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48.聖獣たちは知っていた

お読みいただきありがとうございます。

 アマーリエの背筋にゾワリと悪寒が走る。恐怖ではない。次元が違う存在に対しての、純然たる畏敬の念だ。相対した者を心胆寒からしめる、絶対的なまでの御稜威。


 ――狼神。選ばれし神が一柱。地水火風禍の全最高神を軒並み惚れ込ませて寵愛を授けさせ、その力を認められた奇跡の神。秘めたる真の神格と無類の神威は、最高神に届き得る。また、運命神や時空神たちと同時期に顕現した最古の神々の一柱でもある。


 彼の顕現時はまだ世界ができておらず、狼という生物もいなかったため、狼神の神格を定めたのは後になってからだろう。何を司るかは、神の一存で自由に設定・変更が可能だ。前例は少ないが、司るものや神格を変更した神もいる。生え抜きの神の場合、最初は司るものを決めず、後から設定することもある。


 アマーリエの視線に気付いた狼神が、つと双眸を向けて来た。空色がかった灰銀が煌めく。


『こうして対話するのは初めてであるな。焔神様が見初めし愛し子よ』


 威厳がありながらも温かな声音が耳朶を打つ。アマーリエは衣を捌き、神に対する礼を取った。


「この度はご尊顔を拝し奉り、恐悦至極にございます。畏れ多くも奇跡の狼神様へのご挨拶が遅れましたことをお詫び申し上げます。ミレニアム帝国神官にして聖威師、アマーリエ・ユフィー・サードにございます」

『面を上げよ。聖威師の――いや、神の世界には慣れたか?』


 鷹揚に挨拶を受け入れ、狼神が優しく問いかけて来た。


「おかげさまで、ゆるゆると。フルード様には本当にお世話になっております」

『困り事があれば、焔神様かセインに聞くが良い。さすれば双方の教えが食い違うことは少ない。何しろ、セインの師は焔神様であるゆえ。むろん、他の聖威師も丁寧に教えてくてるだろう。私を頼ってくれても構わんのだぞ』

「ありがたきお言葉に感謝申し上げます」


 流麗な仕草で頭を下げるアマーリエの横で、フレイムがボヤいた。


「いやーどうですかね。セイン、そんなの教えてねえってコトもちょこちょこやらかしますから。どうも、どこかの神か聖威師かが、相当ぶっ飛んだ教えを授けたようで」

『おやおや、天上天下無類無双の規格外神器を創って授けたあなたがそれを仰いますかな』


 狼神が含み笑いを漏らす。


『それで、どこまで話しましたか。あぁ、聖獣の態度が淡白だったところに違和感を抱かれたところまででしたな』


 くっくっと笑う狼神は余裕の体を崩さない。フレイムがラモスとディモスに目を向け、静かに言った。


「なぁ、話してくれ。お前らも今回の計画を知ってたんだろ。少なくとも、オーブリーを邪霊に取り込ませる件については知ってたと思ってる。それに……前から泡神様とも知り合ってたんだろ」

『先程と同じ質問ですが、何故そう思われますかな?』

「特別降臨した泡神様が初めてコイツらと会った時、顔色一つ変えずに平然としてたんですよ。初対面の神相手には怯えまくる泡神様が。つまり、実は既にコイツらと会って、打ち解けてたってことです」

(あっ……!)


 アマーリエは目を見開いた。


『焔神様には隠し事ができません』

『上手くやったつもりでも見透かされてしまいます』


 ラモスとディモスがそろって耳をパタパタそよがせた。


(では、本当にこの子たちは分かっていたの?)


 驚きで言葉もないアマーリエの背をそっと撫で、フレイムが聞いた。


「お前らはいつから知ってたんだ?」

『照覧祭の開催が決まる前……まだ検討段階だった頃です。我らは用向きなく神官府に参ることはありませんが、主が帰邸後に色々と話をして下さるでしょう。その中に照覧祭の話題もありました』


 神官、特に聖威師となれば守秘義務事項も多いが、焔神であるフレイムと、火神の神使となったラモスとディモスには、それらはほぼ適用されない。神官が天の神や神使に隠し事をすることはないからだ――他の神から口止めされているなどの例外を除けば。


 人間の使用人を下がらせ、神格を持つ存在だけになった場では、照覧祭という企画が持ち上がっていることも話していた。


『属国が神にアピールするという話を聞き、我らはテスオラ王国のことにを想いを馳せました。主を守ろうとしなかったあの国……今までも忘れたことはありませんでしたが、意識的に考えないようにしておりましたので』


 アマーリエの境遇に、テスオラの神官たちが気付かなかったはずがない。ダライとミリエーナ、テスオラの神官であったネイーシャ。皆が神官府の中で公然とアマーリエを罵倒し、侮蔑し、時に暴力をも振るっていた。


 多くの神官たちが、それを目撃したはずなのに。宗主国から出向しているダライの顔色を窺い、抵抗する力の無い少女が不当な目に遭っていることに見てみぬ振りをしていた。ラモスとディモスは、とうにそのことを察していた。


『私とラモスは、()の国の神官府の様子を視てみました。照覧祭の開催が実現すれば、テスオラの神官たちは帝都入りし、再びご主人様の前に現れる可能性が高い。ですから、現状がどうなっているか確認したかったのです』


 アマーリエが聖威師となり、中央本府のメスが入ったテスオラ神官府はピリついていた。当然だ。素知らぬ顔をして生贄役を押し付けて来た娘が、高位神の寵を得たのだから。重苦しい緊張と後悔を孕んだ内部を視ていた聖獣たちは、そこでオーブリーを目にしたのだという。


『その時にオーブリーを見付けました。奴は神官府の廊下の片隅で、ブツブツ独り言を呟いておりました。〝俺がアマーリエを溺れさせようとしたことが知られたらどうすれば良いのだ。少しふざけただけではないか。軽く押さえてバケツに頭を突っ込んだだけだ、冗談だったのだ〟と』

ありがとうございました。

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