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勇者出会う

 今日は、二人ともログインできないと言っていたので、

 僕はまじめに魔導書の作成を行っていた。

 僕は、手に持っていたペンを投げた。

 剣を持つよりしんどい。

 僕は大昔に書いた、魔法の大分類の部分を読み返した。



神聖魔法

 自身の魔力で神や神の使いの力を顕現させる魔法体系。白魔法ということも。

 強力な回復魔法、解毒魔法、破魔、などを使えるようになるのが特徴。

 特定の神を信仰することによって、より強力な魔法が使えるようになる。

 悪魔契約をしたものは使えなくなる。


暗黒魔法

 悪魔と契約を行い、悪魔の力を顕現させる魔法体系。黒魔法ということも。

 悪魔に自身の魂の一部を渡すことで強力な魔法を使えるようになる。

 主に攻撃魔法が多い。

 心が弱ると、魂が回復しなくなり死に至ることもある。

 

精霊魔法

 精霊のエネルギー源となるエーテルを精霊に渡し精霊に魔法を使ってもらう魔法体系。

 そもそもエーテルを生成できる人間が少ないうえに、精霊に指示または依頼して魔法を行うため、術者の意図しない魔法が発現する事もおおく使い勝手が悪いため、術者が少ない。

 逆に精霊に簡単な指示だけだして、精霊に任せるといった魔法のつかいかたもできる。



魔王討伐を志す者は、神を信仰するか、悪魔契約を行うことが今の定石だ。

ただ僕は精霊魔法の使い手である。

精霊魔法は、神聖、暗黒魔法とは全く別系統。

精霊魔法と同時に、信仰か悪魔契約を行うことができるので、僕は回復特化の天使『サンダルフォン』を信仰している。


もっと精霊魔法が広がれば、楽に魔王討伐を行うことができると思うので、精霊魔法の扱い方について少しずつ書いているのだが、

いかんせん、ペンは剣ほどうまく操れない。


「はあ、もう今日はいいか」

 今日は二人がいないのでゲームをやらないつもりだったが、ついゲームを起動させてしまった。


(フリーモード)(マッチング)

 

 僕はマッチングを選択した。

(タイトル一覧、ラブラブカップルコース、幼なじみライバルコース、ドラマチックな出会いコース、告白コース……)

 タイトルを読んでもやっぱりよく分からないので

(ランダム)を選択する。


(告白コース 男1女1)

(ロード中、しばらくお待ちください)

(自動プレイモード、しばらく世界観をお楽しみください)



 小さな机が大量にきれいに並んでいる間に、僕は立っていた。

 部屋を夕焼けが照らしている。

 隣を見ると銀色の長い髪をした美女がいた。

 カレンちゃんがきている制服と同じものを着ているが、服がはち切れそうなほど胸が大きい。

 だというのに、腰回りは細くあでやかさがある。

 なんて魅力的な女性なんだろう。

 僕らは見つめあった。

 女性は僕に微笑みかけてくる。

 僕は間近でこんな女性を見たことなかったのでくらくらした。

 自動プレイモード中なので、視線をそらすことすらできない。 

 うるんだ瞳が真っ直ぐに僕を見つめてくる。

 彼女は僕の手を握りしめてきた。

 ふっくらした唇が開いた。

「君のことが、好きです。付き合ってください」

 僕の口が応える。

「はい。喜んで」


(自動プレイモードを終了します) 


 あと数センチで抱きしめられるというところで、コントロールをこちらに渡された。

 あとはお互いの意志で、抱きしめあえばいいということなのだろう。

 相手も数あるモードの中から、このモードを選んだのだ。

 もしかしたら、彼女もランダムを選択したかもしれないが、恋愛ゲームということは、認識しているだろう。

 こうなることは想定済みのはず、さあいけ。

 こういう場合は男から行くものだろう。

 現実の醜い僕とは違い。

 今は僕が想像できる中で最高の容姿の男子。

 さあ、いけ。行くんだ。

 ……。


 僕はへたれだった。


「こういうことは、まずはお互いを知ってからじゃないと」

 僕は慌てて手を離しながら、目の前の女性にそう言った。

「なんだいつまらない。折角お膳立てしてあげたのに、抱きしめてキスぐらいしようじゃないか」

 当然あちらも自動モードが終了したのだろう。雰囲気が一変する。

「なんだい? 私の容姿は好みではなかったかな」

 ふぁさりと髪をかきあげる。

 随分自身に自信がありそうだ。

「いやそんなことは……」

「まあ、肌感覚まで再現出来ていないからね。君の本能をくすぐるまでには至れなかったかな。まあ、それについては今後の課題かな」

 そういうと、目の前の女性は適当な椅子に座った。

「どうしたんだ勇者? 座らないのかい? 君の言う通り、お互いを知るところからはじめよう」

「ああ……」

 僕は促されるままに、向かいの椅子に座りながら、今言われた言葉を思い返す。

「いまなんて?」

 それに今僕のことを勇者と呼ばなかったか。

 それに話しぶりから考えると

「もしかして、このゲームの開発者か」

「ああ、そうだよ。ようやく気づいてくれたね」

 僕は身構えた。

 ただ身構えたところで、目の前の人物はただの映像だ。

「僕になんの用だ?」

「随分な物言いだね。普通楽しんでいるゲームの開発者にあったのなら賛辞を送るものではないのか?」

「僕のことを勇者だと言わなければそうしただろう」

「そうか。それは失敗したね。だけど、私は勇者である君と話がしたかった。逸る気持ちが抑えられなかったのだよ。ようやく君がランダムマッチをやってくれたおかげで出会うことができたのだからね。なあに、自分が開発したゲームを勇者がしていると知れば、開発者権限を使って、あってみたくなるものだろう。ようは君のファンというやつだ」

 ファンと言われれば、悪い気はしない。

「そういうものか。どうして僕が勇者だと分かったんだ」

「実は初回のログイン時に、君の本来の姿が映ったのは覚えているかい」

「ああ」

「実は、そのデータを保管しているのだよ」

 データというのは記録のことだろう。

「そんなこと許可してないぞ」

「ははは、もちろん。教えてないからな。そんなことを教えたら、プレイしてくれる人が減ってしまうじゃないか」

「僕に教えていいのかよ」

「おっとうっかり、君のファンだから思わずしゃべってしまったよ。内密にしてくれたまえ」

「おい」

 内密にというわりにぺらぺらとよくしゃべる。

「それでどうかね。このゲームは楽しいかね」

「ああ、もちろん、楽しいよ」

「そういってもらえると開発者冥利に尽きるね。今日の告白モードはどうだったかな。ドキドキしただろう?」

「ああ」

 今までは、エリックとカレンちゃんと遊んでいるだけだったが、告白モードは恋愛の本気度が違った。

 恋愛ゲームというのがよく分かった。

「実は、この告白モードこだわりがあって、実は自動プレイモードの最中、男女でセリフが違うように聞こえているのだよ」

「どんな感じに?」

「男女ともに、相手から告白してきているシチュエーションになっている」

 ゲームならではの演出なのだろう。

「でも、どうして」

「もちろん。相手から告白されたほうがドキドキするだろう」

「確かに」

 もちろん。突然告白されてうれしいのは美男美女だろうが、この世界にはキャラメイクされた美男美女しかいない。

 ドキドキするに決まっている。

「だというのに君というやつは、抱きついてきてくれないとは、私は覚悟してこのモードを設定してあげたというのに、私の容姿は気に入らなかったかい?」

「いや、随分美人だと思ったよ」

「そうかい。それはうれしいね。私は、実際に似せて自分のキャラを作ったのだ。この場で心をかわしておけば、私に会った時君も付き合いたいと思うはずだ」

 こんな美人が現実にいるとはとても信じられないが、それが本当だったとしても……

「そうか。僕が付き合いたいとおもったとして、君が僕と付き合いたいと思うことはないだろうな。現実の俺は醜い」

「さっき言っただろう。私は現実の君の姿をしっている」

「そういえばそうだったな。それなら、今でも僕のことは怖いだろう」

「私は、強い男が好きだからね」

「本当かよ」

「ファンだといっただろう。ぜひ仲良くしてもらいたいものだ」

 演技かかった身振りで信じられない。

 でも、開発者というのは本当なのだろう。

 開発者しか知りえない情報を持ちすぎている。

「おっと、私は多忙でね。今日はもう戻らねばならない」

「ゲームの開発に忙しいか」

「そんなところだね。今日は挨拶だけだな。次はゆっくりはなそうではないか。君のIDに私のIDを登録しておいてあげよう。フレンド登録というやつだ」

 僕の画面にポップアップする。

 許可していないのに、勝手にフレンド登録されてしまった。

 勝手だなぁ。開発者様は。

 名前はメリアンヌとなっている。

 きっと偽名だろう。

「今日はこれで失礼させてもらうよ」

 文句の一つや二つ言っておきたいところだが、時間がないようだし、僕は後回しにした。

 ただし、一言だけはしっかり言っておかなければいけないことがある。

 これだけはどうしても。


「楽しいゲームを作ってくれてありがとう」


 楽しんでいるゲームの開発者にあったのなら賛辞というより感謝を送りたいと思っていた。

 次いつ会えるかわからないのだから、今日という日を逃すわけにはいかない。


 開発者様は、少しだけ驚いた顔をして、

「では、また」

 笑顔で手を振り消えていった。

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