第7章 「岡目八目な少女じゃいられない。」
良く言えば第三者視点、悪く言えば安全地帯の傍観者。
そんな具合に俯瞰的な立ち位置に甘んじながら岡目八目を決め込んでいた私だけど、何とも意外な形で話題に混ざる羽目になっちゃったんだよ。
「あっ!良い所にいたよ、千里ちゃん!クラスメイトの縁だから、ちょっと顔を貸してくれないかな?」
「えっ…ああっ、おっとと!無茶しちゃ駄目だよ、葵ちゃん!」
不意に目線が合った次の瞬間、私は葵ちゃんに左手を取られて引っ張られちゃったんだ。
対策講座が終わって受講生達の目がなくなったから良いけど、こうしてグイグイと引っ張られるのはカッコ悪いなぁ…
「その良い例が、ここにいる千里ちゃんだよ。千里ちゃん達のグループって、千里ちゃん以外はみんな少佐でしょ。だけど千里ちゃん達のグループは、普通に仲良く出来ているじゃない。」
「えっ、私?アハハ…まあね、葵ちゃん。英里奈ちゃんや一年B組の二人には、本当に良くして貰っているよ。」
いきなり巻き込まれてビックリしちゃったけど、フレイアちゃんを元気付けるのに一役買う事が出来たなら御の字だよ。
私としては自発的に助け舟を出す形での協力を想定していたから、こうして引き合いに出される形での協力はちょっと予想外だったけどね。
「左様で御座いましたの、葵さん…葵さんは私の事を信頼して下さっているというのに、私は…」
「良いんだよ、フレイアちゃん。フレイアちゃんがナーバスになっちゃったのも、それだけフレイアちゃんが今の私達の親密な関係性を大切に思ってくれている証なんだからね。」
あんな感じで肯定的に励まして貰えたら、些細な不安や悩み事なんて何でもない事みたいに感じられるだろうね。
そう考えると、フレイアちゃんは良い友達に恵まれたと思うよ。
「仰る通りですわ、葵さん!葵さんに対する私の想い、もしも御望みとあらば何時如何なる時でも…」
「そう言って貰えて喜ばしい限りだよ、フレイアちゃん。それなら、その情熱は今度の昇級試験にぶつけなくちゃね。」
先程までのナーバス気分の反動なのか、元気が出た途端に暴走し始めたフレイアちゃん。
それを上手にいなす葵ちゃんの手腕は、本当に大した物だよ。
「今度の昇級試験では、二人揃って仲良く少佐に昇級しようよ。私もフレイアちゃんのために試験を頑張るから、フレイアちゃんも私のために試験に臨んでよ。」
「勿論ですわ、葵さん!ブリュンヒルデ公爵家の家名に誓っても、この御約束は必ず果たして御覧に入れますわ!」
フレイアちゃんもスッカリ自信を取り戻したみたいだし、これで全ては万々歳だね。
斯くして、昇級試験を控えてナーバスになりつつあったフレイアちゃんの精神衛生は、親友である葵ちゃんの執り成しと激励によって健全な方向へ軌道修正がなされたんだ。
そんな二人の仲をより盤石な物にするためにも、私なりにささやかな手助けをしてあげちゃおうかな。
余計なお節介かも知れないけど、具体例を示すために連れて来られただけじゃ、私も立場がないからね。
「ねえ!どうかな、二人とも。講義も終わって休憩時間に入った訳だし、三人で地下食堂か堺銀座にでも一杯やりに行ってみない?」
とはいえ私の貧困な発想では、飲みニケーションしか浮かばなかったんだよ。
葵ちゃん一人だったら特撮ヒーロー番組の話題だけで幾らでも場を持たせられるけど、難しいのはフレイアちゃんなんだよね。
フレイアちゃんはそこまで特撮物に詳しいわけじゃないし、かと言ってフレイアちゃんの得意分野であるクラシック音楽と西洋美術の話題をしようにも、私の知識は音楽と美術の教科書に毛が生えた程度だからなぁ。
知ったかぶりの知識でボロを出すよりは、お酒の勢いで乗り切った方が無難なんだよ。
それに私が思い付いた他の案は、どうもイマイチだったからね。
三人で雀荘にしけこんで麻雀を打つのも何か違うし、十代の女子高生三人がゴルフのコースを回るのも色々と無理があるからね。
そもそも私、接待ゴルフなんてやった事もないよ。
後学のためにも色々な趣味や遊びを知っておきたいけど、それはまた今後の課題だね。
取り敢えずは、飲みニケーション一本鎗で乗り切ってみるかな。
「ボトルをジャンジャン開けてパーッと騒いで、思いっ切りメートルを上げようよ。そうすれば、ナーバスムードなんか嘘みたいに晴れちゃうんだから!」
「おっ!良いね、千里ちゃん!昔から『酒は百薬の長』って言うし、飲んで英気を養うのは名案だよ。」
話が早くて助かるよ、葵ちゃん。
そうして乗り気な反応を示してくれたなら、私の面子も保たれるって物だよ。
改めて考えてみれば、葵ちゃんやフレイアちゃんとトリオで飲むのも珍しいシチュエーションだし、このメンバーで親睦を深めるのも悪くないかもね。