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勇者車に乗る

 二人がログインしてくるまで、ドキドキしながら待っていたら、

 突然フレンド画面がピコンと反応した。

 二人をメンバーにして、幼なじみライバルモードを選択すると、僕の家の前に二人が現れた。

 僕らは昨日の約束通り集まることができた。


「今日こそは学校に行こう」

「そうだな」

「ですね」

 まだ僕らは、学校がどういうところなのかすら知らない。

 訓練所みたいなところだと思ってはいるのだが、今日こそこの目で拝みたい。

 昨日歩いて随分苦労したので、もっと楽に学校に行く方法を僕はずっと考えていた。

「ちょっと昨日思ったんだけど、あの鉄の塊、自動車とやらには、人がのっているんだよな」

 あまりに速かったので、途中まで意識していなかったが、昨日の終わり際によくみると人が操っていることに気づいた。

 外に出てもう一度目を凝らしてみると、どの自動車も人が乗っている。

「確かにそうだな。よく気が付いたな」

「解説でも出てたけど乗り物みたいなんだ」

「そうなんですね」

「きっとあの自動車に乗ることができれば、学校に楽に行けると思うんだ」

 馬車の運転は慣れている。

 乗ることができれば、操ることはできると思う。

「どこかに止まっている、自動車ないかな? 」

「おい。これじゃないか」

 エリックがすぐ近くを指さした。


「なんだ。このうちにもあるじゃないか」

 僕の家の入口の隣にも、止まっていた。

 開発者の意図が読めてきたぞ。

 つまり、これを使って学校に行けということなんだろう。


 こちらも自動車にのってしまえば、怖くはない。

 勝ったも同然だ。

 僕はにやりと不敵に笑う。


 僕は、早速車に近づくと取っ手を思いっきり引っ張ってみる。

「開かないな」

 僕がガチャガチャやっていると、


 ワーンワーンワーン


 自動車がなんとも形容しがたい叫び声をあげた。

「おわぁ。こいつしゃべるぞ」

 僕はあわてて、飛びのいた。

「やっぱり生き物かこいつ」

 エリックも同じように飛びのいていた。

 やっぱりこの鉄の中に生き物がいるのだろう。

「やっぱり、飼われているのですね。なにたべるんでしょうか」

 カレンちゃんも遠くから顔だけ出している。

 生き物だと分かれば、まずは懐かせる必要がある。

「ちょっと食べ物持ってくるよ」

 僕は家の中にはいり、根菜類を皿にのせて自動車の前においてみた。

 二人は僕が餌をあげるのを遠巻きにみている。

 死んでもいたくないとはいえ、死にたくはないのはよくわかる。

 いきなりあのスピードでじゃれつかれたらたまらない。

 僕も餌をおいたら、急いで、二人の傍にいって、餌に食いつくのをまった。


 ……。

 全然動かない。

 

「おい。やっぱり肉食なんじゃないか」

 エリックがしびれをきらして、そう言った。

「そうですよ」カレンちゃんも頷く。

「こんなに凶暴なんだぞ。野菜じゃないだろう」

 エリックが非難してくる。

 たしかにエリックの理屈は通っている気がするんだけど、

「いや、でも、肉類って今家に全然なかったぞ。卵ぐらいしか」 

「じゃあ、ちがうのか? これくらいでかけりゃ、毎日かなり食うもんな」

「うーん」

 僕ら三人が首をひねっていると、前の家に泊めてあった車に女の人が乗り込んで、出発していった。

「なにか持っていたな」

「アイテムが必要なのですね」

「これ生き物じゃなくて、魔法で動く類のやつか」

「魔物はないと言っていたが、魔法がないとはいってなかったもんな」


 またやられた。


 このゲームちょくちょくだましを入れてくる。

 普通の発想をしていたら、気づかないようにできている。

 僕は野菜を片付けながら、記憶を整理した。

「たしかあの女の人が持っていたのと、似たようなのが玄関にあった気がする」

 僕は再び、家の中に戻ると、玄関に置いてあった四角いアイテムを手に取った。

 自動車の正面についているマークと同じマークがついているので、多分これだろう。

 アイテムを持って、再び取っ手を開こうとすると、今度は短く鳴いて、開けることができた。

 やっぱり魔法の類だったようだ。

 僕が乗り込むと、エリックとカレンちゃんも別の扉から乗り込んだ。

「この丸いのが手綱かな?」

 説明は(ハンドル)と出ている。

 意味が分からない。

 ペダルが二つあり(アクセル)と(ブレーキ)と説明が出てくるが、やっぱり意味が分からない。

 どうしたら魔法が発動するのか悩んでいると、でっぱりに(エンジンスイッチ)と説明がでている。

 押してみるとブレーキを踏んでくださいと表示が出た。

「ブレーキはわかるぞ」

 ペダルを踏んで、スイッチを押す。


 ブロロロロローン!


 と、いきなり凶暴な声を上げ始めた。


「よっしゃあ!」


 あっていたらしい。

「で、どうしたら動くんだ?」

 エリックが聞いてきた。

 推理力がいるな。

 僕はもう一度考える。

 僕の足元には、ペダルは二個あった。

 (アクセル)と(ブレーキ)とある。

 ブレーキを踏んでから魔法を発動させたということは

「わかったぞ!今僕が踏んでいるのが動かなくなる方、ということはだ」

「もう一つが動く方か」

 エリックが頷く。

「そうに違いない」

 僕は(アクセル)ペダルを力いっぱい踏み込んだ。

 恐ろしい音を立てて、自動車が猛スピードで前進し、


 ドカーン


 と恐ろしい音を立てて、僕らは向かいの家に激突した。

 僕らの前に(ゲームオーバー)の文字が並んでいた。


「……」

「……」

「……」


「クランあのな、加減しろよ」

「ごめん」

 死ぬことがないので、やっぱり慎重を欠いてしまった。

 気を付けよう。


 二度目の試みで、僕は運転に成功していた。

 左のペダル(ブレーキ)が停止、右のペダル(アクセル)の踏み込み具合でスピードが変わる。

 丸いやつ(ハンドル)をまわすと曲がる。

 左手のガチャガチャするので、前に進んだり後ろに進むのを切り替える。

 これだけ理解していれば、なんとかなりそうだった。

「クラン運転うまいなぁ」

「まあね」

 馬車の馬のように、機嫌が悪くなったりしないので、楽勝だった。

「よし! このまま学校に乗り込むぞ」

 僕は学校の方の矢印を確認しながら、車を進めていく。

 僕はさらにペダルを踏んだ。

 最初は慎重に慎重に車を走らせていたが、少しずつ慣れていく。

「おいクラン、まわりよりちょっと速度はやくないか?」

 普段から、シルフの魔法で移動している僕には、速度が物足りなくなってきた。


「わかった。もっと速度をあげよう」

 僕はアクセルをさらに踏み込む。

 景色がさらに早く流れる。


 最高だ!


「クランそうじゃなくて、俺はもっと速度落としてくれって言ってるんだけど」

「そんな遠慮するな」

「いや遠慮とかじゃなくて」

 僕は、ペダルを踏み込む。

 速度がどんどんあがっていく、今度は壁にぶつかったりしない。

 丸い手綱ハンドルの扱いももうわかっている。

「おい。なんか学校の矢印それていってないか」

「ちょっとこの辺、車が多くて」

 僕は矢印を無視して、速度が出せる道を選択する。

 少し車がへり、速度が出しやすくなった。

 すごく気持ちいいぞ。

「おい、学校と全然違う方に行ってないか?」

「うん。そうだな」

「そうだな。じゃなくて、めちゃくちゃ速いぞ、どうなってるんだよ」

 なんというかいい感じの速度になってきた。

 ぐんぐん速度を僕は上げていく。

 道の先に大きなカーブが見えてきた。   

「おい、こんな速度で曲がれるのかよ」

 僕はカーブに差し掛かり、ハンドルを思いっきり切りながら、席の隣についているレバーを引いた。

「うわぁああ」

「きゃああ」

 エリックとカレンちゃんが叫び声をあげている。

 自動車は、きゅるきゅる音を立てながらカーブを曲がっていく。

「思った通りだ」

 僕はカーブでも、速度を落とさないで曲がる方法を生み出していた。

「最高!」

 もう僕はペダルを力いっぱい踏み込んでいた。

 目の前のメーターが赤いところに差し掛かろうとしているが、まあいいだろう。

 景色がすごい勢いで流れていく。


 (信号機)が赤になり、他の車がなぜか速度を緩めるが、僕はさらに踏み込みかわしながら進む。

 道が交わって左右から車が来るが、僕には右・左・右作戦がある。


 なにも怖くない。


 左右から来る車をギリギリでかわしすり抜けた。

「ひゃっほう」


 こんなの魔法でも体験したことはない。

 たまらなく気持ちいい。

 悦に入っていると、後ろからうるさい音が聞こえてきた。

「なにか変な黒と白の車が音を立てて追いかけてきます」

 後ろの席にいるカレンちゃんが教えてくれる。

 ウーンウーン音で耳が痛い。


 なんて迷惑な車だ。


「わかった。振り切る」

「なんでだよ。止まろう。この世界は平和なんだろう。逃げるなよ」

「僕らはなにがなんでも学校にたどりつなくてはならないんだ」

「そんな義務みたいなミッションじゃなかっただろう。それにもう学校どっちだかわからないし」


「もう止まれないんだ!」


「おい、クラン、何言ってるんだよ」


「あっはっはっは!」


「クランなにか性格変わってるぞ」

 僕はアクセルを踏み込んだ。

 完全にハンドルのコントロールは把握している。

「わぁ。なんだか白黒の車が増えてきました」

 いつのまにか3台ぐらいになっていた。


「負けない」


「クラン、負けないじゃないんだよ。絶対こんなゲームじゃないだろ」

「自由に楽しめって書いてあっただろう」

「恋愛をだろ。こういう楽しみ方じゃないだろ」

 僕は車の間を縫うようにはしる。

 車と車のギリギリをすり抜けていくことで、白黒の車を引き離すことに成功していた。

 だが一台ひきはなしても、他の白黒の車が出てくる。

 何度も何度も引き離しながら、ガンガン進んでいたが、いつの間にか前にも表れるようになり、

 最終的には前後左右からはさまれるような形で無理やりスピードを遅くさせられた。

「くそ。囲まれたぞ」

 無理やり僕は車から降ろされる。

 白黒の車から出てきた黒ずくめの男に、

「現行犯逮捕する」

 意味が分からないことを言われて、

 僕は、手首に鎖のようなものでつながれてしまった。


 そして画面に現れる(ゲームオーバー)の文字。

「あれ? 死んでないのに」

 僕が疑問におもっていると、

 視界が暗転して、いつも死んでゲームオーバーになった時と同じように、スタート地点である。

 自分の家に戻されていた。

 そしてすぐにゲーム運営会社から、緊急メッセージが流れてきた。

 なんだろうと思いながら、僕はメッセージを開いた。


(ルールが追加されました)

(学校に行くために自動車を運転しない)


「……」

「……」

「……」

 僕ら三人には、思い当たることがあった。

「クランの所為だろ」

「ちょっとはりきっっちゃって」

「ちょっとじゃないだろ。絶対運営も想定外だったからな」

「でも、ちょっとだけ楽しかったです」

「ほら!」

「ほら。じゃないんだよ。カレンちゃんもこいつ甘やかすな!」

 僕はエリックが眠くなるまで、説教されるのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 通学のために車ドロボーを働くクランたち、なんだかすごく笑いました。しかもクラン、性格変わっちゃうんですね…それにも笑ってしまいました。
2023/04/03 13:32 退会済み
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