勇者会談する
ついに、会談の日が来た。
僕らは、王の間で、通信機を準備していた。
「こんな感じでいいですか?」
カレンちゃんが、設営を手伝ってくれている。
映像を映す白い布や、魔王はプロジェクターと言っていた機械など用意するものはいろいろあった。
「ありがとう。カレンちゃん」
「いえ、このくらいしかできないので」
「十分助かるよ」
魔王は、話す内容を検討するので忙しそうで、僕一人では、映像がきれいに映るかなどの調整が難しかったのですごく助かる。
「ところでエレンはどこいったか知らない?」
もうすぐ時間だというのに、見つからない。
エレンは肝心な時にいない。
困ったもんだ。
「私探してきますね」
カレンちゃんが、探しに行ってくれた。
数分後、カレンちゃんはエレンを見つけてきてくれた。
捕まえたといっても過言ではない。
本当にカレンちゃんは優秀だ。
それにしても、
「なにやってるんだ。エレン」
「俺は会談にでなくていいだろう」
「ダメだって、魔王城で普通の冒険者が一緒に映ることに意味があるんだから」
魔王城に来てから特に何もしてないんだから、やる時はやってほしい。
「王の前でおそれおおいっていうか」
「お前、魔王の前でそんなにくつろいでてそれはないだろう」
いつも緊張感のかけらもないくせに、今日にかぎって何を言ってるんだろう。
「とりあえず、いるだけでいいから。どうせ話すのは魔王なんだから、なあ、魔王?」
「そ、そうだぞ。な、なにも心配、す、するな」
魔王が挙動不審だ。
「なんで魔王も緊張してるんだよ。いつも堂々としてるだろ」
「し、仕方ないであろう。この会合に魔族の未来がかかっているんだぞ」
「とりあえず、深呼吸して」
「はー、ふー」
肝心の魔王が今日にかぎってポンコツだ。
こんなんで大丈夫だろうか。
心配になってきた。
ついに会談の時間になった。
カレンちゃんが、通信機のスイッチを入れてくれる。
ピット音がして、白い布に映像が映る。
画面には、王、王妃、東の勇者とシーラさんが映っていた。
東の勇者がいてくれるのは心強かった。
魔王は咳払いをすると、話し始めた。
「人間の王よ。まずはこの会談の場を設定していただき感謝する」
さすが魔王、本番は強いな。
つかみはまずまずかと思うと、
人間の王が、どんと椅子から立ち上がり、怒鳴った。
「よくも王女を誘拐しておいて、よくもまあ、そんなことを言えるものだな」
予想外のことを言われて、僕は面食らった。
「は? 王女誘拐、そんなことは……決してそのようなことを行っては……」
僕は魔王を見る。
わかりやすく動揺している。
嘘はついていないが、
魔王に連絡なしに、他の魔族が誘拐したりする可能性がないとはいいきれない。
僕は魔王を信頼している。
が、魔族全体を信頼しているわけではない。
ただ魔族と関係なしに、王女が誘拐された可能性がある。
僕は、「状況確認」と小声で魔王に言った。
魔王がこくりと頷く。
「すまないが、王女誘拐の件は、私は本当に知らない。そちらの状況を教えてもらえないだろうか」
すくなくとも、数日前、ゲームで会った時、東の勇者はそんなことを言っていなかった。
誘拐されたのは、数日の間だろう。
いつどこで誘拐されたのかなど情報を整理したい。
そう思っていると、王がさらに言った。
「何を言っている。王女が画面に映っているだろう」
王女が映っている?
なんだそれは?
「魔王、ちゃんと画面映っているのか」
「もちろんだ。通信は良好。画面に私たち以外に、誰も映っていない」
僕は向こうの映像も確認する。
画面を見ると、王は本気で怒っているが、そのわりに、王妃と東の勇者とシーラさんは笑っている。
なんだ?
どういうことなんだ?
僕と魔王が状況が呑み込めないでいると、
東の勇者が、王に向かって言った。
「父上、よく見るといい。我が妹は特に拘束されている雰囲気もなく、平気そうにしているぞ」
「そうですよ。娘は元気そうではありませんか」
王妃も王にそう言う。
「だ、だが」
東の勇者にいわれて、王は少し落ち着きを取り戻した。
一体、王女はどこにいるんだ?
いや、ちょっと待て東の勇者は王のことをなんといった?
僕は東の勇者に質問した。
「東の勇者、王は父親なのか」
「そうだが? それがどうした」
どうしたじゃないんだよ。
つまり、東の勇者は王子ということじゃないか。
まあ、
僕も勇者だけど、平民の出。
だから、僕に王子という身分を言いたくない気持ちもわかる。
お忍びで、新婚旅行を楽しんでいたということだろう。
東の勇者は百歩譲って、王子であってもいいことにしよう。
問題はそこじゃない。
つまり東の勇者の妹であるエレンは王女ということじゃないか。
僕はエレンを見る。
エレンは視線をそらした。
「エレンなんで黙ってたんだよ!」
僕がエレンにそう叫ぶ
「言いそびれて、ははは」
エレンが苦笑いした。
王がこちらに叫ぶ。
「西の勇者はなに王女を呼び捨てにしとるんじゃ」
怒りがこっちに飛んできた。
「死刑にするぞ」
なんで王女を呼び捨てにしただけで、罪がそんなに重いんだ!?
「エレン王女と呼ぶんじゃ!」
エレンに敬称をつけてこの場を納めるぐらい何とも……
僕は、エレンとした約束を思い出していた。
そういえば、エレンに敬称を付けたら、何でも言うことをきくと言ってしまった気がする。
エレンは僕を見て、にやりとした。
こいつめ。殴りつけたい。
「エ、エレン王女」
エレンは勝ち誇った顔をしている。
あー、敬称つけたくなっても知らないぞってこういうことか。
嵌められた……。
「うむ。よし」
王が改めて、エレンに聞いてきた。
「エレン、お前はどうして、そんなところにいるんじゃ」
「歩いてきたよ」
「誰も移動手段は聞いておらん。というか、王族が歩いて、移動するな! だいたいアーグスと一緒にいると聞いておったから安心しておったのに、西の勇者と一緒にいると聞いただけで、不安だったんだぞ。魔王城で何しとるんじゃ」
「えっ? なんだろう?」
エレンは首をかしげる。
エレンは魔王城に来てから特に何にもしてない。
ぐうたらくつろいでいただけだ。
エレンが首をかしげていると、東の勇者が、代わりに答えた。
「父上、我が妹は、魔王城を『風呂も広くてきれい、ご馳走もおいしい、ベッドも大きくて最高』と言っていたぞ」
わざとかと言わんばかりに、火に油を注ぐ。
「お前は、魔王城を何だと思っとるんじゃ!!」
思った通りに、王の怒りが爆発した。
「うーん」
しばらく唸っていると、エレンは、思いついた! と言わんばかりに手をたたいて、答えた。
「友達の家かな」
「なにをいっとるんじゃ、お前は!」
それはそういう気持ちになるだろう。
王女が、自分の足で敵の本拠地である魔王城までいってくつろいでいたら。
「友達の家……か。それはうれしいな」
魔王はそんなこと言った。
「人の王よ、エレン殿が王女とは知らずに、友人として、我が城に招待したのだ。王女は、この会談の結果とは関係なく、無事にお返しすることを約束しよう」
「魔族領から、無事帰れると保証できるのか」
「その保証は、西の勇者が全責任を取る」
魔王はそう言い切った。
エレンの責任だけ、僕に丸投げされた。
その責任は、自分の管轄外と言わんばかりだ。
「西の勇者は、エレンを一生守ると俺に宣言したしな」
東の勇者が追い打ちをかける。
いや、『一生』とはいってないんだけど。
魔王にとっては、フォローなのか。
「ぐぬぬぬ」
王は僕をにらんでいる。
最終的に僕にすべての怒りの矛先が向くのやめてほしい。
「あなた、娘のことは、今日はおいておきましょう」
王妃が王に言う。
「だが」
「あなたが、戦い方何も教えないから、あの子は勝手に、変な神を信仰して、力つけて出て行ってしまったんですよ」
「それは……エレンを思ってそうしたのだが」
確かに、回復特化の天使でも、信仰させておけば、無茶はやらなかっただろう。
「パパが勝手に、魔王を倒した奴と結婚させるなんていうから」
「パパいうな。父上と言えといったであろう。そもそもそれは、エレンが、訓練所に忍び込んで、貴族を何人も病院送りにするから、見合いの一つもこなくなったせいだろう」
お転婆の度が過ぎる。
どんな王女だよ。
王になれても、王妃に殺されそうなら遠慮するよな。
地位よりも命の方が大事だ。
王はエレンに言う。
「エレン今すぐ帰ってきなさい」
「ええー」
「えーじゃない」
エレンと王はにらみ合った。
「パパがないちゃうから、たまには帰ってきなさい」
王妃がエレンに言う。
「はぁーい、ママ」
エレンは王妃のいうことはすぐ聞いた。
そういえば、元勇者は、王ではなく、王妃の方だと聞いたことがある。
王妃は、僕の方を向いた。
「西の勇者、エレンのことお願いしますね」
優しい声音の中に芯があって、僕は背筋がピンと伸びた。
「はい。わかりました」
僕は王妃の言葉に自然に返事をしていた。
とりあえず、エレンの件は、一件落着ということだろう。
王は、はぁとため息をつく。
急にキリっとした表情になる。
威厳溢れる態度で、魔王に言った。
「魔王よ、人と和平を結びたいということだったな」
「そうだ」
「こちらの最低条件としては、今すでに、人の領土となっている土地を返せと言わないことだ。他にも条件はあるが、それはおいおい話し合えばよいだろう。ただこの条件だけは、絶対譲れん」
「それは、今こちらの土地になっているものは、こちらの土地でいいということだろうか」
魔王が王に聞き返す。
「そうだ。もっとも、今はこちらが奪った土地が多いだろうが、もう人が根付いてしまっている。今更返すわけにはいかない」
「そうか。わかった。大丈夫だと思うが、幹部たちと話し合いたい。返事をまってもらえないだろうか」
「それは構わん。返答は一週間後でどうだろうか。それまでは、一時休戦としよう」
「それはありがたい」
話としては短かったが、十分な内容だろう。
現状の土地をお互いの土地と認め、お互いに侵略しないという内容なのだから。
「ではまた一週間後に」
魔王がそういうと会談はお開きになった。
カレンちゃんがスイッチをオフにしてくれる。
「王が話のわかる相手でよかった」
魔王がほっと息を吐きそんなことを言う。
立派な王だと聞いていた通りだった。
エレンのこと以外はだけど。
「土地にかんしていえば、とったりとられたりを繰り返していたからな。今住んでいるところ基準とするのが確かにいいだろう。不満も出てくるだろうが、飲めなくはない。すぐに幹部を招集して、内容を伝えようと思う」
魔族をまとめるのは、魔王の役目だ。
僕らの出る幕はない。
「僕ができることは、これくらいか」
人と魔族が、共存への一歩を踏み出せた。
今はそれだけで僕は満足だった。
「君の場合は、別の件があるようだぞ」
魔王がそんなことをいう。
「別の件?」
僕が聞き返すと、魔王は僕にエレンを見るように促した。
にやにやしたエレンが僕と話したそうに待っていた。




