第9章 「どうする、どうなる?友ヶ島での研修合宿」
挿絵の画像を作成する際には、「AIイラストくん」を使用させて頂きました。
ベタベタと戯れ合いながら宿直室へと向かうクラスメイト二人を見送った私は、軽く肩を竦めからその場を後にしたの。
ああいう友情のレベルを大幅に振り切ったスキンシップを見せつけられちゃうと、どうも調子が狂っちゃうんだよね。
エレベーターホールの自販機で買った缶ビールを気付け薬代わりにグイグイやってみたけど、まだ先程の余韻が残っちゃっているよ。
それでも友達との待ち合わせ先へ着く頃には平常心を取り戻せたけど、気を静める為にお代わりしたロング缶二本の御陰でスッカリ息が酒臭くなっちゃったんだよね。
「成る程、そうかい…ちさがビールの空き缶片手に休憩室へ現れたのには、そういう経緯があったのか。」
私と向かい合わせで座った少佐階級の少女士官は、右目を覆い隠す程に長く伸ばされた前髪と右側部で結われた太いサイドテールを小刻みに揺らして頷くのだった。
この矢鱈と右半身に特徴の偏った少女士官は和歌浦マリナちゃんと言って、同じ堺県立御子柴高校の友達なんだ。
アルトソプラノの大人びた美声とクールビューティな凛々しい美貌の持ち主という事もあり、年若い下士官の子達からの人気も高いんだって。
オマケに個人兵装である大型拳銃の腕前は百発百中で近接格闘術にも長けているから、最前線での戦闘においても頼りになるんだ。
レーザーライフルを用いた狙撃を得意とする私とは、その点でも相性が良いんだよね。
「そうなんだよ、マリナちゃん。平常心を取り戻すには、お酒でリセットするのが手っ取り早いからね。あの二人は今頃、宿直室でよろしくやっているんだろうなぁ…」
アルミ缶の底に残っていたビールを一気に飲み干すと、私は休憩室の天井を見るともなしに仰いだんだ。
こうして白い天井に目を向けていると、色んな声や音が今にも聞こえてきそうだよ。
葵ちゃんとフレイアちゃんの艶かしい嬌声とか、ベッドの軋む音とか色々なのがね。
この休憩室の設けられた階から宿直室のある十七階までの間には、結構な隔たりがあるはずなのにね。
「そう言ってやるなよ、ちさ。今回の受験希望者全員がめでたく昇級試験にパスしたなら、ちさは必然的にあの二人と一緒に研修合宿へ行く事になるんだからな。」
「然りだね、マリナちゃん。今から免疫を付けとかないと、友ヶ島の研修センターじゃ悶々として身が保たないよ。」
一足先に佐官への昇級を果たした友達に応じながら、私は合格発表の先に待つ研修合宿に思いを馳せていたの。
佐官に昇級を果たした防人乙女は一週間の研修合宿に行くんだけど、我が堺県第二支局を始めとする近畿ブロックの佐官研修生は、和歌山県に位置する友ヶ島要塞の研修センターを使うのが慣例なんだ。
この友ヶ島要塞は、人類防衛機構の前身である大日本帝国軍が他国からの侵略を防ぐ目的で建設した基地だから、歴史的にも重要な要塞なんだよね。
そんな歴史ある友ヶ島要塞に設けられた研修センターには、人類防衛機構関係者を対象にした保養施設という側面もあって、マリンスポーツを始めとするアクティビティや天然温泉等を楽しむ事が出来るんだよ。
人類防衛機構に所属している私達は生体強化ナノマシンによる改造処置を施されているから、季節を気にせずにマリンスポーツを享受出来るんだ。
葵ちゃんとフレイアちゃんは両想いのカップルだから、確実に水着姿でビーチ遊びをするんだろうね。
クラスメイトの誼がある訳だから、私もビーチ遊びにはお付き合いした方が良いのかな。
まあ、私の場合はお子様体型で腰の括れとかがパッとしないから、水着も上手く選ばないといけないだろうね。
フリルやスカートのついたデザインの水着なら、身体のラインを上手に誤魔化せるのかな。
前にテレビの情報番組で見たメイド風ビキニなら、私でもいい感じにいけそうだよ。
まあ、フレイアちゃんも葵ちゃんも体型の事についてとやかく言うような子じゃないから、あんまり気にしなくても良いんだろうけど。
それに加太温泉と泉質や効能を同じくする名湯に浸かりながら和歌山市の地酒を飲み比べるのも、なかなか楽しいだろうね。