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49.お間抜けな馬鹿

お読みいただきありがとうございます。

 それを聞いたアマーリエは、別の意味で戦慄した。


(誰に聞かれているかも分からない場所で、自分の犯罪を声に出してペラペラ喋る人がいるなんて)


 そんな馬鹿、三流の推理小説に出て来るお間抜けな犯人くらいだと思っていたが、現実にいた。


『驚いた我らは聖威でオーブリーの記憶を覗き、奴が主に対して日頃から行っていた数々の仕打ちを知ったのです』


 いつもは温厚なディモスが、憤然とした表情で言った。


『許しがたい所業でした。特に水責めの件は。ご主人様の生命を危険に晒したのです』

『主がオーブリーのことを黙していた心情を尊重したくとも、内容が内容なだけに見なかったことにはできませんでした。焔神様か大神官、神官長に告発するしかないとなったのですが、その日は火神様の神使になった件で天界に召されておりました』


 いずれ神使として担当する分野を検討しておくための打ち合わせだったという。


『天に赴くと、神々や使役も神使選定のことでざわついておりました。打ち合わせが終わり、地上に戻ろうとしていたところ、照覧祭が開かれるかもしれないと話している神々のお言葉を漏れ聞き、ディモスと再びオーブリーの話をしました』


〝照覧祭が開催されれば、テスオラ王国の神官たちが帝都に来る。主にあんなことをしでかしたオーブリーも、一団に加わっているだろう〟

〝オーブリーをご主人様に近付けたくない。彼奴(きゃつ)には厳罰を与えて欲しい。やはり焔神様か大神官に相談しよう〟


 そのような話をしたのだという。


『すると、近くを通りかかった神が聞いておられたらしく、お声かけいただいたのです。何を話していたのか聞かれたので、神の御前で嘘は吐けぬと正直にお伝えしました』

『それを聞いた神は、自分と我らは目的が同じだとお笑いになられ……良い遊びがあると狼神様の元にご案内下さり、この場で話すことは他言無用と前置きした上で、今回の計画を教えて下さいました。そして、こう仰せになられました』


〝ここだけの話だが、ガルーンと老夫婦の他に、オーブリーも邪霊の餌食にすることにしているのだ。どうだ、これでお前たちも溜飲が下がるだろう〟


(ええ? オーブリーもこの時点で標的になっていたの? ……どうして?)

「……なるほどなぁ」


 訳が分からないアマーリエが大量の疑問符を飛ばす中、何かを察した顔で首肯したのはフレイムだ。


「なぁ、声をかけて来たのってどんな神だったんだ?」

『えも言われぬほど美しい少年のお姿をした神でした。外見は10歳頃に見えました。その神の随伴をさせていただいたことで、狼神様のみならず泡神様にもお目通りが叶いました』


 説明するラモスに続き、ディモスも口を開いた。


『ええ、確か彼の少年神より最初にお声かけいただいた時は、このように言われたのです』


〝今、大神官と聞こえたが、もしや()()()()……フルードのことか? それに、テスオラ王国とオーブリーという単語も聞こえた。フルードとテスオラ、オーブリーがどうかしたのか。私に仔細を話すが良い〟


 ◆◆◆


 瞠目したフルードが、カップをソーサーに置いた。


「テスオラの御山洗の儀でそんなことが? オーブリーが高位神を怒らせたのですか? 中央本府にはそのような報告は上がっておりません」

『リーリアには泡神様が許可を出している。何も言わずとも良いとな。怒った神が神官府に怒鳴り込んだりしないよう、自分が抑えておくとも伝えたそうだ』


 老候が強引な手段で勢力を広げたことから、アヴェント家を快く思わない派閥や家門も一定数いる。

 事が知れ渡れば、オーブリーやマキシム家はもちろん糾弾されるが、リーリアもこれ幸いと非難される恐れがあった。『どんな事情があろうと、結果として自分が取り仕切る神事で高位の神を怒らせたのは事実だ』と。そうなれば、アヴェント家の面子を潰された老候は烈火のごとく怒るだろう。


 リーリアと周辺の様子を視ていたフロースは、それらの可能性に思い至り、報告を上げずとも良いと伝えた。


『泡神様自身から聞いた話だと、後で事が露見して問題になった時は見せるよう、自分の神紋入りの神書を渡してあるそうだ。他言せぬよう自分が指示したので、リーリアは神命に従っただけであるという内容が明記されているらしい』


 それならばリーリアは責められない。神の指示は神官にとって絶対だからだ。


『もう一人の当事者であるオーブリーは、口を噤むだろうとも予見していたそうだ。何しろ、神官としては致命的な大失態を犯したからなぁ。やはりというか、ダンマリで握り潰したようだ』

「愚かな真似を……」


 黙っていて良いという許しを得ているのはリーリアのみだ。オーブリーには本来ならば報告義務があったが、フロースの予測通り保身を優先した。


『御山洗の神事自体は、土壇場で代役になった泡神様の力で、どうにか乗り切ったようだが。オーブリーにしてみれば、まさか一晩で代わりが見付かったとは思えず、てっきり怒らせた高位神が機嫌を直してくれたと勘違いしたらしい』


 それでも、その時は何も言わず、リーリアを問い詰めもしなかった。下手に(つつ)けば、そしてリーリアの反応によっては、自分が神を怒らせたことが露見しかねないからだ。


『だが、照覧祭の企画が持ち上がり、開催が現実味を帯びて来た時点で、当時のことを思い出したのだろう。先日、その高位神に……あの子に宛てて私的に貢物を献上したそうだ』

「貢物……」


 嫌な予感しかしない。端麗な顔を曇らせるフルードに、葬邪神は苦笑いした。


『霊威を安定させる霊具だよ。しかもご丁寧に手紙まで添えてあった』


〝幼き神よ。あれから6年の歳月が経ちましたが、神威の扱いには慣れられましたでしょか? 御身のお力になればと思い、力を安定させる霊具を奉納いたします。また、その節はご機嫌を治して下さり、ありがとうございました。おかげで御山洗の儀は無事に成功いたしました。ところで、現在地上で行われている神使選定において、属国の神官が神にアピールする場を設ける話が出ております。もし実現しました場合、ぜひ我がテスオラの催しを拝見いただき、我が姿をご覧いただきたく思っております〟


「馬鹿」


 フルードが一言で断じた。その手紙を読んだ神は、コイツは一体何を言っているのだろうかと本気で思っただろう。身も蓋もない両断に、邪神兄弟が仲良く噴き出した。

ありがとうございました。

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