勇者遊園地に行く
「よし。今日こそ学校にたどり着こう」
エリックが気合いを入れて言った。
「おう」
「頑張りましょう」
なんだか毎日言ってる気がする。
「今日こそたどり着くからな」
エリックが念押ししてくる。
「そんなに念押ししなくても」
「だってよ。学校だってどんな場所か気になるだろ」
「そうなんだけど、目の前の好奇心に負けるというか」
気になるものが多すぎて、なかなか前に進まなかった。
「今日は絶対学校行くからな」
「わかった。わかったから」
エリックは掴みかかってくる勢いだ。
僕らはいつも通りミッションを起動しようとした。
「変だな?」
「おかしいです」
カレンちゃんも困惑している。
「どうしたんだよ」
「いやーそれが、学校に行こうのミッションがない」
毎日あった学校に行こうというミッションがなかった。
「なぜだぁあああ」
自分でも確認したのだろう。エリックが頭をかかえて叫んだ。
かわりにミッションが(遊びに行こう)になっている。
どういうことだ?
今気づいたが、なぜか今日は僕らのスタートの服装がいつもと違っていた。
いつもより軽装で動きやすい。
現実の世界では魔物に襲われケガしないか不安になるほどだ。
なんだかいつもと随分違うな。
そういえば、冒頭に少しだけある自動モードを思い出した。
「そういえば、今日はお休みねと母親が言っていたな」
「休みも何も、俺らまだ一度も学校に行っていないんだが」
「さぼりすぎだな」
学びやに一度もいかずに休みに突入してしまった。
まあ、ゲームだしいいか。
僕はそういうことにした。
「なんでだぁああ」
エリックが発狂している。
まじめな奴だな。
「まあ、休みなんてちょっとだろう」
暦も出ているが、よくわからん。
現実の方は、毎日同じように過ごしているので、休みなんて気にしたこともない。
この世界は、仕事と休みのメリハリがしっかりしているらしい。
気を取り直して、
僕は(遊びに行こう)の選択肢を見た。
(アミューズメントパーク)
(ショッピングセンター)
(サファリパーク)
「どれもわからん」
もう少しわかりやすい、言い回しもあると思う。
絶対ゲーム開発者はわざとわからない言葉を選んでるとしか思えない。
「どこにします?」
「だどりつけるかわからないけどな」
カレンちゃんに僕はそう返した。
「そうなんですよね」
「今日こそは絶対たどり着くからな!」
しまった。余計なことを言って、火に油を注いでしまった。
「わかったから、落ち着けって、もうエリックが選んでいいから、ね、カレンちゃん」
「はい。もちろんです」
猛獣と化してきた、エリックをどうどうとあやす。
「じゃあ、アミューズメントパークだ!」
エリックが大声で言った。
「わかった」
僕ら三人は同時にアミューズメントパークを選択した。
「よし、今日こそ、自分の力で目的地にたどり着いてやる!」
そう、エリックが意気込んだところで、
突然、家の中から僕の父親が出てきた。
「おお、お前たち、アミューズメントパークに行くのか。送ってやろう」
そんなことを父親が言った。
瞬間僕らの体が操作不能になった。
(自動プレイモードに移行します)
僕らは、父親に促され、勝手に車に乗り込む。
瞬間景色が切り替わっていた。
移動イベントはスキップされた。
自動モードで車からおりると、
目の前にアミューズメントパークと思われる、巨大な娯楽施設があった。
僕らはポカーンと眺めていた。
(目的地に到着しました)
(自動プレイモード解除します)
金縛りから解放されると、僕はエリックの肩をたたいた。
「目的地についてよかったなエリック」
「なんでだぁ」
エリックは嘆き悲しんでいた。
多分、アミューズメントパークは遠くにある設定で、僕らのプレイ時間を考慮して、スキップする配慮がされていたらしい。
いたりつくせりだが、本当にこのゲーム僕らの裏をかくのがうまい。
父親がチケットを渡してくれる。
「いってらっしゃい」
そういうと、父親は、車で帰ってしまった。
ミッション画面に
(イベントを終わる)
の選択肢がでているので、多分これを選択すると、迎えに来てくれるのだろう。
きっとこのコマンドは選ばずに今日はログアウトまでここにいそうだ。
「俺は自力で目的地に……」
「エリックまだ言ってるのかよ。切り替えて遊ぼうぜ」
「さあ、入りましょう」
カレンちゃんは、遊びたくてたまらそうだ。
入口の人に、チケットを渡して、中にはいる。
僕は周りを見渡した。
(ジェットコースター)
(メリーゴーランド)
(ゴーカート)
(お化け屋敷)
「うわぁ。なにもわからないなぁー」
相変わらず説明する気のない表示が並んでいる。
でも、わからないからこそ、ワクワクが止まらないというもの。
どれから乗るかというともちろん(ジェットコースター)だ。
ビュンビュン乗り物がすごい速さで動いている。
「エリックいくぞ。ジェットコースターに」
「エリックさん行きましょう。ジェットコースターに」
「お前らマジで言ってるのかよ。俺はクランの所為で速い乗り物若干トラウマなんだが」
尻込みするエリックを僕ら二人は両側を掴み、引きずるように、ジェットコースターに向かった。
順番がきても嫌がるエリックを無理やり席に押し込む。
ガッタンガッタン音を立てながら、ジェットコースターは登っていく。
「おい! どんどん高くなっていくぞ」
そんなの見ればわかるだろうに、何を言っているんだろう。
「このベルト外れたりしないよな」
「いいなそれ! このまま空まで飛んでいかないかな?」
「何言ってんだよクランは、う、うわぁあああ」
エリックがしゃべっている最中に、ジェットコースターが急落していく。
車を超える圧倒的スピードが僕たちを襲う。
「やっほーい」
「きゃあああ」
カレンちゃんも叫んでいる。
車のように自分で操ることはできないが、速度とスリルは申し分ない。
圧倒的なリアリティで風圧も感じるようだった。
「おい、エリック来るぞ!」
目の前に、宙返りゾーンが迫る。
「うわぁあああああああ」
エリックの叫び声がさらに響いた。
ジェットコースターを降りてからも興奮はおさまらなかった。
「最高だな!ジェットコースター、どうせゲームなんだから、もっと宙返りしてくれたらいいのに」
「そうですね! それがいいです」
カレンちゃんは笑顔で僕の言葉に同意してくれる。
乗ってる最中、カレンちゃんは叫んでいたが、終始笑顔だったので、ノリで叫んでいただけだろう。
「お前ら基準は勘弁してくれ……」
エリックは泣き言を言っていた。
ゴーカートは謎だった。
なんでこんな遅い車にみんな乗って喜んでいるんだろう。
本物の車を乗ればいいのに。
乗り終わった後で、僕とカレンちゃんは首を傾げた。
「ジェットコースターと比べてスリルが足りませんでした」
「そうだよね」
「俺にはちょうど良かったよ……」
エリックは憔悴している。
「しっかりしてくれよ」
「俺は酔ったよ。なんでお前ら平気なんだよ」
とりあえず、僕らはエリックを椅子に座らせて、休ませた。
ちょっと調子に乗りすぎて無理やり乗せすぎたかもしれない。
カレンちゃんが、団扇で扇いであげているが、本当に伸びているのは、ゲームの向こう側の本当のエリックだ。
復活するのに時間がかかるだろう。
僕らがゆっくり休んでいると、
ゴーカートに乗ったばかりの親子連れが僕らの近くを通っていく。
「僕も大きくなったら車運転するんだ」
小さな男の子がそんなことを言っていた。
「クラン、もしかして、車の運転って年齢制限あるんじゃないか」
「そうなのか」
馬車なんて、動かせれば、小さい子供にもやらせる。
この世界はルールが違うのだろうか。
「免許ほしいなぁ」
別の子供がそんなことを言っていた。
「免許? 許可もいるのか」
「クラン誰かに許可もらったか?」
「もらってないな」
まだゲーム初めて数日だ。
そんなのもらっているわけがない。
「ちゃんと赤信号止まったりとか、交通ルール覚えないとね」
子供の父親がそんなことを言っていた。
「クラン、赤信号止まってたか?」
赤信号? たしか、赤だったり、青だったり変なのがあるなとは思っていたが……。
「全部突っ切ったぞ」
当たりそうだった車は全部ハンドルさばきでどうにかした。
「もしかしてそれで、あの白黒の車がやってきたんじゃ……」
なんだかいろいろルール違反をしてしまったのだろうか。
「よし、聞かなかったことにしよう」
本当は運転したらダメとか、うん、ぼくは知らない。
知らないったら知らない。
僕はまた車を運転するんだ。
「クラン、全然反省してないだろう」
少し元気になったエリックにまた説教されてしまった。
次に乗ったのはメリーゴーランドだった。
僕とエリックは、白馬。
カレンちゃんは馬車にのっている。
「クランどうだ? 楽しいか」
エリックはつまらなそうに聞いてくる。
「あと五倍ぐらい速ければなぁ」
「お前は本当にスピード狂だな。カレンちゃんを見習えよ」
カレンちゃんはにっこにこで馬車に乗っている。
メリーゴーランドは、スリルを味わうというより、一般市民が貴族の気分を楽しむものなのだろう。
楽しいというより、気分がいい。
きっと王都で、魔族討伐を命令している王族たちはこんな気分なんだろう。
(コーヒーカップ)に乗ってみると、
途中から自分で回すことができることに気づき全力で回して楽しむと回復しかけていたエリックがまた目をまわしてしまった。
「もう乗り物は勘弁してくれ」
「ははは、ごめん、エリック」
とはいえ、もうすぐ寝る時間だ。
次で最後だろう。
「最後はこれにしてみようか」
僕は(お化け屋敷)を指さした。
「お化けってなんだよ」
エリックが聞いてくる。
僕は並んでいるカップルに聞いてみた
「すみません。お化けってなんですか」
「入ってみたらわかるよ」
男の方が答えてくれた。
「またそれかよ」
エリックががっくりしている。
「とにかく入ってみよう。僕には怖いものなんてないし」
「そうですね! はいってみましょう」
僕らは最後をお化け屋敷で締めることにした。
お化け屋敷を終えたあとで僕の意見は180度変わっていた。
「クラン、怖がりすぎだろ」
「首が伸びるとは思わなくて」
普通に考えて、首がないのは強いが、首が伸びるのは想定していなかった。
あんなに急所をのばすとか、意味が分からない。
「なんで、あんな皿の枚数数えているだけであんなに怖いんだ」
井戸にぶら下がって、皿の枚数をひたすら数えている骸骨。
「一枚足らないからなんだってんだ。いいじゃないか、あんなにいっぱい持ってるんだから一枚ぐらい足らなくても……」
一枚足らないとどうなるんだよ。
その先を教えてくれよ。
他にもそうだ。
「生首が並んでるだけでも意味が分かんなくて、怖いのに、急に笑うなよ。ビビるだろ」
作り物、いやゲームなのだから、ただの映像なのはわかっているが、
殺した後の首をならべるとか趣味が悪すぎる。
生首に笑わせるのも簡単だと思う。
でも笑うなんて想定外なんだよ。
怖すぎるだろ。
「俺はお前の叫び声にビビったぞ」
「そんなこと言ったって」
意味が分からないのがいいと思っていたが
(お化け屋敷)だけはべつだ。
意味が分からな過ぎて、怖すぎる。
体験した後でも、何一つとして、理解できていない。
なんでこのゲームの開発者は、あんな変な生物ばかり想像できるんだ。
「現実だって、魔族がいるだろ」
「魔族は怖くない。だってあいつら生きてるから、人と一緒だ」
「ま、そうだな」
ふとカレンちゃんを見ると、僕らの会話をとびっきりの笑顔で聞いていた。
「そうですね。魔族は人と一緒です」
僕の言葉に笑顔で肯定した。
ぼくよりよっぽど肝がすわっている。
「カレンちゃんは平気そうだぞ。次から俺じゃなくて、カレンちゃんに抱きつけよ」
「そんなこといったって、女の子に抱きつくとか情けないだろ」
「もうすでに情けないからいいだろ」
「私抱きつかれても大丈夫です」
カレンちゃんがドンと胸をたたいた。
「そんなぁ」
現実の僕は、一人でドラゴンを倒す勇者なんだぞ。って言ってしまいたい。
いえないし、言ったところで信じてもらえないかもしれない。
だけど、いつも他人に怖がられている僕は、信じてもらえない方が、少しだけうれしいかもしれなかった。