エピローグ
あれから、
僕とエレンは国にもどり結婚を報告した。
王とはもちろん一悶着あったがそれはご愛敬というやつだろう。
魔族の侵攻はあれ以降発生することもなく、
無事、人と魔族は和平を結ぶことができた。
まだまだ問題も多いが、
世界はおおむね平和になった。
平和になれば、僕が何をするかといえば……。
僕は久しぶりにゲームを起動する。
(クランがメンバーに選ばれました)
(ラブラブカップルコース)
(ロード中)
一瞬で映像が切り替わる。
空には満天の星。
上を見ると、人の姿をした魔王が僕をのぞき込んでいる。
どうやら僕は膝枕をしてもらっているらしい。
サラサラの銀髪が僕の頬に触れる。
「星が綺麗ね」
魔王が僕に囁くように言う。
「君の方が綺麗だよ」
歯が浮くようなセリフも、自動プレイモードならすらすらでてくる。
「あなたとずっとこうしていたい」
「僕もだよ」
魔王はふふふと笑った。
僕も笑って見つめ合う。
(自動プレイモードを終了します)
ガバッと僕は起き上がると叫んだ。
「なんてものをプレイさせるんだ」
死ぬほど心臓がドキドキしている。
ゲームでは、神の規制は働かない。
恋に落ちたといっても過言ではない。
「僕は既婚者なんだぞ!」
魔王は僕を精神崩壊させる気なのか。
「どうしたというのだ。ただゲームをしただけだろう」
雰囲気の変わった魔王はあっけらかんと言う。
「ゲームって言うけどな。リアルすぎるんだよ。魔王のゲームは」
「君はちょっと真面目過ぎるのではないか?」
「魔王がふざけすぎなんだよ」
僕が抗議するが、気にとめてくれない。
「一応、君も王族になったのだろう」
魔王は突然話題を変えてきた。
「そうだな」
エレンは王女だった。
つまり、僕は王子になってしまった。
全然王子なんて、なる気はなかったのに。
「君は政治を手伝うつもりなのか」
「そんなことできるわけないだろう」
そんなことは東の勇者にまかせておけばいい。
しっかりやってくれるだろう。
「つまり、平和な世の中になったのだから、君は強いだけの無職というわけだな」
「なんて酷い言い方なんだ」
仮にも、人と魔族の和平にこぎつけた勇者に対する言葉ではないだろう。
「つまり、君は私のゲーム製作を手伝うぐらいしかないだろう」
「まあ」
「手伝ってくれれば、ちゃんとお金も出そう」
「それはありがたいが」
お金はそれなりに蓄えはあるが、使い続ければなくなるもの。
僕は王族とはいえ末端。
お金が入ってくるわけではないので、
稼ぎはあった方がいい。
「ではこれからも、私の恋愛シチュエーションゲームの開発を手伝ってもらおう」
「いや、だから僕は既婚者なんだって」
「既婚者である君がドキドキするシチュエーションというのは、ゲームとして上出来ということだ」
「お前なぁ」
詭弁だろうそれは。
こんなこと続けられたら僕の心が持たない。
なによりエレンに顔向けできない。
「デバッグを手伝うと言っていたではないか」
「競争ゲームの話だろう」
「つまり見解に相違があるということだな」
「そうだな」
「つまり、君と恋仲にならないと、恋愛ゲームのデバックはやってもらえないと」
「そうなるな」
「私は竜種だから、君の子供は産んでやれないんだぞ」
「なんかまるで子供が産めるなら僕と付き合いたいと言っているみたいだな」
「君はちゃんと話を聞いていたのか? 子供が産めないから、君と恋仲になるつもりはないと言っているのだ」
「つまり、僕の方が振られたのか」
「そういうことだな」
付き合って欲しいとも言っていないのに振られてしまった。
なんだろう。
それはそれでちょっと悲しいな。
「君と恋仲になったら、確実に私の方が長生きしてしまうからな。君が死んだ後、寂しくて耐えられそうにない」
魔王もちょっとだけ悲しそうに言った。
「もう竜種は少なくなりすぎて、もう種としては終わっているのだ。たが私個人はあと数千年は生きるだろう。君に子供がいれば、少しは気が紛れる」
魔王は、優し気な顔をしていた。
「ちゃんと子供を私にみせに来るのだぞ。おいしいお菓子をいっぱい用意しているからな」
「親戚かよ」
「私は優しい親戚のおばちゃんポジションを獲得するつもりだ。君の子孫を死ぬまで、溺愛するとしよう」
「それは嬉しいが……」
少しだけ、寿命が長いのが不憫に思えた。
「まあ、君とは、ゲーム友達ぐらいが気楽でいいだろう」
「それは僕もそう思うよ」
恨みはほとんど感じなくはなったが、消えてしまったわけではない。
七色の鱗をみるとやっぱり昔のことを思い出す。
多分、プレイキャラクターを通した関係がちょうどいいのは確かだ。
ただゲームの中だからとゲームの中だけ恋仲になる度胸は僕にはない。
僕の表情を見て、魔王は笑った。
「ただ恋愛ゲームのごっこ遊びでも、君が浮気になるというのなら、そろそろ別ゲームで遊ぼうではないか。実は、レースゲームではないが、君のためにゲームを用意しているのだ」
僕は前のめりになってきいた。
「本当か、どんなゲームだ?」
「ホラーゲームだ」
僕は魔王の言うゲームジャンルがわからなかった。
なんだろうか。
響きから嫌な予感がした。
「ホラーゲーム? とはなんだ」
「簡単にいうと、お化けがいっぱい出てくるゲームだ」
どうして、そうなるんだよ。
「……はぁ? そんなゲームなんで僕のために作ったんだよ」
僕は、動揺を隠すように努めて冷静にはなした。
「君がお化けが苦手と聞いたのでな。克服してもらおうと思ってな」
「誰に聞いたんだよ」
「もちろん。カレン殿だ」
「裏切ったなカレンちゃん」
きっとカレンちゃんは魔王に勇者が苦手なものはなんだ? ときかれて、笑顔で『お化けですね』と答えたに違いない。
想像しただけで可愛い。
許す。
が、魔王は絶対許さない。
「僕がそんなゲームするわけないだろう」
「なんて酷い奴だ。私がどれだけ君にやってほしくては時間を費やしたと思っているんだ」
どっちがひどいんだよ。
「いくらでも費やしたらいい。
僕の数十倍は寿命があるんだから」
もう寿命が長いのも全然不憫に思わないぞ。
どうして僕に嫌がらせすることには、労力を惜しまないんだよ。
でもな、そんなこと嫌がらせ僕には関係ない。
「そんなゲーム僕がやらなければいいだけだ」
「それは残念だな。このゲームをクリアしたらレースゲームを作ろうと思っていたのに」
「な、んだと」
僕がどれだけ魔王が作るレースゲームを待ち望んでいるかわかってて言っているのだろう。
どうしてもレースゲームはやりたい。
ならば、選択肢は一つだけ。
「やればいいんだろやれば」
「そうこなくてはな」
魔王は頷き、説明をはじめる。
「今回のゲームは一人用のゲーム。君は一人孤独の中で恐怖と戦うことになる」
孤独。
今では、仲間ができたが、最終的に頼りになるのは自分の力だ。
「安心したまえ、ちゃんと私はモニターで君が怖がるところをしっかり見ておくからな」
なにも安心できる要素がない。
「さあ、私が支配した世界の恐怖を味わうがいい」
ゲームの世界は魔王の世界。
何一つ希望は残されていないだろう。
それでもここで引き下がったら勇者ではない。
「僕は勇者だ」
僕の返事に上機嫌に頷く。
「それでこそ君だ。では早速やってもらおうか」
「今からか」
「もちろんだ。君の合図でスタートされるようにセットしてある」
からかうような瞳。
初めてあった時から変わらない。
僕が苦しむ様を見て楽しむつもりなのだ。
なんて邪悪な魔王なんだ。
だけど、僕は勇者。
勇気ある者。
仲間の助けも得られず、
孤独であろうと、
魔王が用意したすべての試練を乗り越えてみせよう。
「用意はいいかな?」
魔王が聞いてくる。
「もちろんだ」
僕は大きな声で叫んだ。
「さあ! ゲームスタートだ」
孤独の勇者ゲームを始める。
完。
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