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勇者と王女

 僕はエレンに向き合った。

「クラン、約束覚えているよな?」

 どうやらなかったことにはしてくれないらしい。

「その前に、なんで王女だって教えてくれなかったんだよ」

「俺が王女だっていったら、クランはなんと思ったよ?」

「冗談かなって」

「ほらそうじゃないか」

 今までの態度で、エレンが王女だとおもうわけないだろう。

 王女って一人しかいないはずなんだよな。

 となると、武闘大会の王女は誰なんだ。

「武道大会で見かけた王女はもっと髪が長かった気がする」

「何年前だと思ってるんだ。そんなの切ったに決まってるだろう」

 武闘大会で、王族の席についていた王女のことを思い出してみる。

 遠かったし、口元は扇子で隠していたので正直よくわからない。

 ただ今思うと髪の色と目元は、エレンにそっくりな気がしてきた。

 そっくりというか、やっぱりあれはエレンだったのか?


 西の勇者の称号をもらった王様は、確かにさっき会談した王様だった。

 信じられないが、

 疑う余地はない。


 エレンは王女だ。


 エレンが王女だったとしてどうしたらいいんだ?


「俺のこと敬称付けて呼んだよな」

 そうだ。

 エレンが王女だと敬称をつけて呼ばないといけない。

「クランは俺のこと、敬称つけて呼んだら、なんでも一つ、言うこと聞くって言ったよな」

 僕は観念した。

「はいはい。覚えているよ。一つだけだぞ。それに、僕にできることだ」

 一つぐらならいいいだろう。

「大丈夫だ。クランにできることだし、特に何もいらない」

 王女様だもんな。

 お金も別にいらないだろう。

 一体何をしてほしんだろう。

 どうせ、僕は戦闘以外たいしたことはできないというのに。

「わかったよ。で、何すればいいんだ?」


「よし、じゃあクラン、俺と結婚しろ」


 世界が止まった気がした。


「はっ? 今なんて言ったんだ?」

 僕は聞き間違いかと思って聞き返した。


「俺と結婚しろって言ったんだ」


 僕は、エレンの言った言葉を反芻する。

 結婚?

 結婚って、男と女が愛し合って、結ぶ約束のことだろう。

 誰と誰が?

 僕とエレンが?


「なんでそうなるんだよ」

 僕は絞り出すように言った。

 なんでそんなことになるんだ。

 僕はエレンと愛をはぐくんだりした覚えもないぞ。

「クランは言ったよな。俺なんか一生呼び捨てでいいって」

「それは言ったが」

「俺を呼び捨てにしていいのは、夫と王族だけだぞ。俺は王女なんだからな」

「そうかもしれないが」

 確かに、王族に敬称をつけないのは不敬罪だ。

 普通、王族を呼び捨てにする奴なんていない。

「さあ、今まで通り、呼び捨てにしたかったら、結婚すると言うんだ」

「いや、そんな理由で結婚するわけにはいかないだろう」

「今までは、王族だって黙っていたから免除だが、結婚しないっていうなら、今後は敬称つけてもらうからな」

「様呼びしろと?」

「カレンちゃんみたいに、さんとか魔王みたいに殿でもいいぞ」

 エレン様、エレンさん、エレン殿……。

 どれも嫌すぎる。

 どう呼べばいいんだ。

 呼び捨てにするためには結婚?

 いやいや、飛躍しすぎだろう。

「ほら結婚するなら、相性とかもあるだろう」

「占いの相性もバッチリだっただろ」

「そうだけど」

 確かにゲームの文化祭でやった占いでは、相性バッチリだった。

 なんで男同士でと思っていたが、実際は男と女だったわけだ。

「ゲームの中では俺に抱きついてきただろう?」

「それはお前が男だと思っていて」

 情けない話だ。

 エレンが女だと思っていなかったころの話だ。

 ノーカンにしてほしい。

「大体僕は、今だってお前のこと女扱いしたことないぞ」

「俺は女扱いされる方が疲れるんだよ」

 それはそうかもしれない。

「俺の顔はこんなんだぞ」

 僕はわざと仮面を外して見せる。

「うん。別に平気だぞ」

 そういえば、前に外した時も、驚きもしなかった。

「正直、顔はどうでもいいよ。ぶっちゃけ顔よりも筋肉の方が大事だ」

 たしかに、エレンのゲームのキャラといい、信仰している神といいガタイがいい奴が好みなのは知っている。

 初めて、エレンのゲームのキャラを見た時、自分みたいだと思ったぐらいだ。

「僕は平民の出だぞ」

「貴族は腰抜けばっかりだぞ。俺は自分より弱い奴と結婚するつもりはない」

 エレンは確かに強いが、僕は負ける気はしない。

 何言っても、エレンが諦めてくれない。

 言うこと聞くといった以上、エレンが引き下がってくれないと、約束を破ることになってしまう。

 

 僕が、エレンが結婚したくなくなる理由を探していると、近くで話を聞いていたカレンちゃんがポンと手をたたいた。

「そういえばクランさん、王女が好きなってくれるなら王女と結婚してもいいって言ってましたよね」

「カレンちゃんなんでそんなこと蒸し返すんだ」

 カレンちゃんが寝返った。


「俺はクランのこと好きだぞ」


「僕だって好きだとはおもう。

 でも、これは友情の好きであって、恋愛の好きなわけではないんだよ」


「男女に友情はないぞ」

「全否定するなよ。悲しくなるだろ」


「俺のこと嫌いだって言えば、この件はなしでいい」


 嫌いではない。

 間違いなく。


 この場を凌ぐためだけに、嫌いなんて言いたくはない。

 エレンは大切な仲間だ。

 ただ伴侶にしたいとか、そんなこと考えたことなかった。


「勇者は、王女と結婚するものだろう」

 確かに魔王を倒した勇者は王女と結婚できると王から聞いた。

 だけど、僕は、


「魔王を倒してないよ」


 僕の言葉を聞いて魔王は言った。

「私は西の勇者に降伏したようなものだ」

 なにかってに倒された体になっているんだよ。

「裏切ったな魔王」

 なんで魔王まで敵になってるんだよ。 


 僕の味方はいないじゃないか。


「勇者に二言はないだろう」

「そうだけどさ」


 なんとか、エレンに撤回させようと思ってもいい言葉が見当たらない。


 エレンが笑顔で言った。

「決まりだな」


「うわー、クランさんエレンさん結婚おめでとうございます」

 カレンちゃんが祝福の拍手をくれる。

「仲人は任せるといい」

 魔王も乗り気だ。


 一人だったころは、お姫様と結婚したいななんて思っていた。

 そんなこと露にも思わなくなったら、叶ってしまうなんてどういうことなんだ。


「よろしくな。クラン」

 

 こうして、勇者は魔王を倒し、王女と結婚することになった。


 じゃないんだよ!

 僕はそんなつもりで魔王城にきたわけじゃないはずなのに。

 結末だけ、無理やりおとぎ話みたいになってしまったじゃないか。


 どうしてこうなったんだ?

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