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83.戻ってきた平穏

お読みいただきありがとうございます。

 ◆◆◆


「皆とても素晴らしいわ」


 楽器を携えた神官たちが繊細な楽を奏で、壮麗な衣を着込んだ者は優雅に舞っている。神用にあつらえられた特等席からテスオラ神官府の催しを眺め、アマーリエは本心から歓声を上げた。


「フレイム、天の神々や神使選定の使役たちも視ているかしら?」


 現在は照覧祭の真っ最中だ。属国の神官たちは大忙しだが、基本的に静観する立場である中央本府の者たちは観客に回っている。特に、神側で参加する聖威師は、皆を手伝うこともできない。ただ粛々と謁見を受け、賓客として各属国の催しを観覧している。


「ああ、幾らかは注目してる奴らもいるな。使役たちは俺とユフィーに遠慮して出て来ないが、陰からちゃんと視てるぜ。まあ属国にしちゃハイレベルだし、気に入られる神官も出るかもな」


 上方と周囲をさっと見遣ったフレイムが、気のない顔で頷いた。アマーリエと並べて据えられたきらきらしい貴賓席にゆったりと座す様は、さすが高位神の風格だ。


(神使選定で見出されるかもしれない千載一遇の好機なのに、ここまで落ち着いているのはすごいわ)


 テスオラの神官たちは、秋波を送っては来るが一線を越えて厚かましい振る舞いはしない。きちんと統制が取れているのだ。


「リーリア様はもうおられないから、神官たちの最終調整はアヴェント当主が頑張ったのね」


 リーリアは既にテスオラ神官府の所属を外れ、中央本府に移っている。だが、そのことは伏せられ、密かに用意された邸に身を潜めて、表舞台に出る時を待っている。


 老侯が出した除籍届けは受理され、近日中に手続きが終わる予定だ。リーリアが正式にアヴェント家から抜けた後で、聖威師になった発表が行われることになっている。

 なお、老侯はアヴェントの新後継となる者の養子縁組書も併せて提出しており、そちらも現在処理中とのことだ。


《リーリアは聖威師たちが準備した邸にいるんだろ。元気にやってるか?》


 フレイムが肉声から念話に切り替えた。特等席の近くには誰もいないが、念のためだろう。舞台に見入っている風を装いながら、アマーリエも念話返しをする。


《ええ。今までこんなにゆっくりできたことはなかったと喜んで、羽を伸ばしているわ。今度差し入れを持って行くつもり》


 なお、フロースもリーリアと同じ邸に滞留している。同じ屋根の下に気心の知れた神がいなければ不安だ、と怖がっていた彼はどこかに行ってしまったらしい。あるいは、神格を得たリーリアがその役割を果たしているのかもしれないが。


《そりゃ良かった。精々のんびりさせてやれ。肝心の除籍手続きは順調なのか?》

《大丈夫よ、戸籍の件はお役所仕事だもの。書類さえ過不足なく整っていれば、機械的に処理されるから。……けれど、テスオラではリーリア様についてあることないこと噂が立っているらしいの。何だか腹ただしいわ》


 テスオラで一番の霊威の持ち主であり、アヴェント侯爵家の一人娘であり、次期主任が確実でもあった者が姿を消し、実家からも除かれたのだ。何かが起こったことは一目瞭然。一体何があったのかと、テスオラの神官たちは口々に噂しているという。


(不名誉な形で病死か事故死した、治癒霊具でも治せない大怪我で昏睡中、神を怒らせて神罰を受けた、悪霊に憑かれて邸で発狂中、使用人と駆け落ちして失踪した、賭博にはまった挙句大負けして錯乱中……もはや妄想の世界よね)


 周囲に未だ詳しい説明をしていない老侯は、リーリアは地下に連れて行かれたと信じ込んでいる。家門の恥が大きくならないよう軟着陸することに躍起になっているそうだ。

 真相が知れ渡った時の風評被害なども混じえながら、マキシム当主に口裏合わせの交渉を行っていると聞く。マキシム当主は、邪霊にまんまと騙されてしまったという今回の件の真相を知っているからだ。


 ただし、当のマキシム当主は息子を失ったショックと心労で、半ば廃人になって寝込んでいるそうなので、果たしてまともな会話が成立しているかは怪しいが。


 また、老侯は息子のヘルガ――こちらも除籍手続き中である――に対しても、下手なことを話すなと念押ししているらしい。

 すっぱり老侯を見切ったヘルガだが、リーリアの手続きが無事に終わることを最優先にしているため、それまでは大人しくしておくつもりのようだ。


《全部話せるようになったら、本当のことを説明してやれば良いさ。少しだけの辛抱なんだぜ》

《もちろんそのつもりよ》

(一日も早く、リーリア様の真実を公表して汚名を雪ぎたいわ。早く処理が完了しますように)


 なお、諸々の噂については、当然だがリーリアの耳には入らないようにしている。


 ……余談だが、邪霊王子ゲイルは身分剥奪の上、地下世界よりさらに酷い下層世界に堕とされたらしい。地下の者すら震え上がる暗黒領域があり、そこに叩き落とされたそうだ。あの領域にヘラヘラ笑いながら足を踏み入れられるのは、悪神くらいだという。


《そういえば、ラミルファ様もまだしばらく地上にいらっしゃるのよね?》

《ああ。今はセインの側にいる。……ガルーンが最後の最後でやってくれたからな》

ありがとうございました。

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