表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/455

51.末の邪神は移り気

お読みいただきありがとうございます。

 一つ頷き、葬邪神はあっけらかんと言った。


『俺にも分からんのだなぁ〜』


 シンと沈黙が落ちる。カップを揺らして波打つ水面を見つめていたラミルファと、ピスタチオのチョコに指を伸ばしていたフルードが動きを止めた。


『兄上、何と言いました?』

『分からんのだ。何でリーリアまで邪霊に取り込まれたかさっぱりだ。少なくとも俺は指示しておらん。というか、リーリアの背後に視える邪霊は、今回の件で駒として献上された奴ではない』


 手足として使う邪霊は、邪神側が適当に声をかけることもあれば、邪霊たちの王に命じて有能な者を見繕わせ、献上させることもあるという。今回は後者だったらしい。


『しかし、兄上の神威を纏っていましたよ』

『そう言われても、知らんモンは知ら〜ん!』


 一の邪神が堂々と宣言する。ラミルファが一気に興味を失った表情になった。


『ふぅん。ならもう良いか。僕はガルーンの真相を知りたかっただけです。万々が一にでも、ガルーンが本当に聖威師になったならば、全力でセインを守らなくてはと思っていましたから』


 フルードが再びあの壮絶な虐待地獄に落とされないよう、選ばれし神の全権限を駆使し、地上でも天界でも常に絶対防御を敷いておくつもりだった。


『だが、ガルーンは偽聖威師だったから懸念は杞憂に終わったし、セインの心も落ち着かせることができた』


 呟くラミルファは、フルードの邸に泊まり込んでいる間、焔の神器と共にずっと己の宝玉の側に付いて励ましていた。ガルーンの真相がどうであれ、自分は徹頭徹尾フルードの味方であり、必ず守り抜くから心配は要らないと言い続けた。その甲斐あって、フルードは認証の日までに精神を安定させることができた。


 なお、ラミルファが早朝に特別降臨してから一日両日の間は、まだ現状が何も分からなかったことから、フルードを側で守ることを最優先にして様子見をしていた。大まかにでも状況が読め次第、ガルーンが聖威師になったことに関して、フレイムや他の聖威師たちに報告をするつもりでいた。


 だが、その前にガルーンが直訴状を神官府に送って自己申告して来たのだ。主神が方針を変え、もう言って良いと許可したからと。オーネリアがそれを読み、緊急でフルードに連絡をした。同時刻、マキシム侯爵家からオーブリーが見初められたという報が上がり、アシュトンがアマーリエに念話した。


『オーブリーも偽物だったから、アマーリエの方も心配ない。ヴェーゼの復讐も順調。リーリアのことは興味ないから、兄上にも分からないならそれで良い。……うん、これ以上気になることは無いな。はい、終わり』


 一件落着とばかりに紅茶を飲むラミルファに、フルードが両手を合わせて頼んだ。


「僕はリーリアの件も真相を知りたいのです。もう少しだけお力を貸していただけませんか?」

『良いよ良いよ、君の頼みならリーリアのことも気になって来た』


 一瞬で平然と前言撤回する末の邪神。その変わり身の早さは、いっそ爽快なほどだ。


『では、過去視をしてあげよう。そうすれば、リーリアの邪霊に何があって彼女に憑いたのか分かる』

『それが良いな。よ〜し、俺が視るか』


 弟につられて乗り気になった葬邪神が、軽く手をかかげる。過去視の神威を発動するつもりなのだろう。だが、パチンと指を鳴らそうとした、その寸前。


『……おやぁ?』


 おもむろに瞳を和ませ、動きを止めて首を傾げる。フレイムがフルードを見る時の目と酷似した、優しい眼差し。


「葬邪神様?」

『ヴェーゼから念話だ。育ての親への復讐は終わったと。合流した焔神様からリーリアの件について聞かれたので、邪霊に確認を取ったそうだ。それで報告したいことがあると言ってる。ではヴェーゼから聞けば良いな。ちょっと待っておれ、話を聞いてみる』


 そう言い置き、脳裏でアリステルと会話を始めたらしく、ふんふんと頷いている。


『これはベストタイミングだ』

「アリステルの復讐は終わったのですね」

『めでたいことだ。あの子の悲願達成は僕たち悪神が待ち望んでいた果報でもある』


 嬉しそうに灰緑の目を煌めかせたラミルファが、ご機嫌で茶を飲む。


「ラミ様は相変わらず紅茶をストレートで飲まれるのですね。僕の邸ではブラックコーヒーもお飲みでした」

『僕は辛党なのだよ。甘いものが苦手というわけではないがね』

「お兄様と一緒です。お兄様もストレートでお飲みですから」

『フレイムとおそろいか。何だか嫌だな。ミルクを入れよう』


 秀麗な顔をしかめ、ミルクが入った陶器のポットから少しだけ注いでいる。茶菓子の中から、野菜のチップスとアーモンドフライを取り分けたフルードが、笑顔で皿を差し出した。


「これなら甘くないですよ」

『そうだな』


 笑み崩れたラミルファは瞬時に受け取ると、細い指を伸ばして香ばしいフライを一粒つまむ。少しの間、カラリと揚がった表面を眺めてから言った。


『邪霊の生贄たち……ガルーンや老夫婦、オーブリーを助けに行かないのか』

「行きません」

ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ