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勇者謝る

 触れた手がドラゴンの肌で、ザクザクに切れる。

 魔王はゲームのように抵抗はしなかった。

 ただ魔王は目を閉じて、笑っていた。

 

「ごめん」


 僕は、もう一度謝った。


 両親に。

 子供の頃の友達に。

 村のみんなに。


 あの日の僕に。

 

 恨みを晴らすことができなくて

 ごめんと。


 傷つけあうだけの、

 神に定められた運命なんて嫌に決まっている。


 体が感じる嫌悪感。

 人肌には程遠い、空気のように冷たい肌。

 胸のふくらみなどもあるわけがなく、

 肌に触れてしまうと、僕が怪我をしてしまうほどだ。


 人とは違う。

 恋心は抱けない。


 だけど、そんなことは関係ない。

 僕は魔王との約束を守る。


 僕は首筋から魔王が受けている魔法を調べた。


「大丈夫。これなら治せるよ」


 僕は魔法を選択する。


神聖魔法「サンダルフォン」


 天使が舞い降りる。

 男とも女ともつかない天使。

 天使は魔族の信仰を欲さない。

 だから僕が願う。

「魔王を治してくれ」

 仮初めの姿の天使は微笑むと、手を合わせて天国の歌を歌い出した。


 

 歌が魔王を包み込むと、

 呪いにも似た悪魔の毒素が抜けていく。   

 人のように顔色はわからない。

 ただ少し穏やかな表情になった。


 目を開くと、魔王は言った。

「ありがとう。勇者。治ったようだ」


「でも、殺してくれてもよかったのだぞ。君が魔法をかけてくれなければ、どうせ死んでいた命なのだから」

「そんな悲しいことを言うなよ。僕は魔王が生きていてくれてうれしい」

 僕はそういうと魔王を優しく両手で包み込んだ。

 

「勇者離してくれ。君が怪我してしまう」

 魔王がわずかに身をよじるが、僕は放さなかった。

「ちゃんと約束しただろう」

 僕は、ゲームの中で約束した。

 ハグすると、

 次は普通にしてあげると

「次はちゃんと覚悟してくるって」


 絶望の淵で、七色の竜種を倒すと誓ったのは、

 孤独な決意。

 約束ではない。

 

 僕は人と魔族を守る勇者。

 恨みで、魔王を殺すことよりも、

 もっと大切な使命がある。


「本当に君は約束を守る男だな」


 僕らは抱きしめあった。


 ようやく僕らは約束のうちの一つをこなすことができたのだった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「クラン、魔王は治せたのか?」

 部屋に案内されると、エレンがいた。

「ああ、治せたよ」

 エレンには、魔王の治癒のための訪問だとはなしてある。

 カレンちゃんとエレンには特に隠し事はしていない。

 バリィには、僕が『北』の勇者であると嘘をついてしまったが、

 和平のことも、魔王と直接話したかったのも本当だから、それ以外のことは特に嘘はついていない。

 できるだけ、嘘などつかずに仲をふかめたいものだ。


 僕は、荷物を部屋に置いて一息ついて、部屋を見渡した。

 エレンと二人部屋である。

 魔王が手配してくれたのだろう。

 魔王は信頼しているが、他の魔族の中には当然、人間嫌いもいる。

 部屋が違うと、いざという時に守ることができないので、致し方なしだ。

 部屋も広く、仕切りもついていて、当然ベッドも二つある。

 オークの村でも、数日二人で暮らしていたし仲間だし、気にするところはない。

 やましいところも何もない


 うん。何もない。

 何もない。

 何もないはずなんだ。


 普通だったら、僕もあまり気にならないはずなのだが、魔王がエレンの為に用意した寝巻きが、ものすごく薄手で、透けているわけでもないのに、体のラインがよくわかりいつも以上に魅力的だ。

 脚はむしろ普段より露出が控えめなはずなのにだ。


 魔王はどうして、エレンの魅力を上げるようなものを渡すかな。


「おい。クランめっちゃこのベッド、柔らかいぞ」


 ベッドを弾ませて遊ぶエレンは無邪気そのもの。

 エレンはなにも気にしていないみたいだった。


 とりあえず、エレンの姿はなるべく視界に入れないようにしよう。


「それで、和平の件はどうなった?」

 エレンが和平の件も聞いてくる。

「とにかく、まずは魔王と王で会談したいな」

 何はともあれ、和平交渉は対話からだろう。

「交渉するための場を設けたい」 

「直接会うのは、さすがにリスク高くないか」

「うん。そう思う。魔王もそう話してて、通信機に映像機能がついたもの、魔王はテレビデンワと言っていたが、そういう機械を魔王は持っているそうだ」

「さすがゲームつくれるだけあるな」

「テレビデンワで王と話をしたいということになった」

「どうやってやるんだ?」

「専用の通信機を王に渡して使ってもらうだけなんだけど、問題はどうやってその通信機を王に渡すかだな」

「ならお兄ちゃんにたのめばいいだろ」

「その手があったな」

 東の勇者は、王に謁見できると言っていた。

 東の勇者経由で、王に機械を渡せば、警戒せずに、機械を使ってもらえるかもしれない。

「そうなると、次の問題は、東の勇者にどうやって連絡をつけるかだな」

 王都まで帰ればいいだけの話なのだが、できれば急ぎたい。

 今は侵攻が止まっているが、うかうかしているとまた勇者たちが魔族領を攻めてくるかもしれないからだ。

「それなら、まかせろ」

 エレンが自信満々に言う。

「なんかあるのか?」

 僕が尋ねると、

 エレンはにやりと笑ってゲーム機を取り出した。

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