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45.狼神降臨

お読みいただきありがとうございます。

「どうしてフレイムにしなかったのかしら。降臨中なのだから、天界にいるラミルファ様より会いやすいのに……」


 あるいは、主神である狼神に打ち明ける手もあっただろう。


「そこはセインの考えがあったんだろう。セイン自身が決めたことならそれで良い。俺はただ、あの子が俺のトコに来た時はいつでも受けとめてやれる体勢を作っとくだけだ」


 爽やかに笑うフレイムの瞳の奥には、弟への揺るがぬ想いがある。ああ愛情深い神だと、アマーリエは思った。こんなに情の篤い神が、自分の夫になってくれた。


「ただ、何となく気持ちが分からんでもない。ラミルファはセインの()()だからな。俺よりも狼神様よりも、他のどの神よりも先に自分を見出してくれたんだ。その出会いがきっかけで、クソ貴族からも地獄の環境からも救われた」

「つまり……ガルーンの手がまた迫るかもとなったら、咄嗟にラミルファ様に縋っても不思議ではないのね」

「そういうことだな。ラミルファが特別降臨した本当の理由は、()()()()()()()()だ。狼神様に睨まれてるクソ貴族を見初める神なんざいねえから、何か裏があるとは睨んでたんだろうし」

「けれど、ミリエーナをもう一度穢すとか、新しい愛し子を探すとか言っていなかった?」

「そりゃ建前だろうな。多分だが、あの時点ではまだ何がどうなってるか何も分かんねえ状況だったから、アイツも手の内を明かさず適当な理由をでっち上げたんだ」


 フレイムや他の聖威師たちと連携するにしても、現状や経緯の把握など最低限のことを調べてから話をしようと思っていたのではないか。

 だが、神官府を探索しようとしてもフロースの神威に阻まれてしまい、どうしたものかと思案している内にガルーンの方から聖威師になったことを申告して来て、事態が動き出したのだ。


(そういえば、降臨してから四六時中フルード様から離れなかったわね)


 つまり、本当に掌中の珠を守護するためだけにすっ飛んで来たのだ。フルードの腕をがっしり掴んでいたのは、実は心労で今にも倒れそうだった宝玉を支えていたのかもしれない。


 ラミルファが特別降臨した際、気が抜けて意識が遠くなりそうだと言っていたフルードを思い出す。よく考えれば、あれはおかしい。邪神は、ミリエーナの代わりに新たな愛し子を……生き餌を探すと言っていたのだ。神官たちを守らねばならない緊急事態であり、気を抜いて意識を飛ばしている場合ではないのに。


 おそらくフルードは分かっていた。ラミルファの言葉がただの方便であり、生き餌を見付けるつもりなどないと。()()()()()()()()()()()()()()と知っていた。だから気が抜けてしまった。現実逃避ではなく、安堵から。()()()()()()()()と。


「包珠の契りは、愛し子の誓約に等しい重さと意味を持つ。宝玉の守護が理由なら、特別降臨も許可されるはずだ」


 黙って会話を聞いていたアリステルが、頃合いを見計らったように口を挟んだ。


「認証の際、末の邪神様は大層お笑いになっていたそうですね。葬邪神様の息がかかった邪霊を感得した時点で、大方の真相を弾き出されたのでしょう」

「ああ。アイツは行き当たりばったりの考え無しで行動するが、頭脳戦が苦手とか知能が低いとかじゃねえからな。むしろその真逆だ」

「……けれど、それだと分からない部分があるわ」


 アマーリエは待ったをかけた。


「リーリア様とオーブリーはどうなるの。あの二人は、フルード様ともアリステル様とも接点はないはずよ」

「そこなんだよなー」


 フレイムが頷きながら腕を組んだ。


「オーブリーの件は予想が付いてるんだ。だがリーリアが分からねえ。これが不明な残り2割の部分なんだが……」

「ちょっと待って、オーブリーのことは分かってるの!?」

「ああ。最初にアイツの名前を聞いた時に覚えがある気がしてな、どこで聞いたか思い出した時に何となく分かった。絶対正しいって確証はねえけど」

「それならもう教えて、お願い!」


 両手を合わせておねだりすると、フレイムは瞬殺で折れた。


「ユフィーの頼みなら仕方ねえな〜。推測で良ければ、オーブリーのことは話してやるよ。ただ、リーリアのことは邪霊たちに聞かねえと」


 山吹色の双眸が動き、置物と化して隅に控えていた男女の邪霊二体を見た。視線に気付いた邪霊たちが一礼して前に出る。


「テスオラ王国の神官リーリア・アヴェントが邪霊に憑かれてる。お前らと同じように、葬邪神様の神威で霊威を覆ってるんだ」


 邪霊たちは困ったような、気まずげな雰囲気になって下を向いた。


「老夫婦、ガルーン、それにオーブリーに関しては、それぞれ怒りを抱いてる神がいるから、その神々が噛んでるんだろうと推測できたが……リーリアに関しては心当たりがない。お前らの方で知っていることがあるなら話せ」

『は、その……誠に申し上げにくいのですが……』

『我ら邪霊側の不始末と申しましょうか……』


 歯切れの悪い様子を見て、アリステルが割って入った。


「焔神様、私が聞き出します。あなたはアマーリエにオーブリーの件を話してやって下さい」


 淡々と言い置くと、邪霊たちを伴って少し離れた場所に移る。


「おー、そんじゃ頼むわ」


 申し出に甘えることにしたらしいフレイムが首肯し、アマーリエに向き直る。


「リーリアのことはアリステルに任せて、オーブリーの予想を話す。――狼神様! 出て来て下さい。聞いてるんでしょう? それから、()()()()出て来いよ」

『やれやれ、やはりお気付きでしたか』


 苦笑を孕んだ声と共に、空色がかった灰銀の巨躯(きょく)が舞い降りる。星降の儀にて、フルードに寄り添っていた神だ。


(狼神様……あら?)


 背筋を伸ばしたアマーリエは、巨狼の後ろから現れた影を見て瞬きした。

ありがとうございました。

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