勇者依頼を受領する
「ああ、早く夜にならないかな」
魔王討伐なんて正直どうでもいい。
ゲームをしたかった。
ただあんまりさぼりすぎると、国に目をつけられるので、ほどほどに、こなしておかなければいけないだろう。
掲示板を確認すると、いろんな情報や依頼がところ狭しと書かれている。
ドラゴン出現情報。
オーク目撃情報。
ゴブリン討伐依頼。
勇者の威厳が保てそうな依頼は、一つだけ。
僕は迷うことなく一つの依頼を選んだ。
「さて数か月かけて、ドラゴンを倒すか」
魔王はともかくドラゴンなら話は別だ。
ドラゴンは、勇者クラスじゃないと倒せない。
早めに退治しておかないと大変なことになる。
普通だったら、軍が出動するレベルだから、
本当は、出現情報と書いてある通り、むしろ避難注意報に近いんだけど。
勇者の僕が手に持った瞬間、依頼にかわる仕組みだ。
ドラゴン討伐だけは、他の勇者に取られる前に僕が受けておきたい。
僕はカウンターに紙を持って行った。
「すみません。この依頼受けたいんですけど」
うつむいて資料を見ていた事務員に紙を渡した。
「はあ、これ避難勧告なんですけど」
ぐるぐる眼鏡の事務員は僕を見た瞬間、顔を真っ青にした。
「ひぃいい」
僕の顔を見て、助けを呼びに行った。
少しは肝のすわった先輩らしい人が出てきた。
「おい。何やってるんだよ。ドラゴン殺しまくってる、西の勇者だよ」
「いや、殺しまくってはいないよ」
人生で倒したのは、たった三匹。
逃がしてしまったドラゴンもいる。
随分噂に尾ひれがついている。
「すみません。そんなつもりで言ったんじゃなくて」
僕が否定しただけで、先輩の方も真っ青になってしまった。
そんな強い言葉を言ったつもりはないけど、仮面をつけた大男というだけで、威圧されているのだろう。
「怒ってないから、手続きしてくれないか」
「は、はい只今」
さっきの眼鏡の子よりは肝が据わっているけど、それでも、汗をだらだら流している。
「国に連絡すすめておきます」
「ありがとう。しばらくこの町に滞在するからよろしく」
「はい。もちろんです」
そう言ったが、苦笑いをしている。
随分いやそうだった。
僕は脅威じゃなくて、君たちに迫る脅威を排除する方なんだけどな。
本当に嫌になる。
「息巻いて、魔王倒すぞって突っ込みすぎてもダメなんだよね」
ずっと一人なものだから、独り言の声が大きいのが僕の悪い癖だ。
多くの勇者が敗れたのは、個々の強い魔物ではなく集団だ。
魔王領に深く入りすぎて、囲まれてやられるパターンが多い。
魔王軍は情報戦が得意だ。
さすがに僕もドラゴンの集団に囲まれると、勝てるかわからない。
まずは、ドラゴンなど、強そうな敵を一匹ずつたおして、しっかり数を減らしておくのが、魔王討伐の近道だと思う。
それはそれとして、
「あんまり早く見つからないでくれよ」
僕はそんな人に聞かれるとまずそうなことを口に出した。
さすがに出くわして、逃げると勇者の沽券にかかわるので戦わざるをえない。
「僕がドラゴンを見つけて、逃げ出すなんてありえないけどね」
僕はヒリヒリする焼けただれた左の顔を押さえた。
今日は町のまわり、少し見て回る程度にしておいた。
当然、ドラゴンはいない。
こんな近くまで迫っていたら、避難注意報ではなく警報だろう。
初日はこんなもんでいいだろう。
「まずは、町の安全を確認っと」
ゆっくりゲームをやるために必要な作業だった。
僕はゲームのことを思い出して、うきうきしながら宿屋に戻ることにした。