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勇者、東の勇者とゲームする


「こんなこともあろうかと、お兄ちゃんにゲーム機を買わせて、フレンド登録しておいたんだ」

 エレンが得意げに言った。

「さすがだな」

 現実でアカウント名を聞き出せば、フレンドになるのは簡単だ。

 人間は通信機のような機械を作れていない。

 人間領にも出回っているゲーム機を利用するのは賢い。

 実際は魔王軍に傍聴されているのだろうが、僕らは別に構わない。


「久しぶりに一緒にゲームやろうか」

 城の中は安心だろう。

 精霊たちも守ってくれている。

「おうよ」

 僕らは二人同時に、ゲームにインした。


 スタート画面からとりあえずフリーモードを選択する。


 僕は、エリックのアカウントをコールした。


「近所だから、そっちいくから待っててくれ」


「了解」

 フリーモードを選択すると、基本自分の家からスタートだが、エリックとは家自体が近かった。

 僕が初回スタート時に、幼なじみライバルコース選んだので、エリックのスタート地点に近いところに設定されたらしかった。

 数分もすると、エリックが僕の家にやってきた。 

 僕はエリックの姿を見ると感慨深くなった。

「なんか久しぶりに会ったな」

「何言ってるんだ。隣に本物の俺がいるだろう」

 現実では、椅子に座ってやっているのでその通りではある。

「エリックにって意味だよ」

 俺と言っても違和感がないまさにエリックだった。

 

「今、お兄ちゃんとお姉さん、ログインしてるみたいなんだよ。定期的にインしてくれると言っていたけど、普通に遊んでいるのかも」

「面白いもんな」

 二人で、デートしてまわるのは楽しいだろう。

 現実にはない建造物は見ているだけでも楽しい。

 遊園地などは特におすすめだ。

「二人をメンバーに招待するからちょっと待ってくれ」

 エリックはそういうとメンバーを選択する。

(エリック、クラン、アーグス、シーラがメンバーに選ばれました)

「アーグスって誰だ?」

「お兄ちゃんの名前だよ」

「そんな名前だったのか」

 ずっと東の勇者としか呼んだことがなかったから知らなかった。

「コースはどれにするんだ」

 僕はエリックに尋ねる。

「ダブルデートコースでいいんじゃないか」

「エリックは今男だろう」

「そうだった」 

 ちゃんと自分の性別選ばないから、こういう時困るんだよ。

「男3女1のコースは、逆ハーレムコースというのがあるな」

「逆ハーレム?」

 ハーレムの意味も分からなければ、それが逆というのはどういうことなんだろう。

「別に命の危険があるわけではないから、これでいいか」

 恋愛ゲームだもんな。

 何かの間違いで死んでもスタート地点に戻るだけだ。

「いいよ」

 僕はうなずいた。


(逆ハーレムコース 男3女1)


(ロード中)


(自動プレイモード)


 ロードが終わると、学校の廊下だった。

 東の勇者とその嫁シーラさんがいた。

 一目でわかった。


 というのも、ゲームの中では制服を着ているが、二人は現実と同じ容姿をしている。

 

 この人達自分大好きすぎるだろう。

 現実でも、十分美男美女だもんな。

 羨ましい限りだ。


 エリック姿のエレンが大きな花束を抱えて現れた。

「私の愛を受けとってください」

 唐突な愛の告白。

 

 東の勇者がシーラさんの前にでる。

「俺の前で、彼女に手を出そうというのは、いい度胸だな」

 自動プレイモードでなくても言いそうなセリフを言った。

 

 なぜか僕は、その争いの中に歩みを進めていく。

 えっ? と思ったが、自動プレイモードのため、僕の操作を受け付けない


 二人の間を抜けて、僕はシーラさんの手をとると駆け出した。


 階段を駆け下り、踊り場までくると、彼女を壁に押し付けた。

 僕は彼女が逃げられないように、壁をドンと叩いた。

 彼女の顎を持ち上げると、強制的に見つめ合う。

「あいつらなんかじゃなくて、俺の女になれよ」

 綺麗なマツゲの本数も数えられる距離。

 めちゃくちゃ恥ずかしい。

「ふふふ、あなたに私の男が務まるかしら」

 不敵な態度で彼女は笑った。


(自動プレイモードを終了します)


 最悪なんだけど。

 東の勇者と、エリックが階段の上から、見下ろしていた。

 自動プレイモードとはいえ東の勇者の前で、嫁さんを口説くことになってしまった。

「東の勇者悪気があったわけでは……」

 僕がうろたえながら、東の勇者に言う。


 東の勇者はクスクス笑っていた。


 なんか違和感を感じた。

 東の勇者はそんな笑い方するだろうか?


 東の勇者が口に上品に手を当てながら言う。

「あ、いえ、大丈夫です。私がシーラなので」

 

「はい?」


 僕はシーラさんと思っていたキャラに向き直る。


 シーラさんは、大股で、腕を組んでいた。


「恋愛ゲームと聞いてな。てっきり好きな奴の姿を作るものだと思ってシーラの姿を作ったのだが、この通りだ」


「なんでだよ。ふざけんな」

 なんで僕が、東の勇者を口説かなくちゃいけないんだよ。

 

 現実の姿を想像したら気持ち悪いことこの上ない。


 この場にいる僕以外、性別詐称してるってどういうことなんだよ。


「いいものを見ました」

 東の勇者の姿をしたシーラさんがそんなことをいう。

 楽しそうだ。

 実際あんまり、話したことないけど、この人どんな人なんだろう?

 

 それよりもだ。

「エレンちゃんと教えてやれよ」

「わるいわるいお兄ちゃんがプレイする前に説明するのすっかり忘れてて」

 そういいつつ、笑っていて、悪びれた様子がない。

 本当に説明苦手な兄妹だな。

 勘違いの仕方も同じだ。


「姿を変えられるらしいからな。そのうち変えようとは思ってる」

「あなた。これはこれで楽しいですよ」

「そうだな」

 東の勇者がシーラさんに近づいて腕を絡めた。

 中身は逆なので、違和感がすごいことになっている。

 ラブラブの見せつけ方が特殊すぎてついていけない。


「そろそろ本題に入りたいんだけど」

「いいだろう」

「大地の勇者の侵攻を止めてくれたのは東の勇者だろう。助かったよ」

「それには礼には及ばない。どうせ大地の勇者も兵士たちも疲弊していたからな。侵攻しないでいい理由ができて喜んでいた」

「まあ、そうだよな」

 死なない程度に痛めつけたので、拷問同然だったし、大地の勇者も初戦は威勢がよかったが、相性がはっきりしてしまった、2回目以降はやる気がなくなっていた。

「連絡を取ってきたということは、魔王とはうまくやっているのか」

「今は魔王城にいる。魔王と和平交渉の打ち合わせをしている。王と魔王で会談の場を設けたいのだけど、映像を映せる通信機を王に渡してもらえないだろうか」 

「ふむ。それはいいが、俺にはどうやって通信機を渡すつもりだ」

「人に擬態が得意な魔族がいるそうで、そいつが、ゲーム機などを魔法屋に卸しているいるそうだ。東の勇者が指定する魔法屋に手配してもらおう」

 僕は、東の勇者から、普段利用している魔法屋の住所を聞き出した。

「わかった。引き取って王に渡しておこう。会談の準備ができたら、またこのゲームで連絡する」

 東の勇者は、僕との会話を終了し、エレンに話しかける。

「エレン、魔王城はどんな感じだ?」

「お風呂も広くてきれいだし、ご馳走もおいしいし、ベッドも大きくて最高だよ。お兄ちゃん」

 まるで宿屋の評価みたいになってるぞ。

「そうか」

 東の勇者はそれだけ言った。


 東の勇者は僕を見た。

「あと一つこちらからも魔王に伝えたいことがある」

「なんだ?」

 僕は少しだけ緊張した。


「ゲームは面白いなと魔王に伝えておいてくれ」

 

 どうやらゲームのファンがまた一人増えたようだ。

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