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94.星々に抱かれて笑う

お読みいただきありがとうございます。

2章最終話です。

 ◆◆◆


「や、やっと終わったわ……」


 永遠に続くかと思われた謁見を乗り切り、終業時刻となった。神官府を退去したアマーリエは、本棟から外に出ると、肩の力を抜いて深呼吸する。


「今日は転移でちゃちゃっと帰るか?」


 ワインレッドの髪に山吹の目に戻ったフレイムが聞く。


「そうねえ、どうしようかしら――あら?」


 心揺れながらふと空を見上げ、目を見開く。


「見てフレイム。すごく綺麗よ!」


 紺碧に染まった夜の中、満点の星空が広がっていた。煌めく星々が河となり、宝石箱をひっくり返したように瞬いている。


「おー、今夜は晴れてんな」

「やっぱり歩くわ。この空を見ながら帰りたいもの」

「へいへい、我が女神様の仰せのままに」


 軽口をたたくフレイムと並び、夫婦で歩調を合わせて進む。


「こんなに星が明るいなんて初めてだわ」

「ああ、街灯も要らないくらいだな。それよりユフィー、しっかり疲れを取れよ」

「分かってるわよ。この程度でへばっていられないわ。これからはいよいよ役職に就くんだから」

「ランドルフと一緒に大神官補佐になるんだもんな。本格的に次期大神官として始動するわけだ」

「頑張るわ」


 拳を握って気合いを入れ、ふと下を向く。


「何だか嘘みたい。属国の神官府の奥に追いやられていた私が、高位の神に見初められて中央本府の頂点に立つなんて。未だに実感が沸かないのよ」


 神官府の極致に君臨する聖威師。至高の皇帝たる天威師にすら通じ、世界中の民から崇拝される存在。


「嘘じゃねえよ。俺に愛されたことも、お前自身が神になったことも、もうすぐ神官府の総本山の頂に登ることも。全部現実で、真実だ」


 フレイムがアマーリエの肩を抱いて腕の中に引き入れ、覗き込んで来る。吐息がかかるくらい近い距離。山吹色の双眸を見上げると、天を彩る無数の星々が視界に映る。先程は心から感動した幻想的な光景が、不思議と色褪せて見えた。

 何故なら、一等星よりも美しく鮮烈な輝きが、すぐ目の前にあるからだ。


(フレイムの瞳の方が綺麗だわ。空にあるどの星よりも)


 陶酔するような心地で思いながら、ふわりと微笑みかける。上目遣いでほんのり頰を染め、はにかむような顔を向ける愛妻に、フレイムが息を一瞬止めた。


「フレイムはいつまで特別降臨していられるの?」

「さぁ……期限がはっきり決まってるわけじゃねえんだ。もう少しは大丈夫だと思うが」

「そう」


 答える夫の顔が、どこか浮かないことが気になった。オーブリーたちの一件が起こってから、彼は時折暗い表情を見せるようになった。どうしたのだろうとは思っているが、聞いても良いことか分からないので、今のところは黙っている。


「――ここ連日、色んな人が挨拶に来てくれるわ。信じられないくらい多くの人が、老若男女問わず……。皆、すごく熱心に話しかけてくれるのよ」

「明日も明後日も続くだろうな」

「私は彼らにとって、誇れる存在になれるかしら。ピンチになっても私がいれば大丈夫だって、そう思ってもらえるような聖威師になれるかしら」


 この帝都では、日常的に神怒が降り注ぎ神器が暴れ、天地動乱の大騒動が幾度も起こる。それでも、神官も官吏も住民も、全く悲観せず笑顔で日々を過ごしている。天威師と聖威師が守ってくれるので大丈夫だと信じているからだ。

 揺るぎない信頼を、紅日皇后やフルードたちは勝ち取っている。それだけの成果を上げ続け、応え続けて来たからだ。


 自分は神官府の次代を背負って立つ存在として、皆の想いに応えられるだろうか。


「なれるさ。お前ならきっとなれる。一緒に進もうぜ。俺とお前はずっと一緒なんだから」


 最後はフレイムが腕に力を込めた。日向にいるような温もりが全身を満たす。


「特別降臨が終わって天に還ってしまっても、また降りて来てくれる? 喚んだら来てくれる?」

「当たり前だろ。お前が一言喚べば、何次元離れている世界にだって駆け付ける。……お前を絶望になんか落としたりしねえから」


 互いの薬指にはまった指輪が煌めく。二つで一つの神器。アマーリエの声をー確実にフレイムに届けてくれる。


「いついかなる時も共に。我が愛しい妻」


 そっと顎が持ち上げられ、唇が重なった。

 

(ありがとう、フレイム)


 自然と笑みが零れる。フレイムの背に腕を回し、ぎゅっと抱きしめ返す。寄り添うように佇んでいた二つの影が、完全に一つになった。


(とっても幸せ……)


 音を忘れた静寂の夜の中、降り注ぐ星明かりのライト。

 その瞬きを感じながら、愛しい存在の胸に抱かれたアマーリエは、そっと目を閉じた。

ありがとうございました。

今夜、第3章を投稿開始します。

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