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10.『声』の正体

お読みいただきありがとうございます。

 ◆◆◆


「アマーリエ!」


 サード邸に帰ると、顔を真っ赤にした父ダライ・サードが玄関で仁王立ちしていた。怒鳴り声と共に振られた腕に脇腹を殴打される。だが、痛みは一切なかった。寸前で張られた結界により衝撃が散らされ、負うはずであったダメージが無効化される。気付いた様子もなく、ダライは唾を飛ばして言い募った。


「神官府から連絡が来たぞ。レフィーが謹慎になったそうだな。しかも懲罰房だと? 可哀想に、あのか弱い子が……。何故お前が身代わりにならなかった! 役立たずの癖に!」


 もはや聞き慣れた罵倒は、それでも錆びた刃のようにアマーリエの心を鈍く抉った。体へのダメージを霧散してくれる結界も、精神までは守れない。


(ああ、やっぱり八つ当たりされたわ。……お父様が愛しているのはミリエーナだけだもの)


 弱まり切った霊威を子の代で回復するため、ダライは政略結婚を行い母ネイーシャを(めと)った。だが、アマーリエは微々たる霊威しか持たなかったため、期待外れとして蔑んだ。その分、サード家の基準では十分に強い霊威を持つミリエーナを救世主として溺愛している。


「我が家で最も強い力を持つのはレフィーだ。神に選ばれるならばあの子しかいないというのに……この大事な時に懲罰房行きとは、何と不憫な。元伯爵家たるサード家の栄誉を回復させる絶好の機会だというのに!」


 憎悪を込めた目で、ダライはアマーリエを()め付けた。


「お前が代われば良かったのだ。お前など神に選ばれるはずがないのだからな!」


 死ぬまでどの神にも選ばれなかった霊威師は、昇天した後に従来通り四大高位神が適当な神に割り当てるという。アマーリエはそれでもいいと思っていた。下手に高望みなどしない方がいい。


「傷は治癒しておけ! それくらいならばお前の脆弱(ぜいじゃく)な霊威でもできるだろう!」

(別に怪我なんかしていないわよ)


 先ほどの脇腹への一撃が見事に入ったと勘違いしている父を、アマーリエは冷めた目で見つめる。


「全く、この能無しが……!」


 再度吐き捨て、ダライが足音荒く去って行った。


(今日からは邸での居場所がますます無くなるわね……)


 重い溜め息を吐き出しながら自室に入ると、我が物顔でソファを占領する青年がいた。


「よぉ、帰ったか」


 美しく整った顔立ちに鍛え上げられた長身、少し跳ねた短髪は艶のあるワインレッド。双眸は赤みが強い山吹色だ。金髪に青もしくは緑の瞳が常である帝国民には有り得ない色彩だ。黒髪に黒または焦げ茶の目の皇国民でもない。そもそも、彼は人ですらない。縦に裂けた瞳孔に尖った耳、鋭い牙がそれを証明している。


「ただいま、フレイム」


 炎を意味する名を持つこの青年こそが、『声』の正体だ。父の拳からアマーリエを守る結界を張ってくれた張本人である。


「まーたバカ親父が怒鳴ってたな。ダミ声がここまで響いてたぜ。おまけに娘に手を上げるなんざ論外だ。お前はなーんにも悪いことしてねぇのにな」


 軽い口調で言うフレイムだが、その眼の奥は笑っていない。ダライへの怒りが滲んでいる。最初にアマーリエが暴力を受けていることを知った時には、ダライを消し炭にしようとしていたが、それはダメだと必死で止めた。フレイムは不満そうに口をへの字に曲げていたが、アマーリエの意を汲んで密かに結界を張るだけに留めてくれている。


「なぁなぁ、決心して楽になっちまえよ。燃やそうぜ、あいつら」


 小さな火球を幾つも出現させ、自身の前でクルクルと回して遊んでいるフレイムを、アマーリエはジトッとした目で睨んだ。


「燃やしません。そんなことをしても楽になりません。それよりフレイム、今日は守ってくれてありがとう。神官府での霊具暴走の件よ」


 大爆発を起こした火炎霊具の暴威を逸らしてくれたのは、間違いなく彼の力だろう。


「良いってことよ。お前のためなら多少の苦労は何のその、なんだぜ」


 案の定、フレイムは己の功績であると肯定した。さぁ褒めろ褒めろとばかりに胸を逸らす彼には申し訳ないが、若干冷たい声をぶつける。


「けれど――人前では力を使わないでと、何度もお願いしたわよね? せっかく守ってくれたのにこんなことを言うのは申し訳ないけれど、今日に関しては聖威師が同じ場所にいらっしゃったのよ。爆発が起きても防御して下さったと思うわ」


 事実、佳良は結界を張ったと言っていた。


「私に危険が及ぶ確率は限りなく低かったの。なのにあからさまに分かる形で力を使うから、上の方々に睨まれてしまったわ。あなた、自分の存在を秘密にしておきたいのではなかったの? だから私も協力していたのに……自分から目立つようなことをしてどうするのよ」


 フレイムの対面にポスンと腰を下ろして頬を膨らませると、彼はやや気まずそうな顔になって頬をかいた。


「あー……やっぱ勘付かれたかな」

「ええ、確実に。聖威師は気付いていらっしゃると思うわよ。……私の近くに神使がいるとね」

ありがとうございました。

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