勇者バスに乗る
今日こそ、学校にいこうと僕らは、出発した。
三日目ともなれば、自動車が自分の隣を通過するのにも普通になれた。
昨日は自分で運転もしたし、少しずつこのゲームの世界にも慣れてきている。
矢印に沿って進んでいくと看板の前に数人、人が並んでいる。
何の列だろうか?
「並んでみよう」
「そうしましょう」
僕とカレンちゃんが列の後ろに並ぶ。
「二人ともちょっとまて」
エリックが慌てている。
「どうしたんだ?」
「どうしたんだ? じゃないだろう。こうやって、他のことに興味を示していくから、全然学校につかないじゃないか」
「そうだけど、学校はきっと建物だから逃げないけど、この列は明日ないかもしれないんだぞ。あの列はなんだったんだろうって気になるじゃないか」
カレンちゃんがコクコクと頷いている。
「そうだけど……じゃあ、何の列か分かればいいんだな」
そういうとエリックは、並んでいる人に聞いた
「すみません。この列はなんですか」
「バスに乗るんだよ」
男の人がつまらなそうに教えてくれた。
「クラン、バスに乗るんだってさ」
「バスってなんだよ」
「わからん」
「余計きになるじゃないか」
「ちょっとまて、もう一度聞いてみるから」
エリックが、もう一度、前の男の人に聞いた。
「すみません。バスって何ですか」
「乗ってみたらわかるよ」
「クラン、乗ってみたらわかるってよ」
「乗るしかなくなったじゃないか」
エリックもバスがなにか気になりだしたようで、結局列に並ぶことになった。
しばらくすると、僕らの前に、大きな四角い自動車がとまった。
「なるほど、たまにでかい自動車が通るなと思っていたが、バスというんだな」
前の人があいた扉に入っていくので、僕らも続く。
僕らは前の人にならい、バスの入り口の箱から出てきた小さな紙きれを握り席に着いた。
扉が閉まると、バスはゆっくり進みだす。
「なんだ。自分で運転しなくても、自動車って乗れるんだな」
速度は物足りないが、楽でいい。
「クランはもうハンドル握るなよ」
「わかったよ。運転かわってくれなんて頼んだりするつもりはないよ」
「絶対言うつもりだっただろう」
「ゲーム会社、車の競争ゲームとか作ってくれないかな。絶体買うのに」
「お前全然懲りてないだろ」
エリックが掴みかかってくる。
「ごめんって」
エリックの説教に懲りただけで、車の運転には懲りていない。
今度一人フリーモードでかっ飛ばしてみよう。
ルールは、学校に行くために自動車を運転しないだったはずだ。
学校に行くのでなければきっと大丈夫!
あれっきりとか悲しすぎる。
ただあの黒ずくめの男たちに囲まれるのはちょっといやだ。
なんとか捕まらない方法を考えないといけない。
「作戦がいるな」
「お前何考えてるんだよ!」
エリックと言い合いしていると、カレンちゃんがはしゃいでいた。
「この世界の建物はいっぱいあって、すごくおっきいです」
全面窓ガラスでできた高い建物などが並んでいた。
僕らの世界にはないから、壮観だった。
「景色見られるのって新鮮だな」
昨日はずっと運転していたので、前ばかり見ていた。
景色を見るのは新鮮だった。
バスの中もいろんなものが貼ってあり面白い。
僕が視線を合わせると(料金表)と出た。
「そうか。お金がいるのか」
どうやらお金は必要なようだが、どうせゲームの中のお金だ。
所持金の数値が減るだけだろう。
それはいい。
『次は桜並木、桜並木』
バスのアナウンスが聞こえてくる。
桜並木というのは地名だろう。
僕は当然ゲームの中の地名なんてわからない。
「エリック、学校があるとこわかる?」
「わからねぇよ」
「カレンちゃんは」
「わかりません」
「矢印は見えてるから、近づいたらわかるかな」
僕は楽観的に言った。
「あれ? なんだか矢印と全然違う方向に行きます」
「またかよ」
エリックが、吐き捨てるように言った。
「そのうち近づくかもしれないし、ちょっと待ってみようか」
そういいながら、なんとなくだが、もう学校の方にはもう行かない気がしてきた。
バスのアナウンスが『終点です』と流れた。
僕らは、運転手に強制的に降ろされてしまった。
「ここ学校かな」
「絶対違うだろ」
「そうだよね」
僕らの目の前には大海原があった。
「僕たちいつになったら学校にたどり着けるんだろう」
「昨日は、お前の所為だからな」
「わかってるよ」
そんな何度も言わなくてもいいだろうに。
「わたしちょっと買い物してきますね」
カレンちゃんがとてとて、お店の方に買いに行った。
カレンちゃんが入っていったお店に視線を合わせると(コンビニ)と説明がでた。
やっぱり意味が分からない。
もうちょっとこのゲーム詳細に説明する気はないのだろうか。
僕は周りを見渡す。
遠くでおじいさんが、釣りをしている。
「魚釣れるのか。釣りしたいなぁ」
なにが釣れるのだろうか。
きっと現実とは全然違う種類なのだろう。
「クラン釣りするのか?」
「子供の頃少しね」
昔は、よくのんびり川に釣りに行ったものだ。
魔法の研究が忙しい両親に魚を焼いてあげると、随分喜ばれたものだ。
顔が焼けただれる前の話だ。
僕らは、砂浜に降りてみた。
僕とエリックは砂浜にごろんと横になった。
空を流れる、雲をゆっくりながめていた。
「戦いを忘れて、のんびりできるなんて最高だな」
「そうだな」
エリックが同意した。
戻ってきた、カレンちゃんが僕らの会話を聞いて、驚いた顔をした。
「お二人は、戦われるのですか」
カレンちゃんに言われて僕とエリックは、はっとした。
つい無意識に現実の自分のことを話していたから。
「まあ、ちょっとだけだよ。今時、自衛の方法ぐらいは、覚えておかないと」
「俺もそうだよ」
エリックも慌てて弁解している。
ただ多分エリックも手練れだ。
視線の動かしかたやちょっとした足運びが、プロの動きだった。
体に染みついた動きは、ゲームの中であってもしてしまうものだ。
「そうですかぁ」
なんだかカレンちゃんはホッとした様子だった。
カレンちゃんはいいところのお嬢さんなんだろう。
育ちの良さは感じられるし、多分戦いなどを間近で見たこともなさそうだ。
僕が勇者であるとかは、知られない方がいいだろう。
現実の僕は悪い意味で有名だ。
次から気を付けて話すようにしよう。
「お弁当買ってきました」
「コンビニって弁当屋のことだったんだ」
「違いますよ。あのコンビニというお店すごいんですよ。なんでもあります」
「なんでもってなに?」
「本当になんでもです。実際見ないと説明できないですよ。見たことないものがいっぱいです」
カレンちゃんが興奮している。
「あとで行ってみよう」
カレンちゃんもぼくらの傍に座った。
「はい。どうぞ」
僕は、カレンちゃんから渡されたおにぎりを僕は食べてみる。
「さすがに味はしないか」
見たことない、黒い物体(海苔)とやらがどんな味がするのか知りたかった。
「雰囲気だけですね」
「ゲームなんだから雰囲気だけで十分だろ」
最初はゲームの意味すら分からなかったが、『夢を見るもの』というのもいいたとえだと思ったし『雰囲気を楽しむもの』と表現してもいいと思う。
僕はもうゲームの虜だった。
多分、エリックとカレンちゃんもそうだろう。
「あれはなんでしょう」
手がハサミになった(カニ)とかいう変な生き物。
(飛行機)が雲を作りながら、空を飛んでいく。
「魚が跳ねました」
(イルカ、魚ではない)
「なんで魚じゃないんだ?」
どうみても魚に見えたんだけど。
わからないことばっかりだった。
でもすごく楽しい。
ゲームの開発者は、こんな世界どうやって想像したのだろう。
なにもかも新鮮で僕たちにワクワクをくれる。
現実よりもなんだか生きてる感じがする。
僕らは眠くなるまで、波打ち際で、現実にないものを言い合ってたのしんだ。