあるんだな?」

「はい」


 蒼白な顔をしているフルードに案じる眼差しを向け、フレイムは微笑した。


《心配すんな、何が起こったのか俺が調べて来てやる。ユフィー、悪いがちょっとだけ天界に還る》


 再び念話で話し始めたのは、アシュトンとリーリアにも聞かせたいからだろう。


《分かったわ》


 滞留書が更新できなければ、聖威師には死活問題である。いや、天威師にとってもだ。聖威師が全員強制昇天になれば、神器の暴走に対応できる存在がいなくなる。神相手にしか動けない天威師だけでは、対応し切れないことが多すぎるのだ。


《ラミルファ、ユフィーたちを――聖威師たちを頼む。できるだけ早く戻るつもりだが》

《おやおや、随分と深刻な顔をしているじゃないか。一瞬会わない間に老けたのかい。眉間にシワが寄っている。顔にご自慢の神炎でも当てて伸ばしたらどうだ》


 頭の後ろで両腕を組み、飄々と告げる邪神。こちらに付き合って念話で話してくれているので、ある意味律儀ではある。フレイムは彼の言葉には食ってかからず、抑えた声で続けた。


《ユフィーが神に襲撃された。ついさっきだ》


 灰緑の双眸から揶揄いの色が消え失せた。フルードとアリステルが瞠目する。


《邸の庭に魔物が押し入って、襲い掛かって来たそうだ。聖威で応戦したら、黒い神威が魔物を後押しして防御を貫通されかけた。念話や転移、結界は無効化されたそうだ。あわやのところで俺を呼んでくれたから良かったが》

《黒い神威……》


 一転して真面目な顔で話を聞いていたラミルファが、片眉を上げて呟く。


《私も余裕が無かったので間違っているかもしれませんが、悪神の黒のように思いました》

《ユフィーの感覚が正しい。俺も見たが、悪神の色だった》


 アマーリエとフレイムの言葉を聞き、アリステルも険しい顔付きになった。


《アマーリエに大事は無かったのかい?》

《怪我などはしませんでしたか?》

《防御を破られかけたとのことだが、大丈夫なのか》


 ラミルファ、フルード、アリステルに順繰りに聞かれ、アマーリエは急いで頷く。


《はい。フレイムが来てくれたので》

《ならばその点は良かった。神が魔物をけしかけて同胞を襲った点に関しては、全く良くないがね。……フレイム、天界には僕が行こうか。君はアマーリエの側にいてやった方が良いのではないか?》

《いや、悪神が噛んでるならお前が残った方が良い》


 悪神ならではの思考とかも分かるから、万一また奇襲されても対応しやすいだろ、と続け、フレイムはさらに言葉を繋いだ。


《それに、俺があんまり出張(でば)りすぎると、悪神一族と火神一族の揉め事に広がりかねん。お前なら悪神内での喧嘩で収められる》

《なるほど、相手が悪神なら同類が相手をした方が良いかもしれないな》

《ああ。お前は葬邪神様とも同格の、最高位クラスの神だ。()()でもあるんだし……相手がどんな奴だろうが、臨戦態勢のお前を相手にするのは二の足を踏むだろうさ》

(特殊?)


 途中で何か含みがある物言いがあった気がして、フレイムを見上げる。だが、ラミルファが返事をする方が先だった。


《そこまで信頼されたならば応えなくては。安心するが良い、フルードとアマーリエを含めた聖威師たち全員、この僕が守ろう》


 うっすらと笑い、邪神が両手を広げる。その双眸の奥に宿るのは、冷ややかな怒りと煮えたぎる憤激、そして微かな困惑。


《神でありながら同胞を襲撃するとは、とんでもない話だ。悪神を思い浮かべてみたが、そんな愚行をしそうな奴はいない。一体どいつなのか……もしもまた何か仕掛けて来たらキリキリ締め上げてやるとも。心配無用で行って来いフレイム》

《頼むぜ》


 一つ頷き、フレイムはアマーリエを見た。


「少しでも異変があったらすぐ報せてくれ。まだ危なくなってねえ状況でもだ」

「約束するわ」

《お願いします、焔神様》

《行ってらっしゃいませ》


 こちらの念話を聞いていたアシュトンとリーリアも言う。


 そして――アマーリエには知る由もなかったが、この時、ラミルファは多重念話を展開し、フレイムだけに聞こえる声で話しかけていた。


《魔物を操ってちょっかいをかけて来た悪神は別にしても、滞留書の更新ができない件に関しては、おそらく君と僕は同じ予想を立てている。それはきっと正しいだろう。僕の勘がそう言っている。……僕の分までガツンと言って来てくれ》


 フレイムとラミルファの勘は当たるのだ。灰緑と山吹の視線が一瞬だけ絡み合った。


《――おう、任しとけ》


 一拍置いて皆への念話網で応じたフレイムは、そのまま姿を消した。ラミルファとの個別念話への返答も兼ねていたが、その事実はアマーリエには分からない。天界に行ったのだろうと思いながら見送った。


《僕は聖威師全員を遠視で見守っておく。誰の元に魔物が押しかけても、すぐに対応できるように。……アマーリエ、襲われた時のことを詳しく話してみるが良い》

《はい》


 軽薄な口調の裏に真剣さを押し隠した邪神の言葉。首肯したアマーリエは、もう一度説明を繰り返すために唇を開いた。

ありがとうございました。

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